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荒くれ騎士の嘆き歌  作者: OWL
第六章 死灰復燃~後編~(1431年)
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第5話 もっと時が早く流れてくれたら

 ある日、エドヴァルドは食堂でペレニアとソラを見かけたので二人に話しかけた。


「やあ、ペレニア。調子はどう?寮には慣れた?」

「あ、はい。エドヴァルドさんこそ寮生活には慣れました?集団生活は苦手って言ってたから心配です」

「個室だから平気さ。ソラもいるしな。お母さんから君の事頼まれてたのに御免な。俺が寮に入る事にしたから君まで」

「いやいや、いいんですよ。寮の方が楽ですし、安いですし」


ソラはペレニアに彼女の兄がイルエーナ大公国を継ぐ決意をしたと伝えてやっていた所だった。彼らが和気あいあいと話している間、周囲はこそこそと彼らを横目にみて噂話をしていた。


「お母さん公認ですって」「あら、エドヴァルド様にはもうお相手が?」「まだ一年生の小さな子じゃない」「ソラ様も一緒よ」「狙い目よね」「皆、誰に投票した」「あの二人ちょっとワルっぽくていいよね?」


エドヴァルドの耳にも少し聞こえたので軌道修正をする必要を感じた。


「ペレニアの婚約者って何処で何やってる人?」

「ジュアンはヴェーナ市の学院に通ってますよ。芸術科のあるところに。だから踊り子のファランドールに夢中なんです」

「俺が分かれるように言ってやろうか?」


友人の妹が蔑ろにされている事にソラはおかんむりだ。


「どっちに?」

「そりゃー、ジュアンにさ。女の子を脅したりしない」

「脅したってジュアンが私に振り向いてくれるわけじゃないですよ。婚約破棄されたわけじゃないんですから、とにかく待ちます」

「ペレニアはいじらしいな」

「いやいや、好きなら奪わないと。待ってたら駄目だぜ」


周囲の学生はソラを悲劇の王子と思っているが、ペレニアはスラムで悪さをしていたらしい兄の事は聞いており、その友人であるというソラの事も怪しんでいた。


「余計な事しないで下さいよね。無理やり振り向かされてもいい結果にならないと思いますし」

「へいへい。ペレニアにもエドヴァルドを見習って欲しいもんだ。本気で好きならな。世の中物騒なんだからいつ何が起きても分からないだろ。うちは愛し合って子供を残す暇があっただけマシだったのかもな」


ソラの家庭環境を思うと二人も冷やかせなかった。

ペレニアも思う所があり、同意する。


「・・・そうかもしれませんね。私もちょっと頑張ってみます。でもなー、ジュアンもファランドールも私よりずっと年上だし迫ろうとしても子ども扱いだし、どうしたらいいものやら」

「あー、わかるわかる。あと、2、3年あればなって思うよ。今すぐさらって行きたいのに。まだまだ力が足りない。悔しいな」

「お前は早熟なくらいだけどな」


官僚を目指している生徒の大半に比べてエドヴァルドは十分に人生経験を積んでいる。


「私からみれば二人とも早熟ですよ。私なんて自宅の畑の世話と家事以外とくに起伏のない人生でしたから」

「これからは嫌でも起伏のある人生になるさ。この帝都で暮らす限り」


治安は回復するかと思えば悪化し、市民は不安な日々を過ごしている。

先日はナトリ河にかかる橋が工事中に崩落して大勢の犠牲者が出た。度重なる地震で劣化していたが、前政権が予算不足で補修工事を凍結し、さらに内戦で橋を巡って戦闘が発生してとうとう寿命が来てしまった。

アンドラーシュはこれも前政権が予算を削減し過ぎた事、彼らの悪行の一つで、急いで補修しようとしたが間に合わなかったと釈明した。


「なんか予算不足で魔術師に工事の補助頼めなかったらしいぜ。技術力に定評のあるロットハーンの一族も帝都から逃げ出しちまったしな。強度不足になっちまって強風と地震でおじゃんさ」

「土木工学なんて帝国の得意分野だろうになあ」

「ラキシタ家が戦費調達で予算もぎとったせいで契約した魔術師達が支払いの補償がないから引き上げたってさ。新聞記事にあったぜ」

「変だな。去年は先生方に随分帝国の社会保障制度、公共事業制度について説明されたんだけど・・・支払いは確かだから皇家が公共事業から撤退しても取りかかった仕事は最後までやる筈だって」


