第27話 後始末
どうやら年の差カップルが成立したらしいとソラやシュテファン、パラムン達は二人を祝福した。いつかはコンスタンツィアを守れる男に託す日が来る事を覚悟していたヴァネッサも仏頂面をしつつも邪魔はしなかった。
「エド、また今度ゆっくり話しましょうね。お互い立場もある事ですし」
「はいっ」
夢心地のエドヴァルドをおいてコンスタンツィアはシュテファンに話しかけた。
「シュテファン殿下、フィリップ殿下もいらっしゃっているとか」
「え?ええ」
やっぱり雰囲気的に母と子或いは姉と弟みたいに見える、という感想を持ちつつシュテファンはコンスタンツィアに返事をした。
「隣家の壁も壊れていますし、この状況では何処から誰が入って来るかわかりません。勝手に我が家に入って来たら無差別に被害が出ますのでフィリップ殿下から周囲に警告を流して頂きたいと思います」
「分かりました。私が出て兄と向こうの指揮官に注意してきます」
「申し訳ありません。お気をつけて」
こうして日が変わってしばらくすると状況も大分落ち着いた。
しばらくしてファスティオンがやってきて包囲を解散させて、コンスタンツィアに詫びを言いに来たが、深夜という事もありコンスタンツィアは立ち入りを許さずエドヴァルドが追い返した。
朝日が差し始めた頃地下から家人も出てきて片付けに取り掛かったが、館内は荒れ放題、庭には死体だらけ。外壁も倒壊と散々たる有様だった。
「修復費用が思いやられます」
ヤドヴィカは嘆く。
人の死体など見るのも初めてな家人も多く、どうやって処理したものやらと他の使用人達も途方に暮れた。
「費用はアルビッツィ家がなんとかしてくれるだろ」
ソラは事も無げにいう。
「ソラ様?何故アルビッツィ家が?」
「巷じゃラキシタ家の黒幕はアルビッツィだって噂だぜ。各界から非難されれば修復費用どころか慰謝料も出すだろ」
「そうなの?まあ弁償してくれれば何でもいいけど騎士の家系が聞いて呆れるわ」
以前エドヴァルドに誇り高い騎士になってね、といったのに帝国を代表する騎士の家系がこのザマとは情けない。
警戒しつつもそれぞれ仮眠を取り、その間ガルストン議長や各界の要人、新聞記者も集まってきて一部の人にはコンスタンツィアも応対したがさすがに疲れて彼女も仮眠を取った。
日が大分高くなってからアンドラーシュもやって来てコンスタンツィアはヤドヴィカに起こされた。
「お嬢様、お疲れの所申し訳ありませんがさすがに門前払い致しかねまして」
「・・・仕方ないわね。新聞記者にも立ち会わせてしばらくか弱い乙女として振舞いましょう。会談の準備が済んだら呼んで」
「かしこまりました」
◇◆◇
アンドラーシュは記者が立ち会う事に不満を漏らしたが、第三者が居ない限り決して方伯家は誰とも会わないと明言されると仕方なく同席を許した。
「コンスタンツィア殿、昨日の騒ぎについて私がラキシタ家の軽挙妄動を抑えられなかった事、責任を痛感している。我がトゥレラ家は友人たる方伯家を尊重し一切の危害を加える事は無いと記者達の前で宣言しよう」
「・・・アンドラーシュ様。今回の件、何故わたくしが襲われなければならなかったのか。誰にどんな責任があるのか一刻も早い解明をお願いします。そして皇帝陛下のご逝去という噂が飛び交っているようですが明確な情報が無くとても心細く思います」
「勿論、叔父上の生死については一刻も早く調査させる。近衛騎士ケレスティンと兵団を蛮族戦線に送り出した。一、二ヶ月後には明らかになる筈だ」
コンスタンツィアはひとまず謝罪は受け入れた。謝罪というよりトゥレラ家は関係ないという弁明だったが。コンスタンツィアはその後記者達からの質問を受け入れた。
「皇帝陛下が既に亡くなっていた場合、方伯家は直ちに選帝選挙を始められるおつもりですか?」
