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荒くれ騎士の嘆き歌  作者: OWL
第六章 死灰復燃~後編~(1431年)
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第14話 魔獣退治③

 ソラ達は別室で話があるらしく、軽い挨拶だけして別れた。

エドヴァルドはガンビーノから詫びとして飲食無料と言われたが、既に食事は済んでいるのでジェレミー達の分を頼んで待った。


「おお、なんかすげー高そうなボトルが並んでるな」

「無料だっていうから一番高いの貰った」


少し遅れてやってきたジェレミー達も驚く。

提供されたボトルは今は補充が困難になっている北方圏からの輸入品で、市場では入手できない。


「んじゃ打ち合わせしようか」

「おう」


ロイスが新聞記事とアージェンタ市の地図を出し、これまでの出現地点にマークをつけた。


「ローナの話によると例の魔獣『白鰐』は帝国兵に襲われ、魔獣狩りの傭兵団に襲われてすっかり警戒してるらしい。銃弾や弓矢は外皮に弾かれて効果がないとか」

「ダヌ河だけじゃなくて、ナトリ河にも出てるのか?」

「用水路と下水道経由でナトリ河まで来たみたいだな」


ロイスのプランではどこか直線の長い水路に誘い込んで開発した銃の威力を試したいという事だった。


「銃じゃなくて爆弾使うとかは駄目なのか?」

「学院じゃそこまで強力なものは作れないよ。エドヴァルドだったらどうやって倒す?魔獣退治の経験があるんだろ?」

「固い奴とはあまり戦った事は無いが、基本的に柔らかい所を探す」


小さいころ、シセルギーテからそういう敵と相対したらケツを狙えと言われたがちょっとはっきりとは言いづらい。


「でも鰐みたいな奴と水場で戦うのはちょっと嫌だな」

「僕だって嫌さ。でももう人目につく所にあいつは出てこないだろう。こっちが乗り込むしかない」

「じゃあ、せめて毒でも用意しておこうか」

「アテがあるのか?」

「無い・・・」


ラリサだったらオルプタが毒物合成の専門家だったので用意して貰えたが、帝国では簡単に毒物といっても入手先に心当たりがない。世話になった病院に行けばあるかもしれないが提供してはくれないだろう。


「んじゃ、正攻法で行こう。ジェレミーは銃手で僕は補佐。エドヴァルドは近づかれた時に迎え討ってくれ。僕も閃光弾で助ける、行けるか?」

「ああ、世界で最も鋭いゴーラ鋼の穂先をつけて貰ったから切れ味を試してみるさ」


そしてローナが集めた情報ではこの『白鰐』は魚よりも大きな哺乳類を食物として好むらしく、普通の鰐はそこまで頻繁に餌を取らないが、この個体は最近短期間に襲撃を繰り返し異常に巨大化しつつある。自然の枠組みから外れ変異し、体内の魔力制御に成功した『魔獣』として急成長を遂げていた。


「もうダヌ河には戻れないくらい大きくなってるかもしれない。ナトリ河で探してみよう」

「うむ、ところでエドヴァルドは今年は年末試験は大丈夫なのか?」

「あー、今年は平気だ。出席日数も足りてるし」


下水道を根城にしていたホームレスはこの騒ぎで追い出され、エドヴァルド達は彼らに聞き込みをしながら少しずつ捜査範囲を絞り込んでいった。

そして餌として仔山羊を買い、時に授業もサボり毎日水路で待ち伏せし二週間後にようやく遭遇に成功した。


 ◇◆◇


「あれはもう鰐って感じじゃないな」

「変異した魔獣なんてそんなものさ」


『白鰐』は体自体は噂通り白い体をしていたが、魔力を介した瞳で見るとどす黒い瘴気を醸し出している。


「俺は故郷で何体か魔獣を倒したがその時は魔導騎士達と一緒だった。アレの皮膚は通常弾が通じるとは思えない」


エドヴァルドはラリサで雷獣と戦った事があるが、外皮はそれほど強固でなく、攻撃力に比べて防御力は並みだったので熟練の騎士や狩人と行動を共にしていればそれほど苦労しなかった。今回のような個体とは初めて遭遇するので過去の経験を生かせるとは思えず、慎重論を呈した。


「やってみなきゃわからないだろ。動きがそれほど早くなさそうだ。先制弾を撃ち込んでやろう」


自分達が開発した狙撃銃を試したいジェレミーとロイス達は向こうに察知される前に第一撃を放ったが、エドヴァルドの予想通り簡単に弾かれた。

怒りに燃えた『白鰐』は怒涛の勢いで近づいて来る。


「援護は任せた」


エドヴァルドは走り出して魔獣の注意を引いた。

噛みつかれる寸前で躱し、上から斜めに皮膚を切り裂こうとするが濃厚な魔力に阻まれて、切っ先は掠める程度。


(引っ掻き傷程度か)


