表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
荒くれ騎士の嘆き歌  作者: OWL
第七章 終章 星火燎原
361/372

第13話 庶民生活

 新帝国暦1432年5月にマグナウラ院が開校され、エドヴァルドも3年になっている。軍事演習にも参加できるようになったが、その間コンスタンツィアとは会えない。


エドヴァルドは以前一時期住んでいた所にコンスタンツィアと二人で暮らしていた。

コンスタンツィアの生存を知るのは学生でもソラくらいなもので、彼女とエドヴァルドが親密だった事を知る友人達は皆、お悔みを言ってきた。


友人達が去るとソラと二人で密談を交わす。


「悪いな、こっちも忙しくて」

「ああ、ストラマーナ大公国の再建おめでとう」


皇帝の承認のもと新聞でも旧スパーニア三大公国の再建が公表されていた。


「おう。まあ管理は市長達任せで公王なんて名前だけだけどな。帝国政府との交渉だけ俺にやらせてずりーもんだ。まったく面倒な立場で嫌になっちまう」

「でも大金持ちになったろ」

「まあな。変な使い方してたら怒られるから贅沢は出来ないが」


それでもエドヴァルドにとっては羨ましい地位だ。


「仕事だったら紹介出来るぜ。コンスタンツィアに苦労かけたくないんだろう?」

「・・・合法的なものか?」


エドヴァルドは学院の食堂で周囲に聞こえないよう、ずいと肩を寄せて尋ねた。


「両方紹介出来るが、お前は賞金稼ぎのままでもいいんじゃないか?帝都にはまだまだラキシタ家の残党も残ってる筈だ」

「調査して探し回る余裕はないよ。うまくいくとは思えないし」

「でも裏稼業の連中が経営している闘技場に出るのは趣味じゃないんだろ?」

「無駄な殺しは御免だ」

「なら、俺が情報を提供してやる」

「そりゃー有難いが、何で自分でやらない?」

「何かと目立つ立場になっちまったからなあ。それにもう必要無いし」


エドヴァルドは出来るだけ短期で学院を卒業したい。

残党狩りで名声を稼げば帝国騎士への道も近づく。

昨今は多くの勇士が死に、補充も必要としているので軍の士官志望でなく、帝国騎士志望のエドヴァルドは早めに取り立てられる可能性もあると思っている。

士官教育には時間が必要だが、帝国騎士は腕さえ確かならばそれでいいのだ。


問題はそれを方伯が妨害するかどうか。


エドヴァルドはソラから暗器の類も譲り受けた。

都市に潜むテロリストとの戦いでは愛用の槍は不向きだ。


 ◇◆◇


「あんまり危険な事はしないでね」


自宅に戻り武装の使い方をチェックしているとコンスタンツィアが帰って来て、不安を口にした。


「やだな。将来はもっと危険な事をするんだしこれくらいのことで」

「・・・そうね」


それでも不安そうにしているコンスタンツィアをエドヴァルドは抱きしめて安心させた。


「さ、夕飯にしよう」


エドヴァルドは学院の食堂から持ち帰った食料を並べた。


「これ、どうしたの?」

「食堂で多めに貰ったんだ」


コンスタンツィアは大袈裟な溜息をついて「あんまりみっともない真似をしないでよね」と苦言を呈した。


「育ち盛りでお腹が空くのはわかるけど、わたしはそんなに食べないし心配しな・・・」


言いかけている途中でコンスタンツィアのお腹が鳴る。

エドヴァルドはくすりと笑う。


「もっとお仕事増やすわ」

「駄目駄目。せめてもっと慣れてからでいいよ。疲れてるでしょ」


その日、コンスタンツィアは意地でもあまり食べようとしなかった。


二人の家には時々ノエムがやってきて食卓が貧しい事を知るとダーナに話して狩りの獲物を持って来てくれるようになった。


休日にお茶菓子を持って訪れたノエムがコンスタンツィアの話し相手を務める日も多い。


「生活はどうですか?他に困った事はありませんか?」

「大丈夫よ。意外と自然に溶け込めているわ」


コンスタンツィアは普段髪染めを使ってブルネットにしている。それだけで結構印象は変わるものだ。もともと一部を除いて一般市民に顔は知られていないので問題ない。


「ソフィーはこの前来てくれたけど、ヴァネッサはどうしてる?」

