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荒くれ騎士の嘆き歌  作者: OWL
第六章 死灰復燃~後編~(1431年)
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第16話 ナーチケータの火壇②

 自宅にいたコンスタンツィアの所へ突然旧友が現れた。


「まあ、ヴィターシャ!いらっしゃい。そのお腹・・・妊娠中なのね?」

「ええ、近々生まれる予定です。ヴァネッサも久しぶりね」

「・・・どうも」


例によってコンスタンツィアの侍女役をしていたヴァネッサも同席して挨拶した。


コンスタンツィアは自室では階段を登る必要があるので一階の応接室に彼女を通して部屋を暖かくした。


「突然どうしたの?」

「以前お借りした念写の魔術装具を返却に来ました」

「良かったら贈ってもいいのよ?」

「いえ、自前のものを調達できるようになりましたのでこんな高価なものは頂けません」


それならとコンスタンツィアは受け取った。


「旦那さんはしっかりした人?」

「ええ、ご心配なく。それより今日は別に急な用件があってやってきました」

「どんな話?」

「実はナトリ区で私刑が相次いでいて、どうにかして止めたいのですが警察署に行ってもあそこは管轄外と言われてしまいました。私もこんな体なので夫にも止められてしまって頼れるのはコンスタンツィア様だけなんです」

「そう、わかったわ。わたくしが人をやって調査させます。それはそうと子供が出来たのならどうしてもっと早く教えてくれなかったの?出産同盟の所にも顔を出してないみたいだし・・・」


コンスタンツィアはいろいろ聞きたい事があったのだが、ヴィターシャはそれはまた今度と断った。


「実はかなり事態が切迫しているんです。ソラ王子はご存じですよね?彼とナトリ地区の顔役の間で話がついているのでどうかいますぐ現地に向って貰えないでしょうか」

「今すぐ?・・・どうしても、今なの?」

「はい、ソラ王子にエドヴァルド君も呼んで貰っていますからどうぞご安心下さい。無理をお頼みしているのは分かっていますが、今日も私刑が行われていて死亡者が続出しているんです」

「ちょっと待ってください。ヴィターシャさん。そんな危険地帯にお姉様に行けと?」


ヴァネッサはさすがにそれは、と口を挟んだ。


「今は聖堂騎士団の力も借りられる筈。無理を承知でお願いしてると言ったでしょう」


ヴィターシャはどうか人命救助の為に決断を、とコンスタンツィアに迫った。


「わかったわ、他ならぬ貴女の頼みなら。ヴァネッサ、エイヴェル様を呼んでお話して。わたくしは馬の用意をしておきます。エドが着いたら出発するわ」


コンスタンツィアは市警本部にも使いをだし、業務を放棄せず彼らにも現場に急行するよう要請した。


 ◇◆◇


 聖堂騎士のエイヴェルはすぐに参上したが外出は止めた。


「コンスタンツィア様、そのお役目我々が代わりますのでどうか自宅から動かれませんよう」

「エイヴェル様。わたくしはこれまでの慈善活動を通してナトリの宗教連盟とは良好な関係を育んできましたがあなた方は違うでしょう?あなた方だけでは無用な騒動に発展しかねません」


聖堂騎士団は様々な神々を信仰する人々の集まりである。

その中には巡礼者の警護を引き受ける組織もあれば神殿警備に専念する組織もある。ナトリ宗教連盟は水神、火神を信仰する外国からの移民、難民の信徒が多く独自に自衛しており聖堂騎士団との関係はどの部門とも薄い。


ダルムント方伯家が唯一信教との間で戦いを始めた時、聖堂騎士団を復興させたがナトリの人々は加わらなかった。信教側にも属さず、聖堂騎士団にも加わらず、今のような連盟組織は無かったが、その母体となる神殿群もやはり独自の活動をしていた。

唯一信教の乱の当時は第三勢力として敵対関係に近かった。


「しかし・・・」

「申し訳ありませんが、かなり急ぐようですので議論する気はありません」

「もしや何かの罠という事も」

「ソラ王子にエドヴァルド、それに加えて聖堂騎士団、市当局を相手にいったい誰が何の目的で敵対行為を働くというのですか」


恐れていては何も出来ない。

コンスタンツィアはヴィターシャの情報を信じて、エドヴァルド達が到着するとすぐに出発した。聖堂騎士団も続き、後から警官隊も加わった。


 ◇◆◇


「えらい大所帯ですね」


エドヴァルドもコンスタンツィアに馬を借りて同行している。

後ろを振り返ると駆け足でついて来ている記者団もいた。


「ヴィターシャったら商売熱心ね。勤め先の人達にも話したのかしら。でもこれで安心だわ」

「ですね」


隣で馬を走らせながらなので、声も大きくなりエドヴァルドはいつも以上に気を使ってコンスタンツィアにあまり親しすぎる態度を取らないよう注意した。


「話はどのくらい聞いてる?」

「ユースティアさんが主導する宗教団体が公開裁判とその場で処刑までしていると」

「・・・ユースティア様が?」

「はい」


信じがたい話だったが、自分の目でみて確かめるしかない。

コンスタンツィアは愛馬グラーネに加速を命じた。

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2022/2/1
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