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荒くれ騎士の嘆き歌  作者: OWL
第二章 母の愛(1427~1428)
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第7話 近衛騎士と親衛隊

 帝都を構成する五大都市のひとつモアネッド市は北西部の山脈に面している。

この大天文台で東方候と会談が行われるため、近衛騎士と近衛兵団、そして親衛隊が詰めていた。近衛騎士長ヴォイチェフが負傷療養中であり、今率いているのはライオネルというまだ三十歳ほどの騎士だった。


近衛騎士の一人シクストゥスが、天文台の外壁を巡回中にライオネルと合流した時異変は起きた。ライオネルが持つトルヴァシュトラの聖印が警告を発するように音を立てはじめた。彼の持つ聖印は神器であり、所有者に悪意を持つ生命体に反応する。


「どうしたライオネル?」

「シクストゥス、アルマキウス師を呼ぼう。近くに何者かが潜んでいるぞ」


ライオネルには敵の居場所までは分からなかった。


「確かか?今は大事な会談中だ、師も自分の持ち場で周囲を警戒しておられる」

「はっきりさせる為に師を呼んでくるんだ。俺がここにいる限り敵も身動きはとれん筈だ」


皇帝カールマーンには即位した時に七人の騎士を任命したが、そのうち四人は『マッサリアの災厄』で死亡し、近衛騎士長ヴォイチェフも大怪我をしている。シクストゥスはライオネルの指示に従って一度天文台の中にいる宮廷魔術師アルマキウスの元へ急いだ。


ライオネルは盾を構えて、近衛兵と共に周囲を警戒したが、辺りは暗い森で何も見えない。近衛兵から三名を森の中に偵察に出したがすぐに反応が消えた。


救出に行くか、防衛に専念するかライオネルは迷った。

皇帝から神器の武具を与えられている自分はともかく近衛兵たちは優秀な貴族の子弟ではあるが、魔導騎士にはなれなかった者達だ。


ライオネルは結局密集隊形を取り、通路を死守する事にした。


 シクストゥスは持ち場を離れる事を渋るアルマキウスをどうにかなだめすかして、階段を降りて通路に戻ってくるその時、ついに賊が森の中から現れてライオネルの元へ走って行くのが見えた。


「一人だけか?いい度胸だ」


賊の姿を視認したシクストゥスは警笛を吹いて、周囲や天文台内部を警備している全近衛兵と親衛隊に敵襲を告げた。


賊は警笛を気にせずたった一人で近衛兵をすり抜けてライオネルの下へ向かう。


ライオネルは剣を構え賊を迎え撃ち、二人の体が重なった時大爆発が起きた。

アルマキウスは咄嗟に魔術で空気の壁を作って防御したがシクストゥスまでは守り切れなかった。シクストゥスはその衝撃波で壁に叩きつけられて意識を失ってしまった。


 ◇◆◇


 カールマーン達がいる観測室の外で廊下を警備していた親衛隊12名は爆発音を聞いたが、持ち場を離れず賊の撃退は近衛兵団に任せた。

近衛騎士は皇帝の剣たる役割を持つが、親衛隊は皇帝の盾として常に側にあるのが任務だ。


親衛隊長サビニウスは本来、カールマーンの兄アールバードの親衛隊としてトゥレラ家に選抜された魔導騎士である。近衛騎士達は基本的に帝国騎士の中から選ばれるが、親衛隊は皇帝の出身皇家に仕えている騎士だった。


この時、サビニウスは賊の撃退は近衛兵団がやると思っていたが、ここにいる近衛騎士は運悪く二人とも既に戦闘不能となっており、残りは一人だけ。

頭脳たるアルマキウスは賊によって既に殺害されていた事を知らない。魔術師単独では賊には抗しきれなかった。


近衛兵団には指揮官として近衛兵団長がいるのだが、兵団長は帝都の大宮殿を警備していて今回は近衛騎士が直卒していた。


今、このモアネッド天文台は指揮系統が失われ各個撃破される状態に陥っている。


しかし、その情勢の知らせもサビニウスの元へは届かない。

あちこちで爆発音が響き、強固な天文台の壁が破壊されていく音が聞こえる。

親衛隊は焦れつつも応戦している筈の近衛騎士からの報告を待った。


フランデアン王の騎士達も動けない。

現場は近衛兵団の管轄下にあって、外国人の彼らは自由に動けないし、勝手に動けばあらぬ疑いを招く。騎士の一人が観測室に入って主君から善後策の指示を仰ぎに行くというのでサビニウスも一人をつけて向かわせた。そして別の親衛隊員に近衛騎士を探してくるよう指示した。

