3
これから授業を受ける時、どうするべきかを考えていたら、もう体育の時間になってしまっていた。
まだ、しっかりとした心構えも出来ていない状況。あまり気乗りはしないけれども、やるしかないだろう。
更衣室で体操服に着替えて、グラウンドに出る。気候はそれなり。倒れる心配もない。
先生の指導に従い、整列して準備体操をする。ここまでは問題ない。
その後に言われることが、問題ではあるけれど。
「前に行ったように、二人組で今日の体育は進めていきます。ではお願いしますね」
その言葉で、各々が別々に仲の良さそうな人と二人組になっていく。
私に近づこうとする人は当然いない。当たり前だ、あまり自分から他人に関わろうとしない私に近づくような物好きはそうそういないだろう。
少しの時間が経過して、ちょうど余ったのは二人。私と大人しそうな子だった。
「……じゃあ、歌詫音さん。湖水さんと一緒で大丈夫?」
「構いません」
先生の言葉で、大人しい子のことを少し思い出した。
湖水静香。名前が示すように、物静かで落ち着いた存在。自己紹介の時ですらオドオドしていた記憶がある。それ以上に印象はない。グループに属している様子でもなければ、誰かと関わっていることもなかったから。
緊張した様子で、湖水さんが私に近づいてくる。怖い人と組んでしまったと思われているのだろうか。
「よ、よろしくお願いします……!」
たどたどしく、そう言葉にしてきた。
「……よろしくお願いします」
それに対して、私はそつなく返答をした。相手からしても、馴れ馴れしくされるのも面倒だろう。
「では、これから、二人で行うことを説明しますのでよく聞いていてくださいね」
先生がそう述べて、説明を加えていく。
簡単な運動、サッカーボールを渡しあう。それなりに単純だ。運動神経もさして求められないだろう。
湖水さんがどういう人かはわからないが、面倒でなければそれでいい。
先生の命令に従って、二人の運動をこなしていく。
「湖水さん、大丈夫?」
「あ、はいっ……大丈夫です。むしろ、足を引っ張ってませんか?」
下向きな発想だ。
他人と関わろうとしないタイプであったとしても、迷惑を避けたいからといった側面が強そうな。
「別に、他人がどうであれ問題はないわ。無理だけはしないでほしいけど」
「どうしてですか……?」
「単純に、面倒だからよ」
保健室に連れ出して事情を話したりするのも、周囲の目を気にするのも面倒だ。別に助けるのが特別嫌だというわけではないけれど。
体育の授業が続いていく。
湖水さんの運動神経はそこまで悪いものではなかった。
そつなく運動もこなすし、サッカーボールのコントロールも悪くない。平均くらいの身体能力はあると感じた。
私については、それなりに運動神経がある方だと自覚しているので、面倒でも彼女のペースに合わせた。無理に強く打ってボールを拾わせたりするのは少し、かわいそうだ。
ふと、ボールを蹴っている彼女の瞳に目が行った。
少し元気そうな様子。
あまりこういう場面に遭遇したことがないのだろうか。まるで、新しい何かに触れているような表情をしていた。
「……事情がある?」
他人に興味を持つことはそうそうない。
だけれども、表情の変化くらいは気になった。曲がりなりにも一緒に行動している相手だ。
彼女の表情が悪いものにならないように、少しだけ意識してサッカーボールの受け渡しをする。これくらいはストレスにならない。
しばらくの時間をそうして流していったのち、大人数のサッカーが始まった。
私は油断せず、やるべきことをやっていた。来たボールはそれなりに返して、動いていないと思われないように行動する。
動きに余裕が出てきたタイミングで、ふと湖水さんに目が行った。
誰とも関わらないような位置に移動し、ボールの動かせる位置を妨害するような動きをしていた。ボールに触れないように、そして、他人と関わらないように。
「……まさか、似た者同士?」
彼女も他人と関わるのが好きではないほうの人間なのだろうか。
私とは性質が違うけれど、他人のことを気にしたくないタイプなのかもしれない。
二人組を作る際に、余っていた私と彼女。
他人を気にすることが少ない私が、不思議と他人を気にしていた。
湖水静香。なんだか独特な相手を組んでしまった気がする。




