第9話 復活
「コンスタンツィア!」
コンスタンツィアは涙を流して自分を抱きしめてくるエドヴァルドにただ驚くのみだった。
「エド?どうかしたの?」
「どうかって・・・何も覚えてないんですか?」
「なんのこと?」
記憶の無いコンスタンツィアにエドヴァルドは最後の記憶はいつか尋ねた。
「まあ、そう慌てるな。少し時間を置いた方がよい。コンスタンツィア、体に異常はないか?」
「ええ、別に何ともないわ。ちょっと寒いかも」
コンスタンツィアはいつも体調、体温を整えてくれる魔術装具のついたドレスを着ていたので、一般庶民の普段着を着慣れていなかった。
エドヴァルドは自分の外套をかけ、火を起こし、お湯を沸かした。
その間、彼女が自分と将来を誓った事まで忘れていたらどうしようと不安になる。
ノエムとマヤがコンスタンツィアの体調を確認し、エドヴァルドがお湯をコップに注いで差し出す頃にはコンスタンツィアも大分落ち着いて状況が整理できるようになっていた。
◇◆◇
マヤがひとつひとつ質問をしながら状況を整理していった。
「思い出したわ、自宅に戻ったらアーティンボルト先生が待ち構えててわたくしを捕らえたの」
「アーティンボルト?」
「元家庭教師で、婚約者候補だった魔術師よ。自宅の制御をヤドヴィカから奪っていてわたくしに勝ち目が無かったらしばらく従順に振舞っていた筈だけど、自分で戻れなくなってしまっていてね。ノエムがいなかったら困った事になってたわね」
「最近の記憶は?」
「あの時から今まで無いわ。エドが助け出してくれたんですって?いつも有難う」
コンスタンツィアに記憶が無いとなるとこれ以上聞き取りをしても仕方ないので、マヤとノエムは最近の帝都の状況を教えた。
「ふうん。クリスティアンもミハイルも亡くなったのね。となるとわたくしの仕業かしら」
「うん?」
「わたくしの潜在意識が結婚を嫌がって殺す機会を待っていたのかも」
ナクレスでの披露宴の機会を待って潜伏し、火をつけたのかもしれないとコンスタンツィアは仄めかした。
「そうなるとお主は大量虐殺犯じゃな」
「そうねえ・・・。どうしましょう」
「心身喪失状態じゃから無罪じゃろ。追い込んだ父君らが悪い」
「そういえばお父様達は?」
「無事じゃ」
「ふーん、じゃあお父様達がやったのかも」
皇帝の仲介で講和条件としてコンスタンツィアを差し出したが、もともと敵なのでこの際まとめて焼き殺したということになる。
「冗談じゃないですよ。二人とも。ほんとにたくさんの人が死んでるんですから」
「御免なさい」
世間の噂ではラキシタ家の残党だろうと思われている。
ノエムが持ってきた新聞記事によるとラキシタ家が帝都を制圧した際に彼らに従った帝国騎士の一団が皇帝や方伯の追及を恐れて反逆し、処断されたとあった。
「しかしよく方伯らも現場にいて無事だったもんじゃ」
「我が家のお守りには火災程度の炎なんて通じないわ」
ああ、それでか。とエドヴァルドは思い出した。
ナーチケータの火壇に乗ってもコンスタンツィアは平気だった。
「これからどうする?」
「何日かゆっくり考えさせて。エドもいい?」
「はい、でもこんな汚い廃屋にこれ以上貴女をおいておくなんて・・・」
「いやね、エド。貴方と二人でなら別にどこでも構わないわ」
コンスタンツィアは感謝もこめてエドヴァルドに口付けした。
彼女はエドヴァルドと将来を誓った事をちゃんと覚えていてエドヴァルドを安心させた。