有力皇家はウマレルらに嫌がらせで公共事業から撤退した為、本来行われる筈だった工事が実施されずこういった問題が起きていた。

留学生達は帝国の優れた制度を学びにきていたのだが、呆れる事態が続いている。


「帝国が誇る公正な司法制度とやらもアテにならんのが判明しちまったし・・・おっとファスティオンが来る。黙っていよう。ラキシタ家の悪口言ってたら処刑されちまう」


ファスティオンは特例で身辺の護衛を増やして学院に戻ってきた。

自家が帝都に返り咲いて権力を握ったからといって高慢になる少年では無かったが、皆関わり合いになるのを避けてそそくさと立ち去った。


それを見たエドヴァルドは、なんとなく嫌な気分になって自分からファスティオンを呼んだ。


「よう、これからメシか?一緒に食うか?」

「あ、はい。エドヴァルドさん。ご一緒しましょう」


ファスティオンは護衛を少し離れた壁際で立たせてエドヴァルド達と同じ座席に着いた。


 ◇◆◇


「済みません。気を使って貰ったみたいで」

「いいさ。俺も前に『恩知らず』とかいっちまって悪いなと思ってたし」

「こちらこそ。うちの部下達がコンスタンツィアさんにはとんでもないご迷惑をおかけしてしまって。未だにお詫びに伺う事も許して貰っていません。学院が再開してもずっと家に閉じこもっていらっしゃるみたいで出会う機会もないですし」

「そりゃまあ何千人もの兵士に囲まれたら怖くて出れないだろ」

「君からお詫びに伺う機会を貰えるようお願いして頂けませんか?」

「・・・うーん、それはちょっとなあ」


エドヴァルドはファスティオンがコンスタンツィアに謝罪の為訪問したと世間に報道された場合の影響を考えた。関係が修復されたと言われるだろうし揺れ動く世論にとっても良い事のように思える。


エドヴァルドが思案してすぐには答えを出さないのでソラが横槍を入れた。


「そういうのはまず彼女の親父さんに話を通すべきなんじゃないのか?弁償するといってもアルビッツィ家に借りるみたいだし。お前の兄さん達がオレムイストに負けたり、皇帝が戻って来たら今度はお前らが逆賊だぜ。そしたら逆賊と関係修復した彼女はどうなる?」

「我々は20万、オレムイストの残党はかき集めても数万程度。もうこうなったら敗北なんてあり得ませんよ。それに皇帝陛下に逆らった事もありません」


ファスティオンはラキシタ家の勝利が既定路線のように言うが、戦は水物。

エドヴァルドはソラの言う事ももっともだと思い仲介は止める事にした。


「俺は頭が悪いんだ。先の事はわからん。出来れば彼女の事はそっとしておいて欲しい。あの人は本を読んだり孤児院で子供達の世話したり、友人と何気ない会話を楽しむ時間が好きなんだ。余計な事に巻き込んで欲しくない」


エドヴァルドが毎日様子を見に行ってもだいたい本を読んで何か書き物をしていた。

邪魔をしては悪いので工事状況や警備状態の確認だけして会わずに帰る日もある。


「彼女ほどの立場で能力もある人が巻き込まれずにいられるのは無理ですよ。未婚ですし」

「む」


ファスティオンはコンスタンツィアがなにかとエドヴァルドを気にかけて親しい事は知っているが、既に将来を約束している事までは知らない。

エドヴァルド達二人は婚約保留という微妙な状態だったが、世間には伏している。


エドヴァルドに配慮してソラが口出しした。


「そういやコンスタンツィアさんの婚約者はいろんな新聞社が話題にしてたな。昔は方伯家が招いた家庭教師とかだったが、今はトゥレラ家のベーラやお前だな。最高の家柄のお嬢さんを迎えて皇妃としその子から世襲制の皇帝に戻して、混乱を招く選帝選挙を終らせるつもりだとか世間で噂だぜ」

「むう」


エドヴァルドはそうはさせじとファスティオンを睨む。


「まさか、勘繰り過ぎですよ。ベーラ様はともかく僕じゃ年齢も合いませんし。選挙が終る日が来るとすればそれはちゃんと議会で話し合って何が帝国にとってもっとも利益があるのか相談してからのことです。僕が適齢期になるころにはコンスタンツィアさんは結婚済みでしょう」


ファスティオンとエドヴァルドは同い年。

エドヴァルドにとって悔しい事だが、女性の方が四歳年上という事実はやはり地位の事を除外しても政略結婚が当然の貴族社会ですら不釣り合いだという事だ。

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2022/2/1
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