「仮定の質問には答えられませんが、全皇家の中から選挙対象となる皇家を選ぶ権利は議会にあります。方伯家は被選挙人から帝国の将来を委ねるにたる人物を選ぶのみです」
「学院ではアルマキウス導師からも過去に例がないほどの優秀な魔術師と褒め称えられたそうですが、今回、コンスタンツィア様自ら迎撃をされたのでしょうか?」
「老師からは過分な言葉を頂きましたが、今回の暴徒を撃退したのは祖先が残してくれた魔術装置のおかげです。それと勇敢な各国王子、王女達。我が家を支援してくれた隣人の皆さんにこの場を借りてお礼を申し上げたいと思います」
「それにしても随分な犠牲者が出たようです。戦死者が動き出して兵士達を襲ったとの情報もありますが」
「あり得ません。まだ息があって助けを求めただけでしょう」
「問答無用で襲われたという隊長さんもいらっしゃいましたが・・・」
「昨日我が家の召使が無断で入らないようにと警告しています。確かに自動で発動する装置はありますが、害意が無い限り発動しません。これまでにも近所の子供が勝手に庭に入って遊んでいた事はありますがこういった事故は一度も起きていません」
「つまりラキシタ家の将兵は方伯家の人々に殺意を持って入り込んだという事ですね」
「ファスティオン様がおっしゃるには何か手違いがあったそうです」
「女性ばかりの家に押し入って手違いだなんてあり得るのでしょうか。恐ろしくなかったですか?」
「何千もの兵士に囲まれて怒鳴られてとても恐ろしかったですし、心細く思いましたが各国から支援の手が差し伸べられて助かりました」
「ラキシタ家に何か補償を求められるおつもりでしょうか」
「その点はアンドラーシュ様が責任を持って取り計らって下さるそうです。わたくしは対応を待ってから弁護士と検討したいと思います」
コンスタンツィアは記者達の中にヴィターシャの姿を発見し、複数回質問をさせてやった。
ヤドヴィカがコンスタンツィアの体調に配慮して質疑応答の時間を終らせると次にアンドラーシュが記者達の前で今後の方針を説明する事になった。
今後はアンドラーシュが新宰相として帝国政府を運営していく事、蛮族戦線については疫病が流行している為、辺境伯の協力を得ていったん戦線縮小させる事、疫病を本国に持ち込ませない為に現地で治療すること、新政府の軍務大臣としてラキシタ家のシクタレス、財務大臣としてアルビッツィ家の当主エンツォを迎える事を表明した。
◇◆◇
後日、父エンツォの命令でレクサンデリがコンスタンツィアの見舞いにやってきた。
「貴方達、ラキシタ家と組んでいたの?」
「いや、少なくとも私は知らなかったが何故か世間ではそういう風にみなされていたようでな。父もその流れに逆らえなかったのかもしれん。ま、どうせ我が家は必要とされている所に金を貸すだけさ」
「貸し倒れになるかもしれないわよ?」
「ふむ、その時は我が家は一連托生かもしれないな」
「他人事みたいね」
レクサンデリはやけに淡泊でコンスタンツィアは気になった。
「私はその気になれば一人で何処へでも旅して暮らしていける。どうでもいいさ」
一万程度の軍事力しか持たないトゥレラ家のアンドラーシュは所詮お飾り。いずれシクタレスに排除され、選帝選挙制を廃止させるつもりのラキシタ家が牛耳る。
そうなればレクサンデリも弟や親族と後継者争いをせずに済む。
「そうなれば万々歳さ」
「そうなの?皇帝になりたかったのでは?」
「親父殿がラキシタ家の天下を認めるつもりなら私の出る幕はない。末っ子のフランチェスコのように殺されたくは無いしな。おまけに最大の容疑者は我が弟ベルナルドだ」
レクサンデリは苦々しい表情を隠しもせず大きく溜息を吐く。
「・・・どこの家も大変なのね」
「ああ、君にもいろいろとあるだろ?さ、イルハン君、行くぞ。被害金額を見積もらなくては」
レクサンデリのところで執事修行をしているイルハンを連れてレクサンデリは屋敷の被害状況を検分して周った。




