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荒くれ騎士の嘆き歌  作者: OWL
第六章 死灰復燃~後編~(1431年)
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第19話 キャンプに行こう②

 キャンプは割と大所帯になった。

ペレスヴェータも北方圏の留学生達と一緒に来ているし、イルハンやレクサンデリも遊び気分でついてきた。


コンスタンツィアが帝都から少し足を延ばして出て来た理由の一つに都市から外にでた自然あふれる環境の観察をしたいという事もあった。

幽体の視点で見ると霊脈から燐光が立ち昇っていて興味深く、休憩を取る度に少し瞑想して付近を一人散策した。


 初日は天馬の牧場があるヴァフレスカ家に厄介になった。


コンスタンツィアの愛馬グラーネは年をとって少し落ち着いた性格になってきたが、この牧場に来て天馬を見かけると幼い頃のように飛び跳ねて駆け出してしまう。


「せっかくだからソフィアさんに頼んでエドも天馬に乗れるかどうか試してみたら?」

「臆病な性格って聞いたので軍馬としては役に立たないと思うけど・・・」

「天馬を乗りこなせるものは世界でも限られた数しかいないし、もし乗りこなせたら皇帝陛下から授かる事になるから特別な地位が与えられるわ」


実用性はなくとも名誉は得られる。

選帝選挙制が廃止される場合、次代の皇妃になるのでは?と最近新聞で何かと騒がれるコンスタンツィアをライバルから出し抜いて娶るには『天馬の騎士』というステータスは役に立つかもしれない。

田舎の従属国の辺境領主というステータスよりはマシになる。


セイラの件で少しソフィアと親しくなったエドヴァルドは試してもいいか聞いてみた。


「いいけど、もし乗りこなせたら私と一晩一緒に・・・」


天馬の牧場には普通の馬もおり、ソフィアは種付けの仕事にも関わっているのでこのあたり一般人とは感覚が違う。


「こほん」

「あ、なんでもないです」


コンスタンツィアが後ろで睨んで咳払いしたのでソフィアは誘惑をやめた。


早速エドヴァルドは厩舎を訪れたのだが、天馬達は大勢人間が現れたので、皆逃げてしまっていた。他の馬達と同じように日が暮れると厩舎に入るのだが、彼らは繋がれておらず嫌な人が来ると壁をすり抜けてどこかへ飛び去ってしまう。

一緒に来たイーヴァル達はいないんじゃしょうがないと諦めてさっさと火を囲んで酒盛りを始めたがエドヴァルドは厩舎に一人残ってグラーネと一緒に天馬が戻るのを待っていた。


エドヴァルドは魔術は使えなくともイザスネストアスやイーデンディオスから教えを受けて基本的な知識はある。ソフィアに尋ねた所、馬具を付けた場合は天馬も壁をすり抜けられないらしい。


「つまるところ、精霊みたいな生物も現象界の物質に縛られるとこちら側の世界よりになるということか」


セイラのように相性が良いと触らせてくれるくらいはするらしいが、基本的に加工されたもの、特に金属は嫌がるらしいと知ってエドヴァルドはいっそのことと服を脱いでみた。


「そんな目でみるなよ・・・」


グラーネから突然服を脱ぎだしたエドヴァルドを奇異の目で視られているような気がした。皆が寝静まった頃になっても、エドヴァルドは厩舎の藁の中に潜んで天馬が帰って来るのを待った。


 ◇◆◇


 結局エドヴァルドはそのまま藁の中で眠ってしまい、翌朝天馬の世話にきたソフィアに発見されて大いに笑われた。


「いやー、今まで色んな挑戦者がいたけれどこんなことしたのは君が初めて」

「くっ・・・」

「でも、天馬が戻ってきて一緒に寝てたのは驚いたな。何度か同じ事したら触らせてくれるかもよ?」

「そんなことしてる暇はない。もういいよ」

「あら残念。暇になったらまた来てね」


グラーネは朝までエドヴァルドの隣で寝ていて、天馬達も一緒でエドヴァルドの存在を無視していた。見知らぬ人間の存在を無視する天馬というのはソフィアとしては非常に珍しい事件だったのでまた来るように促したのだが、エドヴァルドとしてはこんな恥ずかしい真似は一度で十分だった。


「グラーネちゃんもまた来てね~」

「帰り道にまた寄らせて頂くわ。じゃあね」


グラーネが名残惜しそうにしているのでコンスタンツィアはまた来る事を約束して、牧場を立ち去った。しかしソフィアがエドヴァルドの種を狙い始めた事に警戒して泊るのは止めようと心のメモ帳に留めた。


