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荒くれ騎士の嘆き歌  作者: OWL
第一章 すれ違う人々(1425-1427)
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第37話 選帝侯の孫娘➃

 故郷から遠く離れた土地でしかも自分達に敵意を持つ民族の支配領域で少女三人が岩に囲まれた狭い浜辺に投げ出されてしまった。身近に頼れる男性はいない。


もし一人だったらコンスタンツィアは自暴自棄になって泣き出していたかもしれない。そうならなかったのは周囲に自分の都合に付き合わせてしまった友人がいたからだ。責任感が彼女の精神を繋ぎ止めなんとか体を動かしていたが、裸足では沿岸部の岩肌を10分と歩けなかった。


少しだけ内陸の森に入り、潮の音を聞きながら北上を試みて気が付いた時には森は暗くなり始めていた。慌てて寝る場所を確保しようとしたが、すぐに真っ暗になってしまった。

疲れ果てていたので三人身を寄せて何も食べず、飲む事も無く眠った。


翌朝、また沿岸まで出た時三人は絶望する。

昨日の出発地点にあった漂着地の大岩に囲まれた小さな浜辺が見えた。

一日かけて歩いても入り江の対岸にいただけだ。

それもさして広くも無い入り江の・・・。


ヴィターシャとヴァネッサはコンスタンツィアが膝をついて言葉も出ない様子を見て、この状況はコンスタンツィアでもコントロール出来ていないのだと、現実を理解した。これまではまだコンスタンツィアならなんとかしてくれるという希望も残っていた。


ヴァネッサは我を失って叫んで森の中へ入って行った。


「もうイヤ!国に帰るんだから!!誰でもいいから返事して!誰か、誰かいませんかー!!」


ヴィターシャはヴァネッサを止める気力も無く、それを見送ったがしばらくして気を取り直しコンスタンツィアを揺すり、声をかけた。


「コンスタンツィア様、コンスタンツィア様!しっかりしてください。ヴァネッサが一人で森へ」

「え、あ。あぁ、御免なさい。そうね・・・追いかけましょう」


二人は彼女を追って森へ踏み入った。森の奥は腐葉土が柔らかく彼女達の裸足の足裏を保護してくれて意外と気持ちが良い。


ヴァネッサは意外と元気に大声で叫びながらずんずん奥へ奥へと走っていっていた。その声を頼りに追いかけているが、何故かあちこちに反響していて正確な居場所がわからない。近いようで遠い気がする。

そしてこの森では帝国本土では見た事も無いほど巨大な木が並んでいる。その木々の間には白く輝く糸が伸びていた。


「コンスタンツィア様・・・あれ」

「ええ・・・、蜘蛛の糸かしらね。落とし主はかなり大きいかも、まさかクンデルネビュアのアラネーア?」

「脅かすのは止めて下さい。アラネーアは東方圏の西部から中央部の山脈にいる魔獣でしょう?」


アラネーアとは古代の帝国軍も現代の帝国騎士も討伐に失敗した巨大な魔獣の名前である。下半身は蜘蛛、上半身は鳥で女性的な姿をしている。

この魔獣は亡者達を率いてクンデルネビュア山脈を移動し北はフランデアン、南はアルシア王国付近にさえ目撃例があった。


「そうね・・・地図で憶えている限りでは山脈は東の沿岸までは伸びてないわよね。でも霧が出てきたら危ないかも・・・旧都の亡者達も霧と共に移動するから」


コンスタンツィアは聖堂騎士達から聞いた旧都の様子を聞いて身をぶるっと震わせた。


「とにかくヴァネッサに大声を出すのは止めさせて方がいいですね・・・あれ?声がしなくなった」

「いい加減疲れたのかも」


二人はヴァネッサを追おうにも、足跡も発見出来なかった。

もうどのくらい歩いたのかもわからない。どちらの方角から来たのかさえも・・・。

どうしたものかと悩んでいるとヴァネッサの悲鳴が聞こえた。


「あっちよ!」


二人は走って向かうが、悲鳴はすぐに消えてしまう。

彼女達は慎重に歩み寄って行った。


◇◆◇


 数分と経たずに二人はヴァネッサを発見したが、彼女は呆然と目の前の巨大な白蜘蛛を見上げていた。二人はすぐに飛び出さず様子を観察した。


(やっぱりアラネーア?)

(いえ、大きいけれど蜘蛛には違いないわ。亡者も伴っていないし)


蜘蛛はその頭だけでも彼女達より大きい。爪を振り上げてはいるが、しばらくして下ろしヴァネッサが身じろぎするとまた振り上げた。そしてまた彼女がびくついて硬直すると戸惑ったように下ろした。


(あまり敵意は無いのかしら?)

(そうみえますね・・・)

(じゃあ、わたくしが連れ出してくるから貴女はここにいて。もしもの時は一人で生きなさい)


ちょっ、とヴィターシャが声を出しそうになり慌てて口を抑え、コンスタンツィアはヴァネッサの前に出て行った。白蜘蛛は少し後退してその場を譲ってくれた。

そしてコンスタンツィアはヴァネッサの手を取り、助け起こした。


「さ、行きましょう。この子が譲ってくれている間に」

「ま、待ってください。私、ここにつまづいて。これ、これ!」


ヴァネッサは引っ張られる手を握り返してコンスタンツィアを引き留めて地面を指さした。


コンスタンツィアが足元をよく見ると苔で覆われた石の床がある。長方形で明らかに人間が切り出したものだ。


「街でもあるの・・・?ううん、こんな大きな蜘蛛、魔獣?がいたら住めないわよね。苔に埋もれていたし、相当古い遺跡かしら・・・」


何にせよ雨風は凌げると思い、もう少しだけ先に踏み込んだ。

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2022/2/1
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