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荒くれ騎士の嘆き歌  作者: OWL
第一章 すれ違う人々(1425-1427)
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第32話 皇帝カールマーン②

 カールマーンの寵姫マーダヴィ公爵夫人がめでたく第二子を妊娠した為、皇帝は大宮殿にますますよりつかず離宮が本宮のようになっていた。


御前会議が開かれない為、デュセル以外にも閣僚が訪れており今日は内務大臣がやってきていた。彼の報告を聞いた皇帝が二つの報告書を眺めて感想を言う。


「暗殺教団に出産同盟?随分対照的な結社だな」

「どちらも狂信的な信徒達が集まって出来た組織です。暗殺教団は死にまつわる神々、冥界を支配するアナヴィスィーケ、死者を浄化し断罪するナーチケータ、死神アイラやその他軍神達の信徒です」

「軍神もか?」

「はい、戦いによって死をもたらす為拡大解釈されて死神の一種とされているようです。多くの死を、より高貴で殺害するのが困難な者の死を望んでいます。殺害する行為が信仰そのものだと信じているのです。今回陛下のご宸襟しんきんを騒がせてでも参りましたのは親衛隊長殿にも警告する為です」


人類の中で最も殺すのが難しい相手といえば皇帝に他ならない。

紫の鎧姿で控えている親衛隊長サビニウスが手に持つ槍を固く握りしめて頷いた。


「よかろう、ここの警備を強化してよい」


あくまでも大宮殿に戻るつもりはないカールマーンだった。


「マーダヴィ公爵夫人にも大宮殿に入って頂いては?」

「貴族の数を減らすよう命じた余が適当に作った称号の夫人と共に入るわけにはいくまい」

「陛下の成される事であれば誰も不満は無いかと存じますが」

「ヴィキルート殿、ここではそう固い話し方をせんでもよい。君だけは余がどうしてもと留任して貰ったのだから」


アイラグリア家当主ヴィキルート。

カールマーンの兄と選帝選挙で争った仲である。

選挙の最終選抜過程で候補者は政府に重職を割り当てられる。

そこで実務能力も確認されるのでヴィキルートはその選挙中からずっと留任していた。


「承知しました。ですがこの方が職務に専念しやすいのでお気になさらず」

「そうか?まあ君がそういうのなら構わん。皇帝の妻ともなると気苦労が絶えぬし、余の正妻となるとトゥレラ家の後継ぎを産む事になってしまう。余は兄の子供達にトゥレラ家を返したいのだ」

「なるほど、そういったお志でしたか。感服しました」

「理解してくれたか。それで出産同盟の方は?」


カールマーンは冒頭の所まで話を戻した。


「暗殺教団が『死』に関連した神々の狂信的な信徒であれば、こちらは『生』に関わる神々の信徒です。主に大地母神の神々ですが、珍しいところでは慈愛の女神や医神、薬神などもあります。暗殺教団とは対照的にひたすら子を産み続ける事こそが信仰の現れだと信じています」

「少子化で何かと対策費がかかっている昨今だ。援助してやったらどうだ?」


カールマーンは軽い気持ちで聞いたが、ヴィキルートは渋面だった。


「彼女達は狂信者です。産んだ後の事まで気にしていません。タチの悪い事に出産助成金を得た後は赤子を売りさばいてしまっているようです。子供に恵まれない家庭が引き取った場合はお互い幸福でしょうが、問題は・・・」

「国外に売り飛ばされた場合か」

「はい、それと・・・死霊魔術師のような連中の実験台として買い取られる場合です」


 死霊魔術とはカールマーンの先代の皇帝の頃から問題となっていた魔術部門であり、亡者化の研究の為に新鮮な実験台を常に必要としていた。本来は亡者の都と化している旧帝国の都や、亡者の島ツェレス島、そして自然発生する亡者の研究を行い、それを抑制し、旧都を浄化、奪還する為に研究が進められていた分野で名称のイメージと違って聖なる目的の為に発展が期待されていた。

カールマーンが皇帝になった時に、この分野は閉鎖され、部門長は帝国追放刑に処した。おぞましい事に部門長シャフナザロフは多産の蛮族と人類を交配させ実験体を増やし、さらに亡者化させる人体実験を数千体規模で行っていたのである。


「シャフナザロフがいなくなってもまだいるのか?」

「残念ながら亡者自体が存在する限り、研究するものが出てきてしまうでしょう」

「ち、仕方ないな。それで出産同盟はどうするつもりだ?」

「違法な人身売買は地道に取り締まるしかありませんが、養子縁組や出産代行を止められる法律は存在しません」

「報酬の受け取りを禁じては?」


カールマーンは軽く聞いてみたがヴィキルートも法案作成時に官僚達から指摘があった。子供を育てられない貧しい平民の家庭が苦境に陥り、さらに違法な地下取引がまかり通るかもしれないと。その為、修正に苦慮していると告げた。


「当面は一人一人地道に救い出すしかないか。ヴィキルート殿、大変な仕事だろうがよろしく頼むぞ」

「は」


 ◇◆◇


「陛下、取り急ぎ報告が」


ある日、またデュセルがやってきた。


「今度はなんだ。マナ濃度がまた低下したか?」


カールマーンは御用商人が持参した我が子の為の服やら玩具やらを選んでいる真っ最中で、わずらわしそうに返事をした。


「そちらも重要ですが、後ほどで・・・。実はダルムント方伯の御令嬢が乗った船が極東方面で行方不明になったとのこと」

「ほー、そうかそうか。方伯にお悔みの言葉を述べねばならんな」


気もそぞろな皇帝は返事も適当だった。デュセルは遺体を発見したなどとは一言も言っていないのだが。


「いえ・・・その、海軍総督から捜索隊を出してよろしいでしょうかと使者が参りまして」

「止めておけ、どうせすでに出しているのだろうが引き返させろ」

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2022/2/1
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