その隊員は近衛騎士らを連れてすぐに戻って来た。

周囲の爆発音も既に止まっている。


連れて来られた近衛騎士はヴォイチェフに次ぐ実力者のオケアロス。

暗い廊下の中で皇帝に下賜された神器の鎧が鈍い光を放っていた。


「オケアロス殿!状況は?」


しかしオケアロスは無言で答えず、親衛隊員を背中から剣で刺し貫いた。


「なっ!?何をするか!!」


裏切ったか?とサビニウスは思ったが、近衛騎士のオケアロスはやろうと思えばいつでも皇帝を殺害出来た筈であるから筋が通らない。目的はフランデアン王?いや、だとしたら彼が皇帝と共にいる時を狙う必要はない。わざわざ皇帝の護衛もいて襲撃が最も困難な時に実行しても失敗する可能性が高い。モアネッド市の山中には見張り砦がいくつもあり、この襲撃も王都防衛軍団が察知してすぐに飛んでくる筈だ。


サビニウスが混乱している間にもオケアロスは次々と親衛隊員を殺害していった。

いや、オケアロスだけでなく近衛兵達も槍を向けてきている。他の親衛隊員も混乱して、実力を発揮できぬままに次々と死んでいった。


 ◇◆◇


 サビニウスは隣の親衛隊員と共に暗い廊下をじりじりと後退して扉を死守する構えを見せた。敵中に取り残された7名の隊員の断末魔の声が響き渡る。

始末をつけたオケアロス達がサビニウス達に向き直り、凶刃を再び掲げた時、ようやく観測室からフランデアン王達が出て来た。


「これは?」

「裏切りです。申し訳ない。近衛兵団の裏切りです」


サビニウスは事実だけを告げた。


「ふむ、妙だが仕方ない。アルトゥール、『マリア』と皇帝の護衛を。オルランドゥは私の背中を守れ」

「はっ」「了解」


フランデアンの騎士達は二手に分かれて襲撃に対応した。

近衛兵の中から弩を持ったものが歩み出てフランデアン王に矢弾を撃ちかけるが、彼は左手をかざしただけで矢を空中で止めてしまった。手を振り払う仕草をするとそれでパラパラと廊下に弾が落ちる。


「さすがは妖精王・・・」

「ここは私に任せて貰おうか、親衛隊長殿。扉を守っていてくれ」


フランデアン王は片手で大剣を抜き放ち、枝を掃うように近衛兵たちを切り裂いていった。小柄な体で大剣を軽く振り回す様子は小さな竜巻のようだった。


無言で襲ってきていた近衛兵達の挙動に変化が見られた。

突然恐怖に襲われたかのようにたじろいで後退し始めたがフランデアン王は、何らかの魔術を使って床下から植物の根を飛び出させて足に絡めて拘束し、容赦せず近衛兵達を真っ二つにしてしまった。


形勢は完全に逆転した。

フランデアン王の目前から逃れて脇へ退いた者達もフランデアン騎士が持つ大斧や戦槌で兜ごと頭を砕かれて死んでいく。オルランドゥという騎士は頭に食い込ませた斧を抜く為に近衛兵を足蹴にして壁まで蹴り飛ばした。つい先ほどまで同僚だった彼らの無惨な死に、サビニウスも同情を禁じ得なかった。


オケアロスでさえも勝てないと判断したのか、背を向けて逃げた。

しかしフランデアン王は再び手をかざして、何らかの魔力で彼を掴まえて自分の元へ引き寄せた。オケアロスは両手から武具を取り落し自分の喉を抑えて、空中で苦しんでいる。


「親衛隊長殿、拘束を」


「はい。・・・お前達、オケアロスを拘束しろ」


サビニウスは部下に指示を出して空中のオケアロスを引きずりおろさせた。

親衛隊の生き残り二名はオケアロスを地面にうつぶせにさせて、体重を乗せて拘束した。


 ◇◆◇


「終わったの?」


 サビニウスらが味方と敵?の死体を選り分けて廊下に積んでいる最中にウルゴンヌ女王が扉を開けて顔を出してきた。


「ああ。だが、まだ中にいなさい。完全に終わったかどうかはまだわからない。そうですね、親衛隊長殿」

「はい、すぐに軍団兵が駆け付けてきます。しばらくは皇帝陛下と共にお待ちください」


そら、といってフランデアン王が女王を再び観測室に押し返そうとした時、全員の注意が死体から離れた。正確には既に死亡していると思われた近衛兵のものから、だ。


倒れていた近衛兵は突然起き上がり、オケアロスの懐に手を伸ばし爆発物を起動した。オケアロスの体は爆散し、その近衛兵も巻き込まれて死亡した。

サビニウスやフランデアン王でさえも突然の爆発から身を守れず観測室内にまで吹き飛ばされた。

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2022/2/1
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