 それから少し高山地帯を登っていく。

コンスタンツィアやヴァネッサ、イルハン達は普通に乗馬してキャンプ場まで。

帝都防衛軍団所属の騎兵も周囲を巡回しており安全な道だった。


「ソラ王子は誘わなかったの?」


道中馬首を並べているコンスタンツィアはエドヴァルドに話しかけた。


「なんか忙しいみたいで当分どっかに行ってるみたいです」


二日目にキャンプ場につくとイルハンやレクサンデリは近くで釣りをするのでコンスタンツィアも同行し、近くでヴァネッサと一緒に音楽を奏でたり、絵を描いたり、ぼんやり過ごし、時々釣りを手伝ったりもした。


釣られた魚を捌いて塩をまぶしてやっているとレクサンデリに感心された。


「なかなか大したお嬢さんだ」

「このくらい誰にでも出来るでしょう」

「いやいや、今どきの帝国貴族のお姫様達には無理だろう」


活きのいい魚がびちびち跳ねて、慣れてないと止めを刺す、命を奪う感覚は割と怖い。


「イルハン君も出来てるじゃない」


レクサンデリが釣って、イルハンが捌いている。


「結構料理上手って聞いてるわ」


エドヴァルドが一緒に住んでいた時は調理はもっぱらイルハンが担当していた。


「えーと、何かボク、悪い事しました?」

「え?どうして?」

「だって目が怖い・・・」

「そう?昔からちょっと表情きついですねって言われる事あるのよ。イリーちゃん。素だから別に怒ってるわけじゃないのよ」


びくびくしているイルハンとの間にレクサンデリが割って入る。


「あまり彼を怖がらせないでくれたまえ」

「失礼ね。素だと言っているでしょう。ジュリアさんはどうしたの?」

「向こうで焚き木になる枝を拾っているよ」

「そう。ならご婚約おめでとうと言っておくわ。カトリネルさんも連れて来れば良かったのに」

「彼女はまだ幼い。もう少し大人になってからじゃないと父君に叱られる」


レクサンデリは少し不安そうなイルハンの肩に手をやって安心させるように軽く叩いた。


「そんなことするから変な噂が飛び交うのよ」

「放っておいてくれ。そちらもさっさとくっついた方がいいぞ。アンドラーシュもシクタレスもいつまでも君を放っておくまい」

「エンツォ様は?」

「親父殿は中立だ。両家から必要されているし、自分が彼らを押しのける気もない。サビアレスらに要求されている物資量から言って今頃オレムイストと最終決戦を行っているだろうし、戻って来る前にアンドラーシュは勝負に出るだろう。君はこのままいっそ海外旅行にでも出かけていた方がよくはないか?」

「御親切にどうも。でもわたくしは逃げたりしないわ。責任があるもの」


今も聖堂騎士団の庇護下にあるし、世論も味方、私刑を止めた事でますます名声も上がった。議長からも信頼が厚くそう簡単に手を出せる相手ではない。


「責任ねえ。意地を張って幸せを逃がさないといいが」

「いやに絡むわね。どうかしたの?」

「エドヴァルドなら帝国騎士にならずとも遍歴の騎士になって各地で魔獣を狩って賞金稼ぎとしても暮らしていける。君も生活能力があるし彼の助けになって一緒に旅する事だって出来るだろう。そんな未来を考えた事は無いのか?」


ふむ、と少し想像してみた。

冒険生活は面白そうだが、そういうのは小説を読むだけで十分だった。

コンスタンツィアの気質には合わない。


「・・・それは貴方にだって言える事では?」


レクサンデリも帝国の、実家の保護下から飛び出しても自力で生きていけるタイプの人間だ。


「それこそ私にも責任があるさ。もし今更婚約破棄して飛び出したらキャットを哀しませる」


幼いなりに自分の立場を理解している王女だ。

もし皇家と一度取り交わした婚約を破棄されたらショックで、或いは恥と感じて自殺してしまうかもしれない。イルハンも隣で小さく頷いていた。


「なら、口出ししないで下さる?」

「そうだな。もうよそう。君と口論したいわけじゃない」

「いえ、御免なさいね。心配してくれたのに」


コンスタンツィアも将来に不安はある。

世間が祝福してくれるかどうか。

いくら世間がコンスタンツィアを高く買っていても、いや、だからこそ外国の小国の第四王子に大事な姫が奪われるなんて反発が起こる。

エドヴァルドとの結婚を父達は認めないだろうし、いずれ対決せざるをえない。


「ところでイリーちゃん。いつまで後ろに隠れているの?」

「うう・・・虐めない?」

「虐めません。貴方が今日エドの天幕で一緒だとしてもね」


二人一組なので昔から仲のいい二人が一緒になるのが自然だった。

イーヴァル達北方人やら聖堂騎士やらもいるし、人気のキャンプ場なのでちらほら人もいる。コンスタンツィアもヴァネッサと同じ天幕で眠る予定だ。


夕方にエドヴァルド達が帰って来て獲物を捌き、夕食はなかなか豪勢な宴会となった。

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2022/2/1
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