公平な四兄弟
「近所の団子屋で数量限定販売されている、この『ハッピーみたらし団子』…… 今から俺たち兄弟で、公平に分けようと思う」
三つの団子が刺さった串が乗る皿を示し、長男である兄貴はそう言った。彼と向かい合う俺の隣に、妹と弟が座っている。
「食べれば最高にハイになる、この絶品団子…… 食べる者も、それに相応しい人間であるべきだと思う。誰がこの団子を食べるのに相応しいか、公平に話し合いで決めよう。ちなみに俺はこの前、中間テストで学年一位を取りました」
話し合いと言いながらも、真っ先にマウントを取りにくる高校生の兄貴。三つある団子の内の一つを、フォークを使って自分の小皿に移した。生真面目な表情を浮かべているくせに、とんだ食わせ者である。さすがは学年一位。
「なるほど、一理あるね…… この『ハッピーみたらし団子』は存在自体が尊いし、団子側にも、誰に食べてもらうか選ぶ権利はあると思う。ちなみに私はこの前、ピアノのコンクールで最優秀賞を取りました」
兄貴に続いて、小学生の妹も己の力を誇示しにかかる。まだ年齢は二桁にも到達していないというのに、勝利への嗅覚が凄まじい。さすがは最優秀賞。兄貴は深く頷き、妹の小皿に団子を一つ移した。串に刺さる団子は、残り一つ。
華々しい成功体験を持つ彼らに恐れおののきながらも、しかし俺は安堵していた。なぜなら俺の隣に座る三男の弟は、二桁どころか五指にすら収まる年齢の幼稚園児だ。学年一位、最優秀賞、そんな煌びやかな成績を保持していないことも知っている。それらの言葉の意味すらよく分かっていないだろう。どうやら三つ目の団子は俺の物のようだ。
俺が団子を手にする手段を考えていたその時、弟がゆっくりと口を開いた。
「ぼく、きのう…… 同じ組のゆりちゃんと、ちゅーしました」
ワッ、と歓声が湧いた。兄貴と妹によるものだった。妹は小躍りをして、兄貴は弟をたかいたかいした。思春期真っ盛りである中学生の俺は、彼らのように最年少の弟の成長を我が事のように喜ぶことも出来ず、奥歯を強く噛み締めるしかなかった。多分、血の涙も出ていることだろう。
三人が俺を、ジッと見ている。
俺は熟考した。しかし彼らのようなアピールポイントは、平凡な俺には無かった。
「その沈黙が、答えのようだな」
見かねた兄貴がそう言って、弟の小皿に最後の団子を移した。確かに俺の人生には、アピールになるような特筆すべきものは無い。
しかし俺が本当に言いたかったのは、そこではなかった。
「……四本あるんだから、一人一本で良くない?」
兄貴の手元にある『ハッピーみたらし団子』の串は四本。一本につき三個、計十二個の団子がある。四人で四本、一人に一本ずつ。俺の訴えには、正当性があるはずだ。
「駄目だ。それではこの『ハッピーみたらし団子』に失礼だ。最後まで公平に、話し合いで取り分を決めよう」
兄貴の言い分に妹と弟も首肯した。果たして俺は、この団子を一つでも食すことが出来るのか。
「……あ、忘れてた。父さんと母さんの分も、公平に分けておかないとな」
兄貴がぽつりとそう呟く。俺は熟考する。