第39話 復讐完了
「なんでお前がこんなとこにいるんだよ」
悪戦苦闘の末、ラモンの元へ辿り着いたラッソだったが顎と脳天から血を流し既に死んでいた。
「そりゃ、もちろんカルロとラッソの足を引っ張ってしまったお詫びに私が決着をつけようかと。これ、お返ししますね」
「最後の扉を開けてくれたのはお前か」
「勿論。また溶かすの大変だったでしょ?毒ガスは平気でしたか?」
「ああ、カルロに交代して魔術で防いで貰った」
何度か憑依を繰り返すうちに彼らは自在に交代が可能になっていた。
その気になれば同時に憑依した状態になる事も出来る。
「う・・・一緒ですか?」
「ああ、滅茶苦茶怒ってるぞ、後で覚悟しとけよ」
「仕方ないですね。まあ喧嘩した後に抱かれる時が一番興奮するので今回は大人しく怒られます」
「変態め。・・・俺は帰るぞ」
「あ、待ってください。証拠を撮らないと」
ヴィヴェットは荷物を取って来てパシャパシャとラモンの死体を念写した。
「悪趣味だぞ」
「あとでラモンを名乗る男が継承権を主張してきたら面倒じゃないですか。証拠は残しておいた方がいいですよ。爆弾はまだ残っていますか?」
「ああ、何に使うんだ?」
「ここの施設を破壊しないと後で残った記録から正体がバレますからね。といってもこの男のせいで司法長官には存在が伝わってしまっていますが公式記録に証拠が無ければどうにでもなります」
「ま、そりゃそうだろうな。顔がバレてなきゃ問題ない」
顔が判明している指名手配犯も数多くいるが、何億もの人類の中では目立つ真似をしなければ早々見つかる事も無い、とラッソは心配しなかった。
「向こうは貴方に個人的に会いたいみたいですよ」
「どういう事だ?」
「ま、帰り道に話しましょうか。では、皆さん。ごきげんよう。来世では自分の為に生きて下さいね」
ヴィヴェットは死体の山に丁寧に礼を取り、冥福を祈った。
二人は施設を破壊し、火を放ってその場を立ち去った。
◇◆◇
アジトに戻るとカルロが車椅子で待っており、抜け駆けしたヴィヴェットを
厳しく叱った。とはいえ復讐が完了した事でラッソもカルロも気が晴れてその日は飲んで騒いで楽しく過ごした。
翌日ラッソが目を覚ますと裸のヴィヴェットが自分の胸の上に頭を預けて寝ていた。
「あのさ、ダチの女を寝取ったみたいな気がするからほどほどにして欲しいんだが」
ヴィヴェットを起こしてから寝てる間に勝手に体を使うなと文句を言う。
「いいじゃありませんか別に。私はラッソを嫌いじゃありませんし、カルロも同意してますし」
「あいつの体どうにか直せないかなあ・・・」
「コリーナさんとシュミットさんが研究してくれるみたいですから期待しましょう。もし治っても今後も仲良くして下さいね」
「俺がいないと旧スパーニアをまとめられる奴がいなくて困るからだろ。つくづく打算まみれの女だな」
ヴィヴェットは事あるごとにラッソにスパーニアの支配者として戻るように促してくる。司法の手が伸びる前に、前スパーニア王の遺児が生きていると公表し後継者としての権利を要求すれば帝国も迂闊に手を出せない存在となると説得してきている。
「ラッソは民衆の支配に興味はないでしょう?」
「そりゃあな、扇動されたとはいえ父上を裏切り母上を殺した連中だし」
「どんな階級の人間にだって犯罪者はいますよ。個人の問題で全体を見ないでください」
「んなこたわかってる」
「ラッソにはカルロの分も大公として復帰して貰い、平民の議会を作って自治を促して帝国の民衆にも影響を与えて欲しいんです。第一次、第二次市民戦争で散った人々の魂を受け継ぐ為に。ポーターさん達も支援してくれる筈です」
ラッソにそんな崇高な志はないが、自分達の身を護る為に大公国の力は利用出来ればそれに越したことはない。復讐が終ると次は姉や、カルロの家族の事が大事になってくる、何度も説得されて多少は心も動いているが現実感が薄い計画に思えている。
「といってもどこにどうやって名乗り出るかってなあ・・・」
「まあ、下手に立ち回ったらそのまま犯罪者として幽閉されかねませんからね。でも我が社の連載小説でソラっぽい経歴の王子を主人公にしているんですがなかなか評判はいいです。民衆の人気を気にしている政府が帝国の中枢を握っている今が好機なんですよ。皇帝が戻って来たら一存でひっくり返されかねませんし」
「そうだな。まあ、肩の荷も下りたし真面目に考えてみるか」
とりあえず二人は起きて服を着て、カルロの様子を見に行った。
三人で朝食を取り、ヴィヴェットはいつも通り出勤し、ラッソはカルロの車椅子を押して散歩をしたり、家に帰ってからまた出かけて一人で飲みに行った。
以前は戦いに適した体を維持する為にあまり不摂生をしなかったが、今は好きな物を食べて飲んで人生を謳歌出来る。ラッソはしばらくは贅沢をして人生を楽しむつもりだった。
復讐が終わって肩の荷が下りたが、それほど喜びは無かった。
気になっていた部屋の汚れを掃除して、さて次に何をしようかな、と考えられるようになったくらいの満足感くらいは得られた。




