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荒くれ騎士の嘆き歌  作者: OWL
第六章 死灰復燃~後編~(1431年)
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第3話 校内人気投票(男子編)

 ある日、ソフィア・ソレル・フロステル・ヴァレフスカは知人に声をかけた。


「ペレニアはもう投票対象選んだ?」

「あ、ソフィアさん。投票って例のあれですか。私はまだ上級生たちの事全然知らないんですよ」


ペレニアの実家は北西の山地にあり、ソフィアの家、天の牧場とも距離的には近い。


「じゃあ同棲してる彼に投票したら?」


親同士、近所付き合いがあるのでペレニアが下宿した経緯を聞いたソフィアはそうそそのかした。

ソフィアは天馬で学院に通っているのでアージェンタ市には下宿していない。

帝都の上空は魔術での飛行も禁止されているので、彼女が天馬で通学するのが許されているのは皇帝のはからいのおかげである。


「同棲じゃないですったら。ジュアンに聞かれたらどうするんですか。それに彼も寮に移りましたよ」


エドヴァルドが寮に入った事に伴い、ペレニアも女子寮に引っ越していた。

通常は男子寮ほど空きは少ないのだが、今年は例外的に部屋を取れた。


「なんだ、やっぱりジュアンの事まだ気になっているんじゃない」

「婚約者なんだから当たり前です」

「カルロスに脅して貰ったら?」

「兄はそっとしておいた方がいいんです。もう自分の家族がいるんですから。それよりソフィアさんがこっちに下宿してくれれば一緒に住めたのに」

「ペレニアが天馬に乗れれば毎日一緒に通えたのに」

「うぐう。じゃあ乗り方教えて下さいよ」

「心の純粋な者じゃないと天馬には乗れないのよ。おほほ」

「ソフィアさんが純粋~?」


人工的な品種改良の産物であるヴァフレスカ家の賜物だろうとペレニアは胡乱気な視線を向けた。


「へへん。皇帝陛下のお声がかりで天馬での通学を許されてるんだから最大限活用させて貰うわ」

「いいなあ・・・、ソフィアさんはトゥレラ家に入るんですよね。皇帝陛下の第二の寵姫になるって噂も聞きましたけど。陛下が行方不明で寂しくないですか?」

「それよ。迷惑しちゃうわ。トゥレラ家に仕えるのは確かだけど、陛下の愛人なんて寝も葉も無い出鱈目。人気投票で去年私に敗けた誰かが噂を流したんだわ」

「天の牧場はどうするんですか?」

「兄さんが面倒みるからいいって。それより投票がまだなら向こうで皆品定めしてるから行きましょ」


 ◇◆◇


 女生徒達は植物園の一角にある休憩所を占領して男子生徒を締め出していた。

新聞部が去年の結果を元に今年の人気投票の予想順位を張り出している。


「んー、ペレニアが同棲してた彼は上位10人にはいないようね」

「だから同棲じゃないですったら!」


ペレニアがしつこいソフィアに怒る。

ペレニアの知り合いが「え、ペレニア。もう同棲してるの?誰と?誰と?」「婚約者がいたんじゃなった?彼の事じゃない?」とすぐに噂が広まる。


「もう、ほら~」

「あー、御免御免。あ、でも結構上位みたいね」


ソフィアがエドヴァルドの絵姿を見つけた。魔術装具で念写されたものだ。


「なんで上半身裸なんです?他の皆さんも」


ペレニアは当然の疑問を口にする。


「更衣室で撮らせて貰ったのよ。男性なら逞しい体も重要な検討材料ですからね」


投票を主催している新聞部女子がペレニアに説明してやった。


「へー、じゃあ許可貰ったんですね」

「も、勿論よ。魔力頼みのなよっちい男なんていざ抱かれた時、酷いものですからね」


近くの女生徒達も新聞部の意見に同調する。


「そうそう。自分より腕の細い男なんて御免よ」

「胸板はこれくらい厚くないと抱かれ甲斐が無いわ」

「あ、でもイルハン君くらい美少年なら別です」

「そうね。やっぱり顔よね」

「その前に長男じゃないと」

「次男以降でも分割相続制の国の王子様なら・・・」