「え・・・?あー、ヴァニーちゃんは故郷に戻って結婚しましたよ」

「そうなの?」

「まあ、彼女の家も古いお貴族様ですからねえ。コニー様が方伯家と関係を断つなら連絡は取らない方がいいですよ」


方伯家とは無関係ということになったコンスタンツィアが重臣のベルチオ家と連絡を取るのは不味い。


「そうね、仕方ないわね。寂しいけれどわたしの事に巻き込んだら不幸になってしまうし」

「それよりエドヴァルド君とはうまくやっています?」

「ええ、大抵の家事はやってくれるから申し訳ないくらい。ずっとお姫様扱いなんだもの」

「へぇ、意外。東方人なのに」


エドヴァルドは一緒に料理までしてくれるとコンスタンツィアは喜んでいた。

エドヴァルドの方も念願のパン作りを二人でやれたと喜んでいる。


「雑だけどね。やってくれないよりはマシ」

「その手は?」

「ちょっと火傷したのよ」


以前は使用人がやってくれていたような作業も自分でやるようになったので生活していればたまに傷のひとつや二つはできる。


「タマはどう?御免なさいね、ここじゃ飼えなくて」

「いい子にしてますよ。たまには遊びに来てください」

「そうそう、グラーネも見つかったのよ。ソフィアさんの牧場にいるってエドが聞いたの」

「取り戻さないんですか?」

「ここじゃあ馬は飼えないもの。あの子は天馬が好きだからあのままソフィアさんに任せるわ。寂しいけれど仕方ないの」


貧乏長屋住まいなので馬を飼う余裕は二人に無かった。


「ところでパン屋さんだけでやっていけるんですか?学費とかも結構するでしょうに」

「フランデアンからエドに学費が出てるから平気よ。でもいいお仕事があったら紹介して頂戴ね」

「フランデアン?バルアレスからではなく?」


東方圏全体からの奨学金という名目だったが、コンスタンツィアが書類を確認した限り東方候が個人的に出してくれているようだった。


「エドは将来を見込まれているのよ」

「自慢げですねえ」


一般市民として生活している限り、方伯家からの妨害もなく、生活費も生きるだけなら足りていて、東方候からの後ろ盾もあり、どうやら問題なくやっていけそうだとノエムも安心した。


「でもちょっとお疲れ気味です?」

「エドがなかなか寝かせてくれなくてね」


最初の内は遠慮がちだったエドヴァルドに対してコンスタンツィアの方から襲っていたのだが、すぐに立場は逆転した。

パン屋に勤めているコンスタンツィアの方が朝が早いので「もう降参」と勘弁して貰っている。


「今、夕方ですよ?」


休日のエドヴァルドは賞金首の捜索やら、警察の依頼で捕り物を手伝う事もあって今はいない。東方諸国の義勇兵が蛮族戦線から撤退して帝国軍はその補填に増援を送り、さらにはファスティオン討伐で本土軍も送っていて帝都といえどそれほど余裕が無い。

そんなわけで身元が確かで実力のある人間を警察が雇って使うように内務省が指示を出していた。


「お昼に帰ってきたと思ったらひょいと抱き上げて連れ込まれちゃうのよ」

「んまっ。真昼間からですか?」

「夜は夜で遅くなると隣の家のおじさんにうるせーぞって怒られてしまうの」

「ああ、彼激しそうですもんねえ」


ノエムは暴れん坊としてのエドヴァルドの顔を見ているのでそう思ってしまった。


「普段は優しいんだけど時々殺気立って帰って来てね」

「そのまま襲われちゃうんですか?」

「幽体を出してやりかえす時もあるんだけど、魔術師を捕縛する為の縄も持ってて幽体ごと縛られちゃうのよ」

「あれまあ。でもなかなか楽しんでるみたいですね」

「今はまだ覚える事が多くて大変だけど今にもっともっと楽しくなるわ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブックマーク、ご感想頂けると幸いです

2022/2/1
小説家になろうに「いいね」機能が実装されました。
感想書いたりするのはちょっと億劫だな~という方もなんらかのリアクション取っていただけると作者の励みになりますのでよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