第13話 女子寮
エドヴァルド同様入寮したばかりのペレニアは、ルームメイトであり婚約者ジュアンの妹と今後の事を憂いていた。
「今年ってほんとにこのまま学院始まるのかな?」
「ラキシタ家の事?政府が勝っても皇家が勝ってもうちらには関係ないんじゃない?誰が支配者になっても官僚無くして国は動かないんだし」
「でもさ、ラキシタ家って実力主義の封建体制じゃない?今はアンドラーシュ様を立てて現行体制を引き継ぐとか言ってるけど実権を手に入れたら私達の家なんて領地没収されちゃうじゃん」
ペレニアのヴェルテンベルク家もジュアンのデュシェンミン家も古代帝国時代にヴェーナ市周辺に領地を持っていて土地を明け渡す代わりに山中に領地替えされた弱小貴族。領地は小さい村に過ぎずいてもいなくても帝国の存続に影響しない。
大半の貴族は私領も無いが彼女達の先祖は帝都の地主だったので例外的に小さいが私領が残っていた。
「んじゃ、留学生を狙っちゃえばいいよ。バルアレスの王子様と親しいんでしょ」
「いや。ジュアン以外の人なんて考えられないもの」
「ペレニアが要らないなら私に紹介して」
「エドヴァルドさんを紹介して欲しかったらジュアンにファランドールと別れるよう言って」
「まだファランドールの事気にしてるの?遊びよ遊び。みんなそれくらいしてるでしょ。平民の女に本気で入れ込んだりするわけないじゃない」
父を早くに亡くし、兄も出て行ってしまって身近に男性がいないペレニアは男の常識とかいわれてもいまいち釈然としなかった。
◇◆◇
マグナウラ院に通学する子弟の中には政府閣僚の子も多い。
宰相ウマレルや軍務大臣イドリースは、給与を返上して国家に尽くしていたが増税により民衆から恨まれている事を承知している。彼らは公邸に住んでいたが、暴動が起きた時に子供達に危険が及ぶ事を恐れて、公邸から出して寮住まいとさせた。
こうして彼らの娘ラティファ、シャムサ達も女子寮に入った。
ラキシタ家は帝国正規軍を通して普段通り市民生活を送るように求めており、今の所、制圧中のラグボーン市でも一般市民が殺傷されたという報告はない。
ヴェーナ市を挟んで反対側にあるアージェンタ市でも市長は市民に平静を保つよう呼びかけて、一般の商店もやや品不足ではあるものの普通に営業している。
間もなく例年通りマグナウラ院の新年度の講義が始まるが、その前に学院から女子寮の監査を委託された風紀委員ユースティアが視察に訪れた。
「これが女子寮・・・?」
ユースティアは唖然とする。
早朝に抜き打ち監査にきた彼女は男子禁制の筈の女子寮の廊下で男子を発見した。
平然と男女で抱き合ってキスを交わしている。
「そこっ!何やってるの!?」
「げっ、ユースティア!?」
東方の王子にしてはやたらと軟派で名高い詩聖王子カオシーだ。
慌てて廊下の窓から脱出して逃げ去った。
その騒ぎを聞きつけた各部屋から男女が顔を覗かせる。
「うおっ、マジだ!逃げろ!!」
そこら中で大騒ぎになった。
「いったい何人男子が女子寮に入り込んでいるのよ・・・」
蜂の巣をつついたようにとても追いきれない男子が走り回っている。
「寮生は全員出てきて食堂に並びなさい!!」
ユースティアと供に来た風紀委員二人が全ての部屋を点検し各部屋から避妊具を発見して食堂に並べた。
◇◆◇
「何なの、この状態は?ここは売春宿ですか!?」
皇家の直系と違い一官僚に過ぎない帝国貴族の子女にとっては外国の王子と関係を結ぶ事は玉の輿になる。親に婚約者を見繕って貰ったり、貧乏な官僚の妻とならずとも王妃になれる機会だ。
帝国の守護神たる大地母神は豊穣の女神、すなわち生殖を司るものであり、古来性交を恥じる概念が無い。叱責された女生徒達は余計なお世話だと怒りの声をあげた。
「お言葉ですけどユースティアさん。貴女のようなおかしな趣味を持つ女に文句言われる筋合いは御座いません」
ユースティアに反論したのは六年生のネーナ・アウストリア。ユースティアよりも年上で、以前地質学者の教授に体を売って将来を約束して貰っていると噂された女性だ。
「何ですって!?」
「貴女が従兄のレオナールさんと肉体関係があることを知らないと思って?」
「そうよ!近親相姦をしている女が健全な男女関係を結んでいる人に文句をいう権利は話無いわ!」
シャムサもネーナに同調する。
「なっ・・・なっ!」
ユースティアは以前、コンスタンツィアにレオナールと恋愛関係にある事を見破られている。将来は従兄婚が許されている自由都市に移住するつもりだったが、確かに帝国の現行法では結婚は許されず、罰則は無いものの慣習的に従兄との肉体関係は良い事とされていない。
寮生全員の前でそれを暴露されたユースティアは非難の嵐に遭い、結局女子寮を追い出され風紀委員からも追放された。




