第28話 内乱終結
カトリネル処刑の制止が間に合わずフランデアン王は憤激したまま帝都から立ち去った。皇帝もクシュワントの言いたい事などもともとよくわかっており、フランデアン王がウルゴンヌ女王と結婚した時に手は打ってある。軍事同盟を結んでいた神聖ピトリヴァータ王国は解体したし、フランデアン王国の南東に異例ながら強大な共和国の成立も許し対立させていた。
「方伯閣下がいらっしゃいました」
「通せ」
皇帝にとっては煙たい男ではあったが、現状で頼りになるのは彼の権威だ。
会わないわけにはいかなかった。
「済まなかったな。家中の問題に介入する事になって」
「お気になさらず、苦戦しておりましたので渡りに船でしたよ」
皇帝の介入によって方伯家のお家騒動は集結し、ラキシタ家討伐に全力を注ぐ事となった。
「しかし講和条件でコンスタンツィア殿を嫁がせる事になったと聞いた」
「いずれ家中の誰かに嫁がせる予定でした。そんなことよりそろそろ報復の手を緩めるべきでしょう」
「ディシア王国の件か。余も反省している」
「今後の対応を誤れば東方で大乱が起き、国内もまとまりきらない状態では制御出来ず、さらに混迷が深まります」
皇帝と方伯は話し合い、ウマレルとアンドラーシュの時代で民衆からも人気の高かった政策はそのまま続行させることにした。アルビッツィ家から没収した資産で赤字財政は当面補填される。皇帝は東方圏など放置したい処だったが方伯の手前そうもできず、西方軍や南方軍を減らして東方軍に回し監視を強化させることにした。
一方でカトリネルを弔い、特使を送り慰撫に努める事も忘れなかった。
「貴殿には当面議会にも出席して積極的に発言して貰いたい。デュセルは余の臣下として忠実だが、今回の件でもわかったように忠実であり過ぎる」
「仕方ありませんな」
方伯の一族は政治的に中立を保つ為、閣僚には加わらない。
政府を監視、監督する事に専念していた。
「コンスタンツィア殿は留守中、随分活躍していたようだな」
議員達からも頼りにされ、いくつかの政策も主導していた。
方伯が不在の間に決まった法改正の一覧をみると提出議員に彼女の名があった。
「女は相続出来ない事業があったとはなあ」
子がいない場合、未亡人が相続出来ず夫の事業を取り上げられ公売で買い叩かれてはした金を渡される。汚職の温床になっており、古代帝国時代の法律がそのまま使われていた。
「自分が女だからといって、利益を誘導してやっていたのでしょう」
方伯はつまらなさそうに鼻を鳴らす。
「しかし毎年何百件も不正行為が行われていたようだ。これでは民衆の不満が鬱屈するのも当然。なんでこんな法律があったのかもまったくわからん。経営能力に男も女もあるまい。このまま使うとしよう」
みすぼらしい姿になったシクタレスは最後にはすっかり民衆にも嫌われていた。
皇帝だけでなく方伯も帝都に戻り皇帝を支えていくと表明した事で皇帝の支持率も上がった。新聞や雑誌は方伯を救国の英雄ゲオルクの再来と讃え、唯一信教の乱を鎮圧した業績を再び取り上げた。そしてラキシタ家が方伯の孫娘を襲った事を再び世間に思い出せた。
ラキシタ家に襲われて己を守り通し、慈善事業にも積極的だったコンスタンツィアの人気は高い。皇帝は世間の評価を取り戻す為、自分が不在の間に決まった法律のうちどれをそのまま使うか、廃止するかを選択し彼女の名声も利用することにした。
「彼女の結婚は人々も祝福し、帝都の空気も一変するだろう。いつ発表する?」
「春頃ですな。我の強い娘なので結婚を受け入れて人前に姿を見せられるようになるまで少し時間がかかるでしょう」
「しかし惜しいな。彼女ほど才能のある人間が今後は表舞台から退くとは」
「それが女の幸せですよ。より優れた子を産み、育て次代に繋げるのが役割です」
目まぐるしく支配者が変わった1431年も終り、民衆は結局皇帝の治世が一番平和だとカールマーンの帝都帰還と新年を祝った。




