第41話 最古の王国の妖精王子⑤
コンスタンツィアが行方不明になったとの情報を聞いたフィリップはマグナウラ院の二年目の最中だったが、まだ今年の授業の開始前だったので母国に戻って来ていた。
「では、父上。コンスタンツィア殿の捜索はバルアレスの騎士らに任せたのですか?」
フィリップはコンスタンツィア達が行方不明になったと聞いて自ら捜索に赴こうとしたが、父に止められてしまっていた。
「まさか。他の外海側の諸国にも依頼したしヴェイルやラグランも捜索隊に加えている」
「しかし、捜索の主導は彼らなのでしょう?」
「当然だ。現地の人々に任せた方が良い」
フィリップはコンスタンツィアが死体で発見された場合、帝国に責任を押し付けられる事を危惧してもっと本腰を、と父に迫ったがそれは拒否された。
「我々は東方諸王国の代表者ではあるが、彼らに対して頭ごなしに命令できる立場ではない。お前は学院で諸国の学生達に持ちあげられ、おだてられているのだろうが勘違いするな。所詮社交辞令だ、頭に乗って彼らに命令などするなよ」
シャールミンは自分の学生時代を思い出す。帝国貴族の重鎮達までもが贈り物を持ってやってきた。彼らは懐柔しようとしたり、堕落させようとしたり、或いは他の国と仲違いさせようとしたり様々な思惑を持って近づいて来ていた。
父が何かを思い出す風なのをフィリップも察した。
彼もやはり周辺国の王子や姫君達から学院で随分と可愛がられている。
「それは分かりますが、他の王子達の話を聞いているとやはり内心帝国を不快に思っている国も多く、熱心に捜索をしてくれない恐れも・・・」
「だろうな」
え、それだけですか?とフィリップは父にいいそうになった。
騎士の鑑として世間に謳われている人物にしては冷たい。
「ダルムント方伯の御令嬢だろうとなんであろうと一人の人間に過ぎない。世の中他にもいくらでも行方不明者はいるのだ。我々は十分大規模な捜索活動をしている。結果がどうあろうと皇帝にとやかく言われる筋合いは無いし、向こうもそんな気はないだろう」
「しかし、私は直接コンスタンツィア殿に会いましたが若くても立派な志をもった女性だと感銘を受けました。このまま見捨てるなんて・・・」
どうか再考を迫るフィリップだったが、父は決定を変えなかった。
そこでフィリップは側に控える騎士にも話を振った。
「アルトゥール殿、卿はそれでよろしいのですか?」
「陛下の行いは騎士道に違反しておりません」
故あってフランデアン王が騎士道に反する行いをした時、刺し殺すと宣言しているアルトゥール・ザルツァに水を向けても彼も王の判断に意を挟まなかった。
さっさと学院に戻れといわれたフィリップは、再び転移陣を利用して帝都に舞い戻った。
◇◆◇
「どう思う、フランツ?」
「どう思うっていわれてもねえ、陛下達は必要な事は十分やってると思うけど」
「お前までそんな事をいうのか」
フィリップはむくれる。
彼は父と母の騎士物語を聞いて育ち、騎士として姫君を救い出す冒険に憧れているのだった。こうなったら自分で助け出しにいこうとフランツに提案し始めた。
イーネフィール大公領はスパーニア王国時代から五大公のひとつで国家待遇を受けている為、長男のフランツもマグナウラ院に通う資格があり帯同している。
「いやいやいや、どうしちゃったの殿下。まさか彼女に惚れちゃったの?」
コンスタンツィアと出会ってから既に二年近く経過していた。
それでも小柄な妖精王の子のフィリップの容姿はまだまだ幼い。コンスタンツィアとはかなり差があって釣り合いが取れないし、彼は妹のセイラとフィリップの仲を応援したいのだった。
「ばか!そんなんじゃない。僕が父上の後を継ぐにはそれくらいの名声が必要だろ」
「そんなに焦る必要ないでしょ」
「もう12になるんだぞ」
フランデアンの男子は独り立ちしている年頃である。
12歳となれば既に結婚しているものさえいた。帝国では成人年齢が15歳~18歳くらいでイーネフィール領も価値観はそちらに近かったのでフランツとフィリップで少し認識がずれている。
フィリップは結局フランツの反対を押し切って他の留学中の王子にお願いして通行証を入手し自ら捜索に出発してしまった。東方諸国の王子達には騎士道症候群ともいうべき流行り病が流行していてフィリップの誘いに乗ってしまったのだ。
かくして通行証も入手し、意気ようようとフィリップは旅立った。
フランツは嘆きながらもお守り役として付き従い、一応父らに手紙は送っておいた。