魔獣はエドヴァルドを脅威にならないと判断してロイス達の元へと向かった。

ロイスは閃光弾を放ったが、魔獣の目は退化していてものともしない。

あれは魔術師の手を借りて下から突き上げてひっくり返して腹をさらけ出させて倒すしかない。魔術と剣術の双方を使うイーヴァルなら一人で倒せる相手だが、エドヴァルド達には無理だ。


駄目だ、死ぬ。


エドヴァルドはロイスとジェレミーの死を確信した。

西方圏の王子達は王侯貴族と平民の融和が進んでいるのでジェレミー達の魔力はエドヴァルドよりも少ない。運動能力はそれなりに鍛えていても、瞬発力に欠ける。魔獣の突進から逃げるほどの力は無い。

エドヴァルドが抑えてやらなければならなかったのだが、魔槍でもさしたる傷は負わせられなかった。


魔獣の突進を飛び上がって躱しつつ、切り付け、後ろに回って着地したあと咄嗟に雷神の加護を願ったが、間に合わない事は既にわかっていた。

槍はバチバチと火花を発し、白熱し始め、エドヴァルドは投擲の構えを取ったが既に魔獣は驚愕に目を見開くロイスとジェレミーの目前にいる。


エドヴァルドの渾身の一撃でなければ魔獣は倒せない。

しかし力を入れ過ぎて貫通するとそのままジェレミーとロイスごと殺す事になる。

一本道の水路でこんな戦い方をしたのが失敗だった。


「うおっしゃあ!」


結局のところ、ロイスとジェレミーは死ななかった。

魔獣の真上からソラが掛け声と共に飛び降りてきて太陽神の剣を頭から串刺しにして着地し、そのまま背中を開いて一撃で殺してしまった。


 ◇◆◇


「悪いな、お前ら。賞金は俺のもんだ」


ソラは油断なく魔獣の頭を斬りおとして、絶命を確認した。


「凄い斬れ味だな。その剣」


エドヴァルドは前に魔導装甲を真っ二つに切断する所を見た事があるがロイス達は始めてみるので驚いた。


「主神の剣だからな。それより火薬が余ってたらくれ」


ソラは火薬を受け取って、魔術も併用して魔獣の体を燃やした。

エドヴァルドにはどうにも理解出来ない。ソラは魔石を埋め込んでいる以上、魔術は使えない筈なのに平然と使って見せる。


「念入りだな」

「前に頭を落としても襲ってくる相手と戦った事があるんだよ」

「そんな馬鹿な」

「甘いな、ロイス。こいつらは見た目通りの生物じゃない。半分精霊みたいなもんだ。現象界の肉体が本体じゃない。完全に殺すにはどうやっても物理的に動けないようにするか、幽体を第一世界に送り返すしかない」

「そういうもんか?」


エドヴァルドはそんな話は初耳だったが戦闘経験があるのはエッセネ地方の魔獣だけだったので、他の地域の魔獣については知らなかった。


「全部が全部じゃないけどな。念の為だ」


魔獣が大きすぎるのでソラは近隣の人に衛士を呼ぶよう頼み、ついでに新聞社の記者達も呼ばせた。


「それにしても実にいいタイミングで来てくれたね」

「まあな、お前達の事調べさせてたし」


ソラは悪びれもせず白状した。

エドヴァルド達が魔獣を追跡している事を知って知人に監視させていたらしい。


「横取りするつもりだったのかよ」

「失礼な事いうなよ。お前達が倒していれば見守っていたのに」


ロイスは不満そうだったが、ソラの言う通りだった。

初弾で倒せていれば、エドヴァルドの一撃で倒せていればソラの出る幕は無かった。


「そうだな。悪かった」

「いいさ。それにしてもなかなかの威力だな。その銃。エドヴァルドの槍より深い傷を与えてるみたいだぞ」


そんな馬鹿な、とエドヴァルドが確認すれば確かに銃弾は魔獣の皮膚を深く抉っていた。


「これ、量産できるか?」

「ん?ああ、出来なくもないがちょっと高くつくぞ」

「買う。製造法ごとな。帝国には売らないでくれ」

「製造法ごと?それはちょっとな。製造法が流出すればどうせ帝国に独占される。その前に売りつけたい」


帝国派どの皇家が政権を握ろうが従属国が技術的に帝国を上回る発明を開発することを許さない。ソラの養父、ポーターやリブテインホテルの面々の祖国は帝国より先んじてい過ぎたために、滅ぼされた。


どうせ奪われるならその前に高値で売りつけた方が得である。

ロイス達は昔の出来事をそこまで詳しくは知らなかったがおおよそは察していた。


「ちゃんと流出しないよう管理するさ。この銃なら質の低い魔導騎士も倒せるだろうし」

「帝国の兵器開発局より高い金出せるのか?」

「予算不足でケチ臭い役所よりは出せるさ。ストラマーナを舐めるなよ」


ロイスとジェレミーは相談して旧スパーニアの王子なら仕方ないと新開発の技術ごと売り払う事に同意した。このようにして武力において平民を圧倒的に上回っていた王侯貴族を脅かしうる技術は流出し、伝播し、後の世において脅威となった。

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2022/2/1
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