「不便な国なんて嫌だわ。土地より財力よ。帝都に大きな館と郊外に別荘が欲しいの」


結婚しても移住せず白い結婚で済ませようとするものもいた。

新聞部のリストは人気で皆真剣に眺めている。


「あ、彼。結構いい物件じゃない?」


ソフィアは手に取った紙をペレニアにも改めて見せてやる。


「えーと何々・・・エッセネ公爵・・・。ああ、そうなんですよね。まだ若いのにもう相続してるんだとかで」

「そうみたいね。続きを読むと・・・『1418年生まれの13歳で第4王子』称号だけの名誉貴族じゃなくてちゃんとした領地持ちみたいね。向こうは12歳で成人扱いとか母が言ってたから正式に相続しているのね」


王子様で既に領地持ち、各方面へのコネあり。実力は折り紙付きで、コンスタンツィア救助に真っ先にかけつけ新聞からも取り上げられるなど実績あり。

聞きつけたペレニアの同窓生達が群がってくる。


「でも貧乏で私とパン屋さんで働いて生活費稼いでるんですよ」

「『帝国騎士シセルギーテの愛弟子、海賊を大勢蹴散らしたという噂あり、実際実力も相当なもの。妖精王子フィリップ殿下に決闘で勝利し、既に近衛騎士達からも目を付けられていて将来帝国騎士になるのは確実。不良少年という悪評があったものの、口が悪いだけで女性には意外と紳士という噂もあり。人気急上昇中』むしろちょっとくらいワルっぽかった方が面白かったかなー」

「ソフィアさんもよくご存じなんですか?」

「友人のセイラが最初『破廉恥女』呼ばわりされてて滅茶怒っててね。でも今は許してあげたみたい」


そのセイラは家出してソフィアの家にいた。母親のプリシラが今度迎えに来るらしい。


「そうですか。女性にそんな事言う人には見えませんでしたけどね。普通に優しいお兄さんですよ」

「入学当初はいろいろあって荒れてたのよ」


帝国騎士になる・・・帝都で暮らす・・・そう聞いてまた近くの女生徒達が耳をそばだてさらにすすっと近づいて来る。後ろから覗き込まれているのを意識しながらペレニアはさらにソフィアに問うた。


「何かあったんですか?」

「お母さんがご病気らしくてね。滅多にない奇病で治療費も相当かかるみたい。王位継承争いで国から追い出されて、道中海賊に襲われて、なんとか帝都に着いたと思ったら自宅の敷地内でフィリップ殿下に誤射されたりなかなか大変な人生ね」

「そういえば何処か影のある人ですね」


悲運の王子様・・・素敵!などとのぼせる女生徒も出てきた。


「そうね。じゃ、次の男を見てみましょう」


ソフィアはぽいっとエドヴァルドが載った紙を放り捨てた。すかさず他の女生徒がそれを拾う。


「第十位。イフリキーヤの王子、アシ・ヤダ様ね。それともアダって発音するのかしら」

「ヤシ・アダよ」


新聞部が訂正する。


「この人は裸じゃないんですね」

「肥満体型だから止めたの。まあ顔は悪くないし、財力は他の生徒達よりずっと上ね」

「皆現金ですねえ・・・」

「肥満は富と豊穣の象徴だし、太目の男子好きっていう価値観もまだまだ根強いのかな」


外国人留学生の影響や巡礼帰りのコンスタンツィアが劇変していた関係で学院の女生徒達の間ではダイエットブームが起きているので昔より価値観は少し変わってきている。


「ああ、そうかもしれませんね」

「第九位、フランデアンの王子フィリップ様。昨年から大分順位落としちゃったわね。エドヴァルド君に負けたのが響いたかな」

「負け方でしょうね」


女生徒達はうんうんと頷いた。憧れていた者も多かったが、負けた後が潔くなかったので評価は大分落ちた。それでも順位が高いのはやはり帝国に次ぐ大国の王子で長男だからだろう。


「でももう帰国して退学するみたいだから今年の候補からは外そうか」

「そうしよ」


新聞部達はバッテンを引いて、投票対象からフィリップを外した。


「第八位、魅惑の美少年。トゥラーンの王子イルハン君。守ってあげたいというお姉様方からの組織票が入りました。七位からは打って変わってムキムキの筋肉男が続くわね。ここからが皆の本命ね」

