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第三章 デュセンバーグ王国へ(2)

 スプーンを差し出された志乃はフリーズしていた。

 目の前の見知らぬ、イケメンが何故かあーんをしてくることに混乱中の志乃だったが、ジークリンデは、そんな志乃を他所にさらにスプーンを突き出すのだ。

 

「ほら、ハルトの作る料理はうまいぞ? いい子だから口を開けて、あーん」


 ままよ! とばかりに、ぎゅっと目を瞑った志乃は口を開けた。

 ジークリンデは、そんな志乃の様子を「ああ、可愛いな」と思いながらも、そっとその小さな口にスプーンを差し込んだ。

 半年ぶりのまともな食事に志乃は、自然と涙がこみ上げる。

 口に広がる、優しい甘みと少しの塩気、麦とサツマイモの優しい味の粥が志乃の体を優しく温めてくれた。

 

 突然泣き出した志乃に慌てたのはジークリンデだった。

 

「どうした? もしかして、熱かったか? どこか火傷をしたのか?」


 オロオロとするジークリンデが急に可愛らしく見えた志乃は、思わずと言った様子で笑ってしまっていた。

 その小さな笑みを見たジークリンデは、胸に砲弾がぶち当たったのような衝撃を受けていた。

 全力疾走した後のように鼓動が脈を打ち、呼吸が荒くなる。

 その可愛い笑顔をもっと見たいと思うジークリンデの表情は、見る者が虜になるような甘やかな、蕩けるよう、そんな表情だった。

 しかし、久しぶりのまともな食事に感動している志乃は、そんな顔面凶器と化したジークリンデには全く気が付いていなかった。

 

 可愛い志乃をもっと見ていたかったジークリンデだったが、自分の欲よりも志乃の食事の方が優先だと、再びスプーンに粥を掬って冷ます作業を開始した。

 志乃は、再び差し出されたスプーンに戸惑いながらも、差し出されるたびにそれを口にした。

 

 自分の差し出す粥を一生懸命に食べる志乃を見ていると、雛が親鳥からご飯を与えられている様子が頭に思い浮かび、より一層志乃が愛おしくなっていく。

 皿の中の粥がなくなった後、志乃の口元をハンカチで拭ったジークリンデは、優しい手つきで志乃の頭を撫でた。

 

「うん。いい子だ。少し眠るといい」


 起きたばかりではあったが、久しぶりに腹が満たされた志乃は、押し寄せてくる眠気には勝てなかった。

 こくりと小さく頷いた志乃は、そのままベッドに横になる。

 うとうととしながら、そう言えばまだ名前を聞いていなかったと思ったが、遅く、最後まで言葉を口にすることは出来なかった。

 

「あり……と、う……。わた…し、なま……、しの……。あ……なた……は…………」


 切れ切れにそう言った志乃は、そのまま眠りに落ちていたのだった。

 

 志乃の小さな呟きのような言葉を聞き逃さなかったジークリンデは、志乃の名前を聞いた瞬間、ドキリと大きな音を立てた心臓をぎゅっと押さえるように、胸に手を当てる。

 

「シノ……。シノ。君はシノというんだな……。ああ、名前まで可愛いのだな」


 知りたかった志乃の名前を聞くことのできたジークリンデは、上機嫌で食べ終わった食器をトレイに載せて部屋を出た。

 鼻歌交じりに、食器を洗ったジークリンデを見ていたハルバートは、そのいつにない上機嫌なジークリンデに不審な目を向けるも敢えて聞くことはしなかった。

 自分の中の誰かが警告したのだ。迂闊に声をかければ、面倒なこととになるぞと。

 

 そうこうしているうちに、立ち寄る予定だった街に着いたため、昨日渡された買い物リストを持って任務を果たすべくハルバートは立ち上がったのだった。

 

 

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