第22話 コンスタンツィア邸攻防戦⑥ ~愛の告白~
仕事が終わったら、コンスタンツィアの家に行って状況を説明しようと思ったエドヴァルドはその日上の空で仕事をしていた。毎日あちこちの勢力の喧嘩に巻き込まれるが、この日はめんどくさくて身分証明書を見せてもどかない連中は片っ端から殴り倒して押し通った。
「おい、ダーナちゃんよ。いきなり弓を射るのは駄目だ。帝国じゃ過剰防衛になっちまう。腹を殴るか、三回警告してから足を射ろ。次は死体の処理をしてやらないからな」
「ワカリマシタ」
エドヴァルドを襲った男をダーナが射殺してしまったので、ソラは知り合いの掃除家に頼んで溶解処理し証拠を隠滅した。下水管理局勤めの魔術師の中にはそういう副業をしているものがいた。
夕方に仕事を終え、さてコンスタンツィア邸に行こうとした所で大きな物音がした。今年二年目のエドヴァルドも、ソラも上級生のように軍事教練に参加した事はないので砲撃音というものを聞いた事が無い。
「なんだ?落雷か?」
「いや、違う。なんだろう、黒煙が上がってるし爆弾かな?」
「コンスタンツィアさんの家の方角だ。嫌な予感がする。行こう」
急いだが、方々で検問があり彼らはは接近もままならなかった。
近くの時計塔によじ登り、高所からコンスタンツィア邸を見るとはたして帝国軍が重囲を敷いていた。
「あいつら、何のつもりだ?ふざけやがって」
既に戦闘が始まっていて正門には大勢の死体がある。
犠牲が大きかったのかいったん帝国兵は引いて包囲を強化し、周辺の家々に入り込んで住人を追い出していた。
魔力で視力を強化できるソラやエドヴァルドは帝国兵の動きは遠くとも手に取るようにわかる。ダーナも素で視力は常人の何倍もあった。
確認している間に日が暮れてしまったので救援の為、のり込もうとしたエドヴァルドをソラは止めた。
「待て。帝国騎士がいる。数は1,2,3・・・7人だ。今の武装じゃ勝てない」
ソラは眼帯を外し、魔眼を使って強力な魔力と装備を持つ敵を確認していた。
エドヴァルドも近ければ、魔力の波動は察せられるがまだ距離があって不可能だ。
「凄いな。どうやってるんだ?」
「企業秘密さ」
「クラヤミ、セントウ、トクイ」
ダーナは自分も夜間は得意だとアピールするが、彼女が相手に出来るのは一般兵だけだった。
「俺は武装の調達に戻る。ついでに誰かに攻撃を中止するよう手を回してくれと頼んでくる。普通なら方伯家のお嬢さんを攻撃するなんてあり得ない筈だ」
「彼女が五法宮の戦いに加わったからラキシタ家の連中が逆恨みしてるんだろう。ファスティオンを逃がしてやったのに恩知らず共め」
今日、エドヴァルドは上の空だったが、普段より激しい戦闘があちこちで起きていた。ラキシタ家所縁の人々の遺体が発見されて恭順しないウマレル宰相派の帝国兵や潜伏中のオレムイスト兵が怒りを買っていたからだ。
「ソラ、あの連中が言って止まるとは思えないぞ」
「現場が暴走してるだけなら上役が出てくれば止まる。連中が本気で帝国を支配するつもりなら彼女に危害は加えないさ」
「でも現に攻め込んでる」
「館内に動きは無い。あの馬鹿でかい巨人が暴れてるだけだ、心配するな。助けを呼ぶか、こっそり彼女を連れ出してしまえばいい。とにかく騒ぐな」
ソラは隠密行動を心がけるようエドヴァルドに言い聞かせた。
「分かった。俺は武器といえばこの棍しかないからこのまま行く。ダーナはパラムンとパルナヴァーズ達を呼んで来てくれ」
「ハイ・・・」
エドヴァルドの側から離れたくないダーナは消極的な返事をする。
「俺の身が心配なら急げ!」
「ハイ!」
叱られて慌てて時計塔を駆け下りて出て行った。
「じゃ、俺は出来る限り男子寮の連中にも声をかけてくる。各国の王子が抗議すれば連中も無茶はしないだろう」
「連中がボロスやアドリピシアさんの復讐に動いてるなら何するかわからないけどな」
