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第三章 デュセンバーグ王国へ(6)

 志乃が浴室に入ってから、二時間ほど経過した。

 ジークリンデは、心配でしかたがなかった。

 扉の近くで、行ったり来たりを繰り返す。

 しかし、扉に耳をつけて中の音を聞こうとか、そっと扉を開けて中の様子を見ようといった行動に出ることは辛うじてなかった。ただし、今のところはという但し書きはつくが。

 こうして、扉の前をうろうろしていたジークリンデだったが、そろそろ限界が近くなってきていた。

 こんなに長い時間出てこないなんて、中でのぼせているかもしれないと、そう考えると、いてもたってもいられなかったのだ。

 

「シノ? 大丈夫か? シノ?」


 何度も扉越しにそう声をかけるが返事がなかった。

 嫌な予感が最高潮に膨れ上がっていたジークリンデは、乱暴に扉を叩き始める。

 

「シノ? シノ!」


 一向に返事がないことに焦るジークリンデは、扉のノブをガチャガチャとさせる。

 志乃が忠告通りカギを掛けていることに安心しつつも、今はそのカギという存在が邪魔で仕方なかった。

 最悪の事態が頭をよぎったジークリンデは、しまっていた剣を抜いていた。

 ただし、内側に倒すようなことはしない。

 カギを壊した後、力ずくで外側に扉を引いたのだ。

 扉としての役目をもう果たさないであろう、木の板は大きな音を立てて床に倒れる。

 

「シノ!! はっ!!!」


 浴室で俯せで倒れている志乃に一瞬で駆け寄ったジークリンデは、生まれたままの姿の志乃の姿に視線をすぐに逸らす。

 近くに落ちていたバスタオルを掴み、それで志乃を包む。

 急いで志乃を抱き上げてベットに移動したジークリンデは、慌てて志乃に風を送る。

 本来、真っ白な志乃の肌が真っ赤になっており、ジークリンデは、オロオロとする。

 水差しからコップに水を汲んでみたものの、意識のない志乃が飲めるわけもなく。

 しかし、このままでは脱水症状を起こしてしまうと焦るジークリンデは、嫌われてしまうことを覚悟して、コップの水を口に含む。

 

 眠っている志乃に顔を近づけ、その唇に触れようとした時、志乃が瞼を震わせて目を覚ましたのだ。

 至近距離で志乃の濡れ羽色の美しい瞳を見たジークリンデは、ごくりと水を飲み込んでしまっていた。

 

「うぅぅ……。お…お水……」


 志乃の擦れ声に、ジークリンデは自分の使命を思い出していた。志乃の体を起こしてやり、慌てて水の入ったコップを志乃の唇に当てて傾ける。

 冷たい水が唇に触れたことに気が付いた志乃は、こくり水を飲み込む。

 その後も、ジークリンデに支えてもらいながら、こくこくと思う存分水を飲んだ志乃。

 ぼんやりとしながらも、意識を失う前のことを思い出し、ジークリンデが助けてくれたことを理解する。

 

「ジーク、ありがとうございます…………。え? あっ、き、きゃーーーーーー!!」


 ぺこりと頭を下げてジークリンデにお礼をした志乃だったが、視線が下がったことで今自分がタオル一枚の姿だということを知ると、両手で前を隠すような姿で悲鳴を上げていた。

 

「い、いや、ちが! 違うんだ! これは、シノが浴室で倒れていて! 見てない! 見てないから、何も見てないから!!」


 必死にそういうジークリンデは、両手を振って必死に何も見ていないと志乃にアピールをする。

 ジークリンデの必死な様子がなんだかおかしかった志乃は、ジークリンデは命の恩人だし、自分は子供体型で見てもたいして面白くもないだろうと考えた結果、ジークリンデを許すことにしていた。

 ただし、ちょっとばかりの仕返しはする。

 なんとなく、可愛らしく見えてジークリンデを揶揄うように、上目遣いでこう言ったのだ。

 

「本当に見ていないですか? それとも、私が子供すぎるから見ても楽しくなかったとか?」


 志乃の言葉を聞いたジークリンデは、一瞬何かを考えた後に、片手で顔を隠すようにして返していた。ただし、その耳は真っ赤になっていたが。

 

「す、すまない……。ほんの少しだけ見た……。だが、その……。き、綺麗だと思った……。って、違う。じっと見たわけではなく、一瞬だった。これは本当だから!」


 焦るようにそういう、ジークリンデだったが、志乃は思っても見ない賛辞を受けて、揶揄うつもりが、自分の方が恥ずかしい思いをする羽目に陥り、心臓が壊れてしまうかと思うほど胸がドキドキすることになったのだった。



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