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荒くれ騎士の嘆き歌  作者: OWL
第六章 死灰復燃~後編~(1431年)
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第15話 ナーチケータの火壇

 アージェンタ市の警察の一部が税務警察に異動させられて、市内の人員がますます低下していた。スラムや歓楽街の取り締まりは放棄して自警団や地域の顔役に任せ他の地域の正常化に専念する事を本部長は決定した。


反発はあったが、現実的に他に方策は無しと署長らも受け入れた。

その結果が私刑の横行である。


ナトリ区、常夜灯神殿の周辺ではいつも火葬の煙が大きく上がり、常に泣き女達が大声で泣き叫んでいるが、その日はとくに大きな悲鳴が響き渡っていた。


燃え盛る骸炭の上に次々と人が投じられていた。


「次の罪人を」


真っ白なフードを被った人々が縄で縛られた罪人を祭壇まで引きずっていく。


「名前と罪状を」

「名前はエディアトーレ、罪状は文書偽造、名誉棄損、収賄、横領、風説の流布」

「よろしい、投じなさい」


エディアトーレも骸炭に投じられようとしたが、当然抵抗した。


「待て!裁判も無しに殺す気か!何なんだお前達は、こんな事が許されると思っているのか!?」

「許されたのよ」

「誰が許したというんだ!?」

「市警本部から業務の委託を受けたの。我々ナーチケータ教団がね」

「ナーチケータ?・・・また魔女狩りを始める気なのか」


エディアトーレは絶望する。

正義と断罪の神ナーチケータ。

かの信徒は唯一信教の乱の終わりに唯一信教であろうとなかろうと無実を証明できないものを次々と抹殺した。その処刑方法が八十年振りに再現されようとしていた。


「せ、せめて裁判を。弁護士を呼んでくれ」

「貴方の弁護士はここにいるわ」


教団を仕切っていた人物はいちように燃え盛る骸炭を指差した。


「もし、貴方が無実なら断罪の炎に焼かれる事はありません。さあ、無実というなら自分の足でお乗りなさい」

「馬鹿げた事を言うな、ユースティア!お前は自分の恨みを晴らすために私を捕らえさせたのか」


教団指導者はマグナウラ院から去ったユースティアだった。

一般社会では面目を失った彼女だが、法に疎い社会的弱者を助け続けて来た彼女はナトリの人々から支持を集めていた。


「ガリエラ紙から内部告発があったのよ。他人を陥れてばかりの人生だったから裏切られたのね。さあ、投じなさい」


ユースティアは有無を言わせずエディアトーレをナーチケータの祭壇に突き落とさせた。


「次」


エディアトーレの悲鳴、そして人体が燃えて漂う悪臭にも彼らは動じない。


続いて連れて来られたのはユースティアの恋人、レオナール。


「な、なあ。嘘だろ、ユースティア。俺を殺す気なのか?」

「貴方が死ぬかどうかを決めるのは私じゃない。ナーチケータよ」

「俺が何をしたっていうんだ!」

「私を裏切った。私に仮面をつけて本物の獣人に犯させて楽しんだ」

「お前も喜んでいたじゃないか!」

「愛しい貴方だと思ったから。貴方の為なら何でもしたのに。もし望まれたのなら受け入れたのに。私を犯させて楽しむ趣味があるならそう言ってくれれば良かったのに」

「違う、待ってくれ。違うんだユースティア。俺も他に方法が無かったんだ。ご当主にお前を懲らしめろと命じられて」

「・・・貴方が望むなら喜んで獣人の相手でもしてあげたわ。愛していたのに、まさかお父様の差し金だったなんて・・・さようならレオナール。ナーチケータの炎は貴方の汚れた魂を浄化し天へと導くでしょう」


レオナールは絶望の表情を浮かべた。


「待ってくれ!本当は!!」


ユースティアはもはや聞く耳を持たず、身振りで突き落とすよう命じ、レオナールは悲鳴を上げながら祭壇へ落ちていった。


「次」


無表情を保ったままユースティアは次の罪人を呼んだ。

次に連れて来られたのは女性が二人。


「ユースティア、ほどきなさい!あんたね、自分の恨みを晴らすために私達を殺そうっていうの!?」

「シャムサ、ラティファ。ガリエラ紙に私の情報を売ったのは貴女方ね」

「だから何?それが何の罪になるっていうの?」


シャムサは強気に出るが、ラティファは怯え、声にならない声で泣いて詫びていた。


「罪になるかどうかは偉大なるナーチケータがお決めになること。父君らが処刑された後、体を売って暮らしていたようね。よくもそんな行いをしていたのに私を罵れたものだわ。さあ、投じなさい」


シャムサが突き飛ばされるように投じられ、瞬時に炎に包まれるのを見るとラティファは気を失って倒れた。強引に引き起こされたが、力を失った体は重心が低く、却って動かしづらかった。

そのおかげで、同じように投じられる寸前に制止の声がかかった。


「お待ちなさい!」


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2022/2/1
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