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覇王ゲーム  作者: ダルシム矢野
序章
1/18

プロローグ 

 これは世界の闇に葬られた真実の物語。フィクションのベールで隠されたノンフィクショナルな英雄譚。歴史の表舞台では語られることのない黙殺された物語。いざ刮耳せよ。


 2xxx年6月6日。全てはこの日より始まった。全世界のありとあらゆる分野の研究者たちが、同時に同様の内容の論文を発表した。その数は66,666にも及んだ。それらの論文は、各々が独自のアプローチで同じ結論を導き出しており、その最後は次の言葉で締められていた。


『66年後に人類は滅亡する』


 結論から言うと、この論文は示し合わせて書かれたものでも無ければ、デモ活動の一環でもない。単純に全世界の学者たちが偶然同じタイミングで、同じ結論の論文を発表したのだ。


 しかし、その事実を知らない各国の政府は、この同時多発レポート提出を学者たちによる一致団結した嫌がらせと断定し、無視を決め込んだ。全世界の民草たちも、学者たちによる国を相手取った大人気ないイタズラだなぁと思った。人類滅亡の警鐘を鳴らすそれらの論文は『タナトスレポート』と総称され、物笑いの種となった。


 そして月日は流れ、論文が発表されてから33年が経過した。

世界は飢餓と貧困に喘いでいた。環境汚染により土壌は汚れ、オゾン層は破壊され、日傘なくして日中は出歩くことが困難になった。これらは野菜の生産にとって致命的であり、一部のハイテクビニールハウスで収穫されるごく少量の野菜は、一般庶民には一生縁のない極上の嗜好品として、高額で取引されるようになった。


 野菜だけでなく、食用のお肉も同様に壊滅的な状況に陥っていた。牧畜用の土地は環境汚染により確保が困難になり、動物たちは地下の狭い一室で放牧された。入手困難な穀物飼料の代わりに、合成調味料を与えられるようになった家畜たちは元気がなくなり、痩せ衰えていった。その結果、収穫される肉の質と量は激減し、野菜と同じく肉もまた、究極の嗜好品として祀られるようになった。


 川には油が浮かび、ヌードリヤやブルーギルなどの凶悪な害獣に占拠された。人々は命がけで彼らの目を盗み汚水を持ち帰り、濾過と煮沸を繰り返しなんとか飲水を確保していた。


 日本政府はこの状況を重く見て、国民1人につき、1日1本のエナジードリンクと1食の栄養補給ゼリー、さらに汚水を濾過するために砂と手ぬぐいの配給を決定した。世界初の配給は各国から称賛され、世界的に配給制度が確立するきっかけとなった。この日本政府の英断により、人々はなんとか命を繋ぎ止めることが可能となった。



 33年で世界人口は半減していた。


 結果だけ見れば、政府は無能と蔑む輩もいるかもしれないが、各国の政府とて指を加えて世界が滅亡に向かっていく様を眺めていたわけでは無い。

 タナトスレポートが発表されて5年が経つ頃には、どうやらレポートの内容は本当っぽいというのが、各国の首脳陣の共通認識になっていた。


 そこで開かれたのが『第一回タナトス大会談』である。世界各国の首脳陣が一斉に集まり、タナトスレポートの感想と世界滅亡の対策を話し合う会議だ。この会議により対策が急務とされたのが、環境汚染と食糧問題である。


 この会議以降、各国は世界ぐるみでゴミの分別、ポイ捨ての禁止、更には米や小麦、干し肉の貯蔵を呼びかけた。しかし年々、状況は加速度的に悪化していき、あらゆる政策が報われることなく、水泡に帰していった。


 タナトスレポートが発表されてから33年目、第28回タナトス大会談の会場は重い空気に覆われていた。集いし首脳陣たちは、皆暗い顔で俯き誰も口を開かない。約200人の高名な政治家が、一様に口を真一文字に結び、テーブルに項垂れている姿は異様であった。


 しかしながら、当然と言えば当然である。あらゆる策が一切の効果を発揮せず、状況だけが悪化する。もはや万策尽き果て、どうすることもできないのだ。ここにいる皆が口にはしないが諦めている。諦めていないにしろ、打つ手は何もない。それがこの沈黙である。人類はこのまま33年後に滅亡するのだ。


 皆が頭を抱える中、会議室のドアが勢いよく開かれた。そしてスーツ姿の男が息を切らしながら、部屋に駆け込んできて声を上げた。この瞬間、運命の歯車は大きく動き出す。


「伝令!! 予言書の解読に成功しました!! 覇王ゲームです!! 覇王ゲームだったんです!!」


 俯いていた200人が一斉に顔を上げ、スーツ姿の男を凝視した。彼らの瞳には先程と違い、希望の光が宿っていた。




 時を遡る事10年。この年に開催された、第17回タナトス大会談において取り上げられたのが『ダルヤノスの大予言』である。ダルヤノスとは、ノストラダムスと並び称される世界的な預言者であり、予言の的中率は当時の段階で100%を誇っていた。


