第32話 翠玉館を訪問
「よし、ダーナ。お前に任務をやる!」
「ハイ!」
コンスタンツィア邸にやってきたエドヴァルドは場違いな所でうろうろしているダーナを見つけて任務を申し渡した。
「お前はこれから爺さん家に行け。本来は俺が住む筈だったが、学院からは遠いから俺は寮住まいになる。お前は俺の代わりに爺さんの家を守れ」
「ハイ・・・」
聖堂騎士が警備についたのを見て、もうこれ以上この屋敷に警備は要らないと判断した。
ダーナをコンスタンツィア邸に置いておくのは気まずいがエドヴァルドは寮住まいだし、帝都に移り住んだパラムンに預かって貰っても彼女は都市生活に馴染め無さそうだ。
そんなわけで別の選択肢を用意したのだが、追い出されたと感じたようでは明らか彼女はがっかりしていた。そこでちょっとエドヴァルドもフォローする必要を感じた。
「なあ、爺さん家は森の中にある。ナツィオ湖周辺の森が爺さんの領地なんだが、猟師がいないから鹿や兎が大繁殖して困ってる。お前はそれを好きに狩っていい」
「エイダーナ、月ノ神、兎カラナイ」
「じゃあ鹿だけでもいいし。嫌なら何処に行ってもいい。帝国には奴隷制も無いし、お前は森で自由に暮らせるんだ」
「私、メイワク?」
「そういうんじゃない。・・・口下手で悪いな。困った事があったら相談しにくるくらいは構わない」
「私モ口下手、仕方ナイネ。デモ恩ハイツカ返ス」
「ああ、俺も時々様子見に行くから。達者で暮らせ」
エドヴァルドは心を痛めつつも厄介事を遠ざけた。
時々は様子を見に行ったが、狩りをして皮や肉を売りそれなりに生計を立てて順応していた。
◇◆◇
「エドヴァルド君、ちょっとこれに署名して貰えます?」
エドヴァルドがコンスタンツィアに会いに行こうとしたらたまたま屋敷を訪れていたノエムから署名を求められた。
「品種改良・断尾反対運動?なんです、これ」
「そのまんまです。犬とか猫とかの」
ノエムの足元にはコンスタンツィアの飼い猫がいて彼女の足に体をこすりつけている。
「これの?なんで?」
「いいからさっさと名前を書く!」
帝国では犬や猫が大切に扱われているが、さまざまな業者が顧客の要望に従い歪な改良を進めている。獣医志望のノエムは身近な愛玩動物が神代とはまるで違う姿になり果ててさまざまな障害を抱えている事を知り心を痛めていた。
「まあ、そんなわけでノエムさんに協力してあげてください。そしたらお姉様との仲が進むように協力してあげますから」
「ほんとに!?」
あの時熱のこもった口付けをくれたのは幻だったのだろうかと思うくらいまた姉のような母のような態度に戻ったコンスタンツィアとの仲をヴァネッサが取り持ってくれるという。
「にしてもノエムさんって優しいんですね。孤児院を手伝ったりしてるって聞きました」
「はいはい、身近な事にあちこち手を出してるだけですよ」
なんともマイペースな娘だった。
その後コンスタンツィアの部屋を訪れようとしたが、大切な客が来ているという事でまた今度にして引き上げた。
エドヴァルドは寮に戻ってから次の目的地へ出かける事にした。
見とがめたソラが話しかけてくる。
「どっか行くのか?」
「翠玉館。シュテファン達が帰国するっていうから。あ、そういえばお姉さんがいるんだっけ。一緒に行く?」
「ああ、そういう事なら行こう」
◇◆◇
翠玉館に行くとシュテファンはいたがフィリップは学院に戻っていて入れ違いだった。
応援に来てくれた事に感謝はしていたが、あまり顔を合わせたく無かったのでちょうどいい。シュテファンに礼と別れの挨拶をした後、セイラにも挨拶しようと思ったがまだ家出中のままだった。
「あれ?帰国するのでは?」
「さあ、友人の家にずっと厄介になったままみたいで会って貰えないんです」
話を聞くと友人の家とは天馬の牧場の主らしい。
天馬の牧場を見てみたくなってエドヴァルドはついでに訪問する事にした。




