第25話 コンスタンツィア邸攻防戦⑨ ~終戦~
「畜生、畜生!ど畜生どもめ!分かってたさ、まだ二、三年くらいは早いかなって!でもさ、せっかく勇気だしたのに邪魔すんじゃねーよ!」
エドヴァルドは敵兵に当たり散らして暴れまわっていた。
息が切れて魔力が枯渇し始めてようやく我を取り戻した。
「やべ、雑兵相手にムキになり過ぎた」
一階の廊下まで降りてきたエドヴァルドは、魔導騎士がいる事を思い出しいったん後退して身を隠そうと思ったが時すでに遅く、殺気を感じもんどりうって身を屈めた。
そのままの勢いで回転しながら大きく廊下の端まで飛び退る。
「いい動きだ」
エドヴァルドに襲い掛かったのは聞き覚えある声だった。
「トバルカイン!?あんた帝国騎士じゃないのか?ラキシタ家の連中に与したってのか?」
黒く不気味な細剣を持つ魔導騎士が先ほどまでエドヴァルドがいた位置に立っていた。
彼の従者も次々と現れて槍を構える。
「勘違いするな。私はコンスタンツィア殿を保護しに来ただけだ」
「それが何で俺に襲いかかる!?」
飛び退った時にエドヴァルドは愛用の棍も手放してしまって素手の状態だ。
廊下に転がっていた剣を手に持ったが相手の魔剣とは打ち合えない。
毒蠍の魔獣の針を加工した魔剣で、僅かな傷も致命傷になる。魔導装甲の鎧が無く、魔力も枯渇しているエドヴァルドには危険過ぎる相手だった。
「残念ながらお前はここでラキシタ兵に殺されて死ぬ。心配するな、お国にはお悔みの言葉を送っておく」
「てめえ!責任を押し付ける気か!そんなに俺が気に食わないか!」
近衛騎士長ヴォイチェフの次席であるシクストゥスに気に入られているエドヴァルドが将来、近衛騎士を狙う自分のライバルになると危険視したトバルカインはここで遭遇したのを幸いとエドヴァルドを消すつもりだった。いちおう彼は帝国騎士としてこの馬鹿騒ぎには与せずコンスタンツィアを救った英雄となる打算で侵入してきたが、目の前に無防備でうろついていたエドヴァルドを見て殺意が沸いた。
「悪いな」
エドヴァルドは拾った剣をトバルカインに投げつけて牽制し、次に逆に自分から近づいて相手の腕を掴む。
「貴様っ!」
最後の力を振り絞った魔力で腕力を強化して相手の武器を奪おうとした。
他に勝機は無い。
「お前達も手を貸さないか!」
一進一退だったが、トバルカインには従士がいる。
全魔力を腕に集中しているので槍で突かれるとエドヴァルドもそこで終りだ。もはやこれまで、と覚悟した所で閃光が煌めきトバルカインの胴体が真っ二つに切断されて上半身が崩れ落ちた。
エドヴァルドの正面にはトバルカインの下半身越しにソラが輝く剣を持って立っていた。
「間に合ったか」
声をかけたエドヴァルドに頷き、ソラは無言で次々と従士達を切断していく。主人がやられ従士達も慌てふためき、算を散らして廊下から庭へと飛び出して逃げていくが、近くの棟の屋上にいたダーナが矢を放ち次々と射殺していく。
「おお、さすが『エイダーナの娘』だな」
「エイダーナ?」
庭の暗闇から訝し気な声をかけてきたのはシュテファンだった。
「おや、お前も来てくれたのか。助かったよ」
「うん、ソラさんから聞いてね。それでエイダーナって・・・?」
「あいつの出身部族だ。追い出されて俺が面倒見てる。ってかそんな話してる場合じゃないって」
まだまだ敵兵の気配はうようよしている。
「エドヴァルド殿!エドヴァルド殿はどこにおわすか!?拙者が、ジワラフ王国が第一王女シュリが助けに参った!」
「お、シュリ姫まで。かたじけない」
エドヴァルドはこっちこっちとシュリに声をかけた。
パラムンやティーバ公の派遣兵、パルナヴァーズも続いて来る。
増援、それも外国の王子王女と名乗る者達が来た事で敵兵も引いていく気配がする。
「兄上も来ています。直接包囲側の指揮官に会いに行っているので間もなく撤兵してくれると思います」
シュテファンがフィリップも現場に来ている事を伝えた。
「そか、よかった。じゃあこれで一息つけるな。それにしてもソラの魔剣は凄い切れ味だな。てか、眩しい」
「ああ、これか。太陽石でね」
ソラは剣の柄にある赤い宝石を軽く撫でると魔剣の輝きが消え去り、見た目は普通の剣に戻った。
「うわ、おっかね!それ日に当たると爆発する奴だろ!?」
「特注品だから大丈夫だ」
増援は十数名。
皆、自国の大使館にも使いを送って圧力を依頼してくれていた。
政府閣僚の娘がいる女子寮も襲われており、皆殺気立っていた。
「おや、トバルカイン殿?こんなところで亡くなっておられるとは」
シュリが真っ二つにされたトバルカインの遺体を見つけて嘆く。
「こいつがどうかしましたか?」
「彼は女子寮を守ってラキシタ兵と戦っていてくれたのです。こんなところで亡くなるとは残念です・・・」
「へぇ、こいつがねえ・・・」
どうやら包囲してる連中とは本当に無関係だったらしい。
庭にはまだ一人魔導騎士がいたが、劣勢を悟って脚力を強化し一気に敷地外まで飛んで撤退しようとした。しかし、それをダーナの矢が追尾して命中、動きを疎外した。
強引に飛び退ったが、続いて誰かが放ったワイヤーが魔導騎士を捕らえて、館の壁面に叩きつけた。魔導騎士はワイヤーを切り払って再度逃げようとしたが、投げ槍によって背中から撃ちぬかれ撃墜される。
「もういい!戻れ!!」
シュテファンが魔導騎士を葬った男に声をかけて集結を命じた。
「すげえ腕だな。誰だ?」
その騎士は近づいてきて言葉短く名乗った。
「コブルゴータ谷の竜騎士ブルクハルト」
魔獣の体の一部を利用して造り上げた噴射装置で高空戦闘を得意とするフランデアンの『竜騎士』という珍しいタイプの魔導騎士だった。神代の竜狩りの闘法を受け継ぐ騎士だが、現代にはもう竜がいないのでフランデアン以外には残っていない。
彼は真っ黒な鎧でバイザーも下ろし素顔が見えず、かなりの威圧感があった。
「フィリップ殿下が世話になったらしいな、小僧」
「お、おう」
「ブルクハルト、やめて。あの件は兄上が悪かったことで決着済みだ」
彼はシュテファンの護衛としてやってきている魔導騎士で、他にもフランデアンの騎士が来ていた。他にも協力者達が集まってきたところで、館内放送が聞こえた。
<<エド?聞こえる?皆さんも。わたくしの館には自動防衛機構が働いているから気を付けて。ここからじゃ設定を変えられないから皆エドヴァルド君についてわたくしの部屋まで来て>>
エドヴァルドの先導でコンスタンツィアが立て籠もっている部屋に皆を連れて行くと、そこには二人の魔導騎士の遺体と惚けている騎士一人が立っていた。
意外と長いエピソードになってしまいました。




