第23話 コンスタンツィア邸攻防戦⑦ ~雷神の槍~
新帝国暦1431年6月18日20時過ぎのこと。
コンスタンツィアを助けにエドヴァルドは飛び込んだが、緊張し過ぎてその場にそぐわない事を言ってしまった。
「えっ?」
コンスタンツィアは飛び込んできたエドヴァルドの応対をしつつ、魔術の制御も行っていたのだが、突然の告白にその手が止まった。エドヴァルドは段取りをすっ飛ばして突然告白してしまい、相手の反応に顔がさっと青くなる。
「やっぱり夜這いに来たんじゃない!このけだもの!けだもの!!」
ヴァネッサがソファーからクッションを取ってバシバシとエドヴァルドを叩いた。
「いたっ、いたっ止めてください。邪魔しないで下さいよ」
エドヴァルドはヴァネッサの手首を掴んで止めた。
「痛いのはこっちです!触らないで!」
「あ、済みません」
緊張して体が強張りついつい力が入り過ぎた。
よく見るとヴァネッサは頭に兎の耳飾りをつけている。
「可愛いですけど、こんな時に何やってるんです?」
「お姉様がいうから仕方なくです。それにどうせここまで入り込まれたら私には何も出来ませんよ。あと私に可愛いとか色目を使わないでください!失礼しちゃう!!」
ヴァネッサはぷいっと顔を背けた。
エドヴァルドはヴァネッサを放っておいて硬直しているコンスタンツィアに向き直った。
「あのう・・・」
「エドヴァルド君?こんな時に愛の告白だなんて冗談は止めてね」
勢いあまって告白してしまったが、ひょっとしたらいい返事が貰えるのでは?と期待していた。しかし、そう都合は良くなく普通に叱られた上、いつもより他人行儀で冷たい。
「はい、済みません・・・。あの一応助けに来たつもりなんですが、お邪魔だったでしょうか」
「そんな事はないわ。来てくれて有難う。これ以上物量で来られると館の備蓄魔力が尽きる所だったから助かるわ」
コンスタンツィアは軍事には疎いが、これだけ大量の犠牲者が出れば普通引き下がるものでは?と考えていた。
魔導装甲歩兵を突っ込ませたところにたまたま指揮官がいて、意識不明の重体になった為、部隊の連携が取れなくなったたとか、複数勢力の部隊が集まって指揮系統が混乱しているからとかの理由はあずかり知らない。
「ここにいると僕のように飛び込んでくる魔導騎士がいるかもしれません。地下室とかどこか安全な場所に隠れた方がいいのでは?」
「わたくしは自分の家で逃げたり隠れたりだなんてみっともない真似はしないわ」
「じゃ、ここでお守りします」
「エドヴァルド君。気持ちは嬉しいけれど、これは帝国の問題だから貴方は関わらなくてもいいのよ」
「いえ、これは個人的な問題です。コンスタンツィアさんをアドリピシアさんのような目に遭わせる訳には行きません」
コンスタンツィアは意地でも動きそうにない。
無理やり連行されそうになれば自害しかねない。そしたらアドリピシアのような扱いを受けるかもしれない。それは許せなかった。
「ふーん?それはわたくしをお嫁さんにしたいから?」
コンスタンツィアは悪戯っぽく笑う。
「うう・・・はい・・・駄目でしょうか」
恥じ入って赤くなり一度はうつむいたが、跪いてもう一度顔を上げ、彼女への愛を告げた。
「ふふ、話はまた今度ね。来たわ」
死体を踏み越えてまた敵兵が館に入り込んできた。
外周部の罠は魔力が尽きたが、館内の自動防衛機構が働いている。
コンスタンツィアはエドヴァルドに家人は地下に隠れている事、一部の部屋では毒ガスが出て無差別に影響が出るのでそこへ近づかないようにエドヴァルドに指示した。
◇◆◇
兵士達は館内に侵入したはいいものの大広間では浮遊する剣や斧が飛んで来て串刺しにされた。一部の部屋では自動的に扉が閉まりガスが噴出して全滅してしまう。
長い廊下では躱す余裕が無いほどの矢が壁から飛んできた。
熊の剥製やら全身鎧の置物が襲い掛かって来ることもあり、気が抜けない館だった。
一部の兵士は前進を拒否して安全を確保した部屋に閉じこもった。
まだ勇気のある部隊は手持ちの大盾や机を盾にして少しずつ前進した、本来の議会に連行する為だという命令さえ彼らは知らずにとにかく応援をと呼ばれてやって来て甚大な損害を負っていた。
とにかく屋敷の主を見つけ出して仲間の復讐を行う。
それしか頭にない。
「何処だ!出て来い!!これ以上隠れているなら火をつけてやるぞ!皆殺しだ!!」
何百もの損害を負って未だ人の姿を誰も見ていない。
暗闇の中、あちこちで味方の悲鳴が聞える不気味な館だった。
大声を出し、恐怖を誤魔化さなければ部下を率いている小隊長も引き返したいくらいだった。
「皆殺しだとう?」
返事は期待していなかったが廊下の先から返事があった。
天井の明かりが灯り、人影が浮かび上がる。
「ああ、そうだ!ようやく現れたか。何者だ貴様は!今すぐ武器を捨てて投降しろ!」
「どうせ殺すつもりのくせに何が投降しろだふざけやがって!相手が誰だか分からないで攻めて来やがったのか!」
「では名乗れ!!」
「俺の名はエドヴァルド、バルアレス王国の第四王子エドヴァルドだ!」
「は・・・?ほんとかどうか知らんが従属国の王子風情が任務の邪魔をするな!武器を捨てて投降しなければ何処の誰だろうとぶち殺すぞ!」
小隊長は頭に血が上りつつも、意外な返答に少しだけ冷静になった。
身分を詐称するには脈絡が無いので訝しがる。
一方のエドヴァルドは相手の殺意に敏感に反応した。
「人んちに土足で踏み入って勝手な事言いやがって恩知らず共が!テメエが死ね!!」
エドヴァルドは壁に掛けられていた斧を投げつけたが、逸れてしまい隣の兵士の頭を兜ごとカチ割った。隣の兵士の頭から血がピューっと噴き出し小隊長も、続く兵士達もその威力に慄く。
「くそっ、イライラする!結構、好感触だったのに!意外といけたかもしれないのに!邪魔しやがって!どいつもこいつもうんざりだ!」
エドヴァルドの苛立ちと共に右手に持った棍は火花が散りバチバチと音を立て白熱していく。
「待てっ、本当に外国の王子なのか?」
これは尋常ではないと小隊長は最後に一言問いかけたがもう遅かった。
「トルヴァシュトラの槍よ!!」
エドヴァルドが放った雷神の槍は応援にかけつけた後続の分隊ごと貫いて館の壁に突き刺さり壁を爆散させた。




