第19話 運命の日③
エドヴァルドが投げた槍はコリーナを部屋の壁ごと吹き飛ばした。
クベーラはその壁に出来た穴に飛び込み、向こうの部屋で爆薬に点火した。
たちまち大爆発が発生し、エドヴァルドは床に伏せたが爆圧が襲い掛かる。
だが、予想より衝撃が少ない。
「コニー?」
コンスタンツィアが覆いかぶさって魔力の壁でその圧力からエドヴァルドを守っていた。
「無理をするな!」
<<平気よ。・・・爆風では本体は傷つかないから>>
「でも」
<<大丈夫。愛の女神の奇跡は愛する人を死から守るの。エドはわたしが守ってあげる>>
エドヴァルドはコンスタンツィアの幽体から感じる力が急速に弱っていくのを感じた。爆風が収まってから急いで地上に戻る。
その間にもコンスタンツィアから感じる力がいつものように遠ざかっていくというより薄れていく。自分と重なり合っているのに温もりを感じない。むしろ冷えていった。
<<エド、・・・約束を忘れないでね。愛してるわ>>
「約束?何の話だ!?」
最後にもう一度愛してると言い残してコンスタンツィアは消えた。
残されたエドヴァルドの胸中は不安と焦燥感で満たされて、全力で我が家に駆け戻った。
民家の屋根をひた走り、風神よりも迅く、帝都を駆け抜けた。
負荷に耐えきれなくなった魔石が砕け散った頃には夜が明けた。
長屋に辿り着き、階段を駆け上るとノエムが来ていた。
「あら、エドヴァルド君。そんなに血相を変えてどうしたんです?」
「どいて!」
エドヴァルドはノエムを押しのけて自宅の扉を開き中に駆け込むと、そこには一人の男がいた。コンスタンツィアは血まみれで床に倒れている。
男の手に刃物を確認するとエドヴァルドは即座に男の心臓に手刀を叩きこみ、貫いた。左手で男を突き飛ばし、血塗れの手でコンスタンツィアを抱き上げる。
「コニー!どうした!?何があった?目を覚ませ、覚ましてくれ!!」
コンスタンツィアはお腹を除いて全身を切り刻まれていた。
両目が切り裂かれて、喉からも血を流し、なんの反応も無い。
完全に絶命している。
奇跡は無かった。
早朝の長屋にエドヴァルドの慟哭が響き渡る。
◇◆◇
ノエムは状況を察すると近所の人に警察を呼んでくれるよう頼んだ。
エドヴァルドはコンスタンツィアの遺体を降ろして「コニー、何処だ!?何処にいる!?まだ近くにいるんだろう?姿を見せてくれ」と泣き声を上げていた。
ソフィーもやって来ていてノエムに話を聞く。
「彼、どうしたの?」
「狂っちゃったみたいです」
「そう・・・でも私達はやる事をやらないと」
「え?」
ソフィーは出産同盟の人々の手を借りて帝王切開を始めた。
コンスタンツィアの大きなお腹からは赤子が取り出され産声を上げた。
双子だった。