「それでも出来るだけ事を荒立てるな。彼女に会ってから指示に従え」
「しょうがないな」
エドヴァルドはただの戦士でありたい、考えるのは他人に任せたいし迷惑をかけるのも悪いのでコンスタンツィアの指示に従うべきというのは受け入れた。
「あとな。囲まれる前に殺せ。情けをかけたりするな。そして動きを止めるな、守りに入ると魔力を無駄遣いする事になる。効率的に魔力を使わないとすぐに息切れするぞ。お前の武器は殺傷に向いてない」
「わかってるって。俺も大分殺してきた。戦場で敵に容赦はしない」
◇◆◇
『従属国』の留学生である彼らが介入して帝国人をあまり殺すとあとあと彼女の立場が不味くなる事くらいはエドヴァルドにもわかる。ソラに帝国騎士の位置を教えて貰ってそこを避け、篝火や、魔術師が打ち上げた照明弾を掻い潜り屋敷に近づいた。
近づいていくととんでもなく強烈な死臭がした。
五法宮の時の比ではない。エドヴァルドにとっては久しぶりの嫌な臭いだ。
再び巨像が動き出し、帝国兵の重囲を崩壊させてしまい、逃げ出した帝国兵を避けて少しずつ身を隠しながら近づくといつの間にか屋敷の池に達していた。
(こんな所に池があったかな?)
エドヴァルドが池だと思った物は実際には血の海だった。
暗くて色までよく分からなかったのだ。
屋敷に残る一体の巨像は帝国兵の死体を一ヵ所に集め、そこから流れ落ちる血が溜まっていた。制作者が売却時につけた戦場自動処理サービス機能なのだが現代には伝えられていなかったので積み上げられた死体はかなり悪趣味に見える。
エドヴァルドは前回訪問時に自動防衛機構の排除対象外の登録をして貰っているので罠や巨像も反応しなかった。
もう少しでコンスタンツィアの私室がある棟に近づくというところで帝国兵が総攻撃をかけてきた。巨像は倒されてしまったようだ。
もともと魔導装甲歩兵の代わりに魔導騎士化の技術が生まれたので飛び出した一体では勝ち目が無かった。操縦者が近接戦闘に向いていないコンスタンツィアだったので、一人の魔導騎士も倒せていない。敷地内に入って来て反応した巨像の方がよく持ちこたえていた。
魔導騎士達が巨像を引き受けてくれたので帝国兵は復讐心を胸に一気に押し寄せてくる。
(くそ)
エドヴァルドは身を隠して帝国兵との遭遇を避けた。
彼らは罠に倒れた味方を踏み越えて館に接近するが、倒れた筈の帝国兵が何十人と起き上がり始めて味方を襲い始めた。
(なんだありゃ?同士討ちか?暗くて味方だとわからないのか?)
とにかく今のうち、とエドヴァルドは館を駆け上がって屋上伝いにコンスタンツィアがいる部屋のベランダに飛び移って窓をノックした。
いつの間にか外に人がいてノックして来た事にびっくりしたヴァネッサが恐る恐る近づき、エドヴァルドとみるや胸を撫でおろし、部屋に招き入れてくれた。
「・・・あら、エド。いらっしゃい。日も暮れたっていうのにどうしたの?」
外の地獄絵図などまるで別世界の出来事のようにコンスタンツィアは悠然と構えている。女性ばかりで心細い思いをしているに違いない、助けにいけばきっと喜んでもらえる、盛り上がる展開になるかなと期待していたエドヴァルドはアテが外れてがっかりした。
「エドヴァルド君?用があって来たのではなくて?」
「夜這いにでも来たんじゃないですか?でも残念でした。今日は私がいますからね」
「ち、違うって!」
女の子達の部屋はいい匂いに包まれていてエドヴァルドは落ち着かない。
「エド?」
訝しんだコンスタンツィアが近づいて上目遣いに見てくる。
「あ、あの!」
「はい?」
コンスタンツィアが上目遣いに珍しく可愛らしく見つめてきたのでエドヴァルドは気が動転し、ついつい現場の状況を忘れてちょっと前に予定していた台詞が飛び出てきてしまった。
「愛の告白に来ました!」




