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荒くれ騎士の嘆き歌  作者: OWL
第六章 死灰復燃~後編~(1431年)
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第12話 魔獣退治

 アージェンタ市警本部長パーチェムは市長から緊急対応課、凶悪犯罪捜査課の人間を百名宰相直下の新組織の為に供出するよう頼まれた。


「冗談じゃありませんよ。我々はまったく手が足りてないんですよ?とても人員を出す訳にはいきません」

「君、これは一時的な事で恒久にというわけじゃあない。それに貴族絡みの犯罪捜査は任せろとも言われている。逆に少しは人手が浮くはずだ。違うかね?」

「違いますとも。我々の最精鋭の武力組織を奪われちゃア困ります。荒事に慣れた連中がいなくなったらパララヴァ一家やガンビーノ一家の対処はどうなるんですか?」

「君ぃ、これをみたまえ」


あくまでも拒もうとする本部長に市長は市民からの投書を見せた。

警官が仕事もせずに飲んだくれてるとか、賭場にいたとか、賄賂を受け取っているとか非難の嵐だ。


「三千人も人員がいれば中には不真面目な奴もいますよ。市役所にだってパララヴァ一家から麻薬を買ってる奴がいます。そして薬漬けにされて立ち入り調査を事前に密告してる奴もね」


あんただって末端の部下を管理しきれてないだろと本部長は嫌味を言う。


「もし、そんな不届き者がいるなら即刻逮捕してくれたまえ。とにかく従って貰う、拒むなら君には休職して貰い、副本部長に指揮させる」


普段の口喧嘩どころではすまない脅迫に本部長は目を剥いた。


「本気ですか?本気でトゥレラ家に媚びを売るつもりですか?」

「無礼な言い方をするな!我々の予算を削減したウマレルよりはマシだ。来年には予算は倍増される。殉職した警官の代わりも募集できる」

「そこまでいうなら仕方ありませんが、しばらくここの治安は悪化しますよ?最近ダヌ河から続く用水路に魔獣が出たという噂もあります。我々には対処出来ないかも」

「そんなものはすぐに軍が始末する。或いは魔獣狩り専門の傭兵団が」

「しかしダヌ河付近の通行を制限せねば」

「馬鹿もん、これから万年祭だというのに通行制限などできるものか。帝都に魔獣が出るとすれば闘技場で飼ってる獣が逃げたんだろう。さっさと捜査の指揮をとりたまえ。退室してよろしい!」


しかし結局犠牲者が何人も出てしまい、市長は夜間の外出を禁じ祭に水を差す結果になった。警察も手が足りず、一部の業務を民間に委託する事になってしまう。


 ◇◆◇


 マグナウラ院の学生達にも日が暮れる前に学院から出て帰宅し、夜遊びはしないようお達しが出たが、水場にしか出ないらしいと聞くとすぐに誰も気にしなくなった。


エドヴァルドの場合、男子寮がある第二運動場内の修練場で鍛錬した後はそのまま寮に戻るので生活に変化はない。

学院内には武器持ち込みが禁止だが、第二運動場では魔導騎士や軍人課程に進む生徒の鍛錬の為さまざまな武器が用意されている。

刀剣、弓、槍、斬馬刀、そして保管庫内に展示されているだけだが旧式の大砲に、投石器、破城槌まで。


しかし、これまで銃声は聞いた事は無かった。

その轟音には驚いて鍛錬中だった学生達は音源の元まで急いだ。

混凝土コンクリートで囲まれた一角に二人の生徒がいた。

相変わらず蒼い顔をしたジェレミーが長銃を持ち、ロイスが望遠鏡を持って弾着地点を確認している。


「ジェレミー、ロイス?今の音はなんだ」

「おお、エドヴァルド。銃を改良しようと思って学院の工作機械を使って自分達でイチから作ってみたんだ」

「改良?」

「精度を上げてみたくてな、ロイス次の奴をくれ」


ジェレミーたちは自分達で砲身と弾丸を作って実験していた。


「何だって君らがそんな事を?」

「最近工業規格が統一されたせいでうちらの国でも帝国でも同じような銃が作られてるけど性能も似たり寄ったりでな。昔の一品ものの大筒だったら魔導騎士の鎧も貫く事があったんだが、今の量産型の銃じゃ無理だ」


初期の銃、大筒は今の一般的な銃兵が持つ銃と違って両手でなんとか抱える大きなものだった。


「あと最近噂の魔獣もね。鰐が魔獣化したものらしいけど河岸を見回りしていた帝国の銃兵が撃っても表皮で弾かれたらしいんだ」


二人とも魔力が薄いし、武術の訓練をしているわけでもないし、自分の身を守る為に銃が欲しいらしい。


「うーん、でも銃なんか作っちゃっていいのか?」

「剣とか弓矢だって殺傷力変わらないだろ。学院においてある道具で十分作れるんだし、いいじゃないか。別に禁止されてないし」

「まあ、いいけど。それでどんな改良してるんだ?」

「出来るだけ長射程で、精度が高くて貫通力が高い奴」

「例の魔獣賞金かかってるらしいから俺達でも安全に遠くから倒せるようなのを作りたい」


彼らは携行可能なぎりぎりの長さまで砲身を伸ばしてガス圧で初速を上げ射程も貫通力も上げていたが、どうにも精度が安定しないらしかった。


そして銃声を聞きつけてさらに人がやってきた。


「げ、ローナ」

「貴方達、学院でこんな真似をしていいのかしら?」

「ちゃんとそれぞれの器具を使う許可は取ってるぞ。組み合わせるとコレになるだけで」


ジェレミー達は新聞部のローナにも事情を説明した所、彼女が持っている念写の魔術装具で観測してくれることになった。


「銃身を固定して同じ型から作った弾丸と火薬量でも同じ所に当たらないのね」


銃器に詳しくないローナも何故同じ条件で同じ結果が得られないのか首を捻った。

撮影したものを再生してみると弾丸の軌道が安定していない事がわかり弾丸の形状を変えたり、砲身内に溝を掘ってそのラインに沿って発射される事で直進性を持たせるよう彼らは改良してみた。

螺旋状のいわゆるライフリングではないが、それにかなり近づいた。


数日後にようやくジェレミー達が納得いく出来栄えとなった。


「大分良くなった。問題は魔導装甲が貫けるかどうかだな。コンスタンツィアさん家にまだがらくた転がってるんじゃなかったっけ、譲って貰えないか聞きに行ってみよう。エドヴァルド、口利きしてくれないか?」

「なんで、俺が?」

「彼女と仲いいだろ。学院の資材部の在庫が尽きてるらしくて実験出来ないんだ」

「伝送系の部品が修復できないから普通よりちょっと固い合金に過ぎないって聞いたけど」

「大丈夫大丈夫、並みの魔導騎士だって対して変わらないよ」


装着者の血から作った魔石を装甲に嵌めて騎士本人の魔力と共鳴させて装甲を覆うので個人個人で強度が異なる。


「まあ、確かに転がってたから頼んでみよう」

「よし、行こう行こう」


コンスタンツィアは魔獣退治に使う武器の試し撃ちと聞いて快く譲ってくれた。

本体は既にナトリ大橋に設置してあるし、残りの装甲は必要ない。

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2022/2/1
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