 そこに目をつけた日本首相は、その予言の中に現状を打破するヒントが隠されていると考え、予言書の精査を担当するチームを編成した。


 予言の解読は難航を極めた。解読班は不眠不休で作業を続けた。思わしい成果が出ず、首相に嫌味を言われたり、税金の無駄遣いと近隣住民に石を投げられたりする日々の中で、彼らは精神的にも肉体的にも追い詰められていった。


 それでも破滅の運命を変えるため、解読班は作業に没頭した。そんなある日、最初は好意的で、差し入れを持ってきてくれていたアパートの大家さんまでもが、近隣住民と一緒に石を投げて来たことにより、チームの1人が発狂して失踪した。

 

 アパートの窓からは、日夜チームの立ち退きを求める市民運動の怒号が聞こえる。最初は30人のメンバーでひしめき合っていたアパートの一室は、今やリーダーの男1人しか居ない。日毎に失踪していく構成員を片目に、彼だけは正気を保ち作業に従事していた。


 そんな彼もいよいよ限界に達しようとしていたが、10年の歳月を経て、ついに予言書の解読に成功したんだ。



『ダルヤノスの予言書 破滅編

 2xxx年より66年後 世界 滅ぶ

 覇王ゲーム やれば 世界 滅ばない』


『ダルヤノスの予言書 救済編

 覇王ゲーム 野生の 救世主 見つける

 強い奴 集めて 戦わせて 勝ったやつ 一番強い

 そいつに 全部 任せる

 世界 救われる 』


 解読班のリーダーは狂喜乱舞して、アパートを飛び出し自転車に飛び乗り空港に向かった。サドルが抜かれ、パンクした自転車での走行は困難であったが、彼は無我夢中でペダルを回した。そして明日、タナトス大会談が開かれる予定のハワイに飛び立った。


 リーダーが会場に着くと、会談はすでに始まっていた。彼は全速力で廊下を疾走した。途中ですれ違う警備員が、廊下を走るなと怒鳴っていたが、気にせず全力で走り抜けた。


 息も絶え絶えに、会議室の前までたどり着いた彼は、ドアを蹴破る勢いで蹴っ飛ばし、会場に入ると声高らかに咆哮した。


「伝令!! 予言書の解読に成功しました!! 覇王ゲームです!! 覇王ゲームだったんです!!」


 一斉に向けられた200対の400の眼光にも怯むことなく、男はネクタイを引き千切り叫んだ。


「我々は、ダルヤノスの救世の大予言を完璧に解読しました!! 人類の滅亡は回避できます!!」


 会場がどよめいた。先程までの静寂が嘘のように、やいのやいのと首脳陣がざわめき立つ。喧騒の中、日本国首相がテーブルから立ち上がり、男の前まで歩み出た。


「誰だか存じ上げませんが、お手柄ですよ。同じ日本人として誇らしいです。詳細をお教え願えますかね?」


「ハッ! 報告いたします! ダルヤノスの予言によりますと、覇王ゲームという大会を開いて、世界で最も優れた野生の救世主を見つけ出し、世界の命運を握らせれば、人類は滅亡しないとのことです!!」


 男の説明を聞くと、会場が色めき立った。確かに一理ある。理にかなった作戦だ。至るところから賛同の私語が聞こえてくる。


「つまり、人間で蠱毒を行うということですか?」


「首相、それは違います! 予言書には覇王ゲームの全行程が書かれていましたが、蠱毒なんて非人道的な要素はありません! 言ってみれば大規模な運動会のようなものとお考えください」


「なるほど。皆さん! 聞いての通りです! もはや万策尽き果て、時間もない! ならば、やりましょう!! 覇王ゲームとやらを!!」


「「ウオオオオオオオオオオ!!!!!」」


「では、親切にも予言を解読してくれた君。諸々の準備は君に一任します。各国首脳の方々と連帯し、広報及び開催の段取り、頼みましたよ」


 かくして、世界の命運を握る覇王ゲームの開催が決定した。




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[良い点] ギャグ路線の小説で作者が笑かそうとしているのが伝わる。 [気になる点] 毎日一本のエナジードリンクと栄養補給ゼリーを支給するのは現実的ではなく理解しにくいと感じた。 世界が飢餓と貧困に喘い…
[良い点] これまでなろうになかった本格的なSF作品で名作の予感を感じる。 この『プロローグ』では主にバックグラウンドの説明であり主要登場人物は一切出てこないが独創的な舞台とどこか現実なのではないかと…
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