「暑苦しいのはちょっと・・・」


ペレニアの趣味では無かった。


「じゃあ七位のバンスタイン様、六位のアルバ、五位の人も飛ばして第四位。詩聖王子カオシー!コンスタンツィア様に惚れこんでいた彼もすっかり相手にされなくなって落とすなら今が好機!」


女生徒達がうっとりするような詩を捧げてくれるので、外国の王子の中でも特に人気が高かった。


「詩じゃお腹は膨れませんよ」

「貴女も貴女で現金ね」


ヴィヴェットは次、次、と促した。


「第三位、ロックウッド・クルツォラ・ガドエレ。言わずと知れたガドエレ家の後継ぎ候補本命です。既に卓越した商才で成功を納めている学院生徒随一の資産家」

「畏れ多くありませんか」

「別に投票するくらいいいじゃない」


皇家の当主、ひいては皇帝になるかもしれない相手はちょっと玉の輿が過ぎるのでペレニアは遠慮した。


「次も皇家だけどね。レクサンデリ・アルヴィッツィ!アルヴィッツィ家に苦しめられた貴族も多いでしょうに。自分がそっち側に入っちゃえということかな」

「最近は割と変わって来たんだとか。貧乏人にも手厚い支援をしているらしいです」


新聞部が訂正を入れた。それで好感度急上昇中らしい。


「でもあれ、種無しなんじゃないの?いつまで経ってもジュリアさん妊娠しないじゃない」

「気が早いわよ。ちゃんと避妊してるんでしょ」

「実は女性に興味無かったりして」

「まさか」

「でもいつも男の子達と一緒よね。誰かアルヴィッツィの夜会で相手を務めた人いる?」


女生徒達は皆首を横に振った。

男も男達だったが、彼女達も彼女達で裏で情報共有をしていた。

変な性癖を持った男とは当たりたくないのである。


「ジュリアさん一筋なのかしら」

「彼女は妊娠したらすぐに持参金貰って実家に帰ってどこかに嫁ぐんでしょ?」

「そのはずよ。これは調査の必要があるわね」


まだまだそういう話が早いペレニアは顔を赤くしてソフィアに次を促した。


「一位はあれね。面白味もないけど、アイラグリア家のヘンルート様ね。顔もいいし、体つきも頑健だし、長男だし。アルヴィッツィやガドエレ家みたいにどこかに恨まれてたりもしないし。警察官僚を多く輩出している家柄だし、安定の第一位よ。誠実で優しくて面白味のかけらもないわ」

「なんですかそれ、文句の付け所もないじゃないですか」

「だからつまらないのよ。それに今年は顔見せてないし」

「贅沢ですねえ・・・、ソフィアさんは誰が好みだったんですか?」


ヴィヴェットはそういえばソフィアの好みは聞いていなかったので試しに尋ねてみた。


「前はフィリップ君だったんだけどね。セイラと二人で取り合いになっても困るから表に出さなかったけど。子種さえくれれば別にそれで良かったし。でももう駄目ね、彼は」

「あー、そっか。天馬と相性の良い男性がいいんですよね」

「そうそう。風の神様とか精霊に愛されてそうな人がいいわ」


浮世離れしたソフィアの言葉にぷっとヴィヴェットは吹き出す。


「精霊だなんて意外と少女趣味・・・ってわけでもないか。幻獣を乗りこなす人ですもんね」

「そーよー。神秘的でしょ?」


くるっと回ってポーズを取って見せるソフィア。


「ご本人以外は」


お母さんもちょっとずれた人だったなあと思い返すペレニアだった。

結局彼女は婚約者がいるので、単に知人で世話になっているエドヴァルドに一票入れた。


新聞部はこの後、バンスタインやロックウッド、ヘンルート達は休学なので除外としたところ、急に順位が上昇してランキングには大きく変わった。

特に新入生の中ではソラが一番人気となった。

アンドラーシュも前政権、議会の決定を受け入れ学院卒業後はストラマーナ大公として認める意向であることが知れ渡り、悲劇の王子、そして他国の追随を許さない大国出身故に人気は圧倒的だった。

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2022/2/1
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