第14話 アーティンボルト
エドヴァルドはある日アーティンボルト殺害に深夜、家を出た。
ソラともう一人の男と合流する。
「そっちは?」
「ダチだ。あの時、お前が助けてくれた奴だ。今回は失敗出来ないから手を借りる」
「カルロだ。妹が世話になったな」
「そうか、あんたがペレニアの・・・。じゃ、手を借りる」
「奴は作品作りに没頭していて家を出ない。弟子が帰った今がチャンスだ」
今日のエドヴァルドにはコンスタンツィアはついてきていない。
記憶を読めるといってもエドヴァルドが受け入れない限り表層意識しか読まれておらず、今回の事は秘密にしていた。
カルロが魔術の警報を切り、援護してソラとエドヴァルドはアーティンボルトのアトリエに侵入した。標的は作品作りに没頭していて、二人に気づいていない。
かなり大型の作品のようで、壁に彫刻を嵌め込んでいる。
壁の裏では循環する水が流れて何かの装置でもあるようだ。
「アーティンボルトだな?」
「そちらは?」
不意打ちも出来たが、エドヴァルドは名を呼んで確認した。
ソラが後ろに回って、二人で挟みこむ。
「お前はコンスタンツィアを連れ去った。彼女に何をした?何故彼女は魔術が使えなくなった?」
「ああ、その件ですか。私を恨むのは筋違いというもの。依頼は彼女のお爺様から受けたものです」
「そっちをどうするかは彼女が決めた事だ。俺はお前が許せない。せめて元に戻すなら命だけは助けてやってもいい」
ソラは殺す気でやってきたのでおいおい、聞いてないぞという顔をしたが口を挟まずに見守った。
「戻す?無茶を言いますね。壊れたものは元に戻らないんですよ」
「何をどうやった。さっさと喋らないと気絶させて連れてくぜ」
ソラはモレスの剣を抜いて迫る。
たいしてアーティンボルトは部屋にあった彫像の数々を起動して二人を撃退するよう命令した。
二人にとっては大した脅威では無かったが、時間を稼がれているうちにアーティンボルトは一つの杖を手に取った。
「魔術じゃ俺達には勝てんぜ」
「それはどうでしょうかねえ」
アーティンボルトは杖から雷撃を発し、ソラはモレスの剣で受けようとしたが全身が感電して弾き飛ばされてしまう。
「ソラ!」
くっくっくとアーティンボルトはほくそ笑む。
「おやおや、これがあのソラ王子ですか。いかに強力な魔力があっても神の力の前には無防備も同然。第二世界の力では高次元からの干渉を防げないのですよ。知りませんでしたか?」
「クソが・・・」
一撃では気絶しなかったが、神経に障害が残りソラは動けない。
ソラの持つ剣も神剣なのだが、信仰心が無いのでいまひとつ力が弱くソラの魔力任せだった。
「そうやってコンスタンツィアを苦しめたのか?」
「ええ。彼女を調教して従順にさせるのを楽しみにしていたんですが、あっさり服従するようになって拍子抜けでした」
「そりゃそうだろうな。で、本当に戻せないのか?」
「言ったでしょう。壊れたものは戻らない、と。壊し方は知っていても直し方なんか知りません。ま、他に同じような症例をたくさん作れば研究出来るかもしれませんがねええ。どうします?」
「狂人の話に付き合うな。飲み込まれるぞ・・・」
ソラが声を振り絞ってエドヴァルドに忠告する。
「わかってる。もういい、こいつは殺す」
エドヴァルドは槍を手に持ち、アーティンボルトにずかずかと歩み寄った。
アーティンボルトも杖を振りかざしエドヴァルドに雷撃を投げつける。
エドヴァルドは平然と愛槍でそれを受け止めた。
「なに!?」
フン!と振り払うとエドヴァルドの槍に帯電していた魔力は彫像に当たってそれを粉砕する。
「これでも俺は地元じゃ雷神の申し子だとか呼ばれてたんだ。どこの誰の神器だか知らんが、トルヴァシュトラより格上の雷神がいるのか?」
この頃、東方の大神ガーウディームの弟神より格上の雷神は存在しない。
当然、その加護を持つエドヴァルドに他所の雷神の力は通用しなかった。
何度アーティンボルトが杖を振りかざしても結果は同じ。
エドヴァルドは杖を蹴り飛ばし、アーティンボルトの顔を掴み、頭蓋骨を粉砕させかねないほどの力を入れた。
アーティンボルトは自らの頭にかかる圧力と、頭蓋骨が軋む音に悲鳴を上げた。
「ま、待ちなさい。せめてこの作品を完成させるまで!」
「見上げた根性だ。じゃ、俺が完成させてやるよ」
エドヴァルドはアーティンボルトの頭をアトリエに設置されていた陶壁に叩きつけて粉砕した。頭蓋骨が砕け脳が飛び散り、流れる水に混ざりあう。
「地獄にも天国にも行けず、永遠にここで循環するがいい」
この作品、『聖ヴァルマン祭の奇跡』は弟子達が完成させて、ガドエレ家の美術館に設置された。時折解説役もいないのに聖ヴァルマン祭の洪水について語り出す声が聞こえると噂になり、美術館は怖いものみたさの来客で人気となったという。




