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荒くれ騎士の嘆き歌  作者: OWL
第五章 蛍火乱飛~外伝~(1430年)
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第38話 アデランタード公ラモン

「真に忠誠を知る者はお前達十人だけか。嘆かわしい」


地下シェルターに隠れたラモンのもとへは旧臣が十名集まっていた。

イルエーナ家に仕えていた将軍と魔導騎士七名。

他に雑兵がいくらか。


「閣下、ソラ王子に会ったというのは本当ですか?」

「ああ、なんでお前が知っている」


ラモンは長官にしか話していない筈なのに、将軍も知っていた。

聞けば街中で噂になっているという。


「まったく、帝国の情報管理はどうなっているんだ。安全だと言っていた塔でも襲われるし・・・。お前達は警備を厳重にしてしっかり俺を守れ。長官の話では兄の子も生きてる。どうせお前達も狙われるぞ」

「勿論分かっております。閣下も女遊びはほどほどにして下さい」

「うるさい。十年以上女日照りが続いたんたぞ。お前達はのびのび暮らしていただろうが、俺はずっと狭い部屋に閉じ込められて無為に過ごして来たんだ」


シェルターに呼ぶ女は司法長官の私邸で密会した時、彼の愛人ビクトリアの伝手の範囲に限定しているので身元はしっかりしている。


「分かったら、警備を強化しろ。ここの態勢はどうなっている」

「は、さすがに帝国の最新技術が詰め込んであるだけあって大したものです。地上部分はどこにでもある納屋で監視は農場主に偽装した部下二名。設置されている魔術道具で状況は逐一確認できます。ご覧ください」


短距離魔力通信網で映像は中継されてラモンのいる部屋に投影されている。

地下一階は普通の倉庫に偽装されていて、藁の下に階段があって地下二階は魔導騎士達が詰めていた。


「一階と二階、そして二階から三階に続く階段の前にある扉は全て対爆仕様で最新鋭の高性能爆薬でも、いかなる魔術でも破壊は不可能です。たとえ何百人、何千人の敵が押し寄せてこようと陥落する事はありません」


最下層の地下三階はラモンの居住区であり、警備司令室になっている。

食料は十分にあり、地下水道から水を引いているので数か月の籠城は可能だ。


「よし、農場への出入りは厳重に確認しろ。見知らぬ人間は誰も通すな」

「はい閣下。閣下も身の守りは万全でしょうか」

「ああ、評議会から魔石も貰って体も鍛え直した」


最前線で直接指揮する事を好んだラモンは大貴族にしては珍しく魔導騎士の訓練も積んでいた。


「では、後は任せるぞ」


全ての監視映像を確認し終えたラモンは満足して寝室に下がった。

そこには新しい女が待っており、ただの高級娼婦ではなくビクトリアに紹介された貧しい帝国貴族だという。彼女の邪魔な眼鏡を外しベッドに押し倒した所で再び将軍に呼ばれた。


 ◇◆◇


「なんだいったい?」

「お忙しい所申し訳ありませんが侵入者です。既に地下一階に入られました」


ラモンが映像を見るとソラがいる。

きょろきょろと見回しながら藁を掻きまわしている所を見るとさらに地下室がある事を知っているのだろう。


「どうする?」

「毒ガスの噴射装置があります。遠隔操作で地上部の扉を閉めて流せば必ずや死ぬでしょう」

「ヴィクラマを殺した装置か。よし、やれ」


将軍は地下一階層を密室状態にして毒ガスを流し、ソラが倒れるのを待ったが彼は噴射には驚いたものの気にせず二階層への隠し階段を発見した。


「なんだ?故障か?」

「いえ、事前に試験済みです。そんなわけは・・・もしや魔術で体を覆って周囲の空気を遮っているのではないでしょうか」

「馬鹿な、あいつも魔石を嵌めていた。魔術は使えない」


しかし、現実にソラは階段を下って分厚い扉の前に立っている。

本人が魔術を使えなくても同等の効果を産む魔術装具、魔剣はあるのでそれらを行使しているのだろうと将軍は理解した。


「問題ありません。どうせ奴にはあの扉は突破できません。魔術は長時間使えませんからいずれ死にます。魔石を燃料に使っていてもそれも尽きるでしょう」


魔力の波長を登録した人間にしか開けられない扉で、ソラは扉の周囲を触ってどうやって開ければいいのか悩んでいる。二人は一安心したが、ソラは長剣を抜き神に祈りを捧げるとその剣は眩いくらいに白熱し始めた。


そしておもむろにその剣を扉に突き刺した。


「おい、本当に大丈夫なのか?刺さったぞ」

「映像を切り替えます」


将軍は地下二階の映像に切り替えて反対側から確認した所、剣は貫通していない。


「ごらんの通り、大丈夫です。破壊出来ません。表層を傷つけただけでしょう。いずれ折れて・・・そんな馬鹿な!」


モレスの剣を突き刺された扉の一点が熱せられ赤く輝き融解していっている。

どろどろに溶けて、崩れていく様子に二階に詰めていた魔導騎士達も慌てふためき、全員駆け付けて戦闘準備を始めた。


「何が対爆ドアだ。役立たずめ!お前も今のうちに上に行って騎士達を指揮しろ!!」

「は?」

「扉が破壊される前にさっさと行け!ケツを蹴り飛ばされたいのか!!」


ラモンは実際に蹴り出して将軍と警護の兵士達を全員、地下二階に送り出した。

将軍を上にやってすぐに扉を閉め、再び監視映像に戻ると間一髪の所でソラは二階への扉を完全に破壊していた。


「あれが太陽神の神剣の力だと?畜生め!10年も耐えたんだ。こんな所で死んでたまるか。どこか別に脱出路は無いのか」


ラモンは引き出しを漁って施設の見取り図を出し、脱出路を探した。


「あら、閣下。上の階には魔導騎士がたくさん詰めているんでしょう?一人くらい倒せるのでは?」

「お前か。寝室にいろ」


これから抱く予定だった女が、服を整えて監視室にやってきていた。


「一緒に見物させてください。ところでガスを止めないと二階の人も死んでしまうのでは?」

「おお、そうだった」


ラモンは取り合えず見様見真似でスイッチに魔力を流して遠隔操作装置を使いガスの噴出を止めたが、封鎖していた一階への扉も開けてしまった。

その間、ソラといえば、すぐに二階には侵入せず爆弾を用意して扉前に密集していた騎士達に放り投げて爆殺してしまった。監視映像は煙で何も見えなくなってしまう。


「くっそ、あの野郎!それでも王子か!」


怒ったラモンは机に拳を叩きつけて粉砕させた。

さすがに大公家の血を引くだけあって魔力も強く、女を驚かせた。

女は気を取り直し、苦笑しながらラモンにしなだれかかる。


「普通の王子様は爆弾テロなんてやりませんよね」

「ふん、なかなか肝の座った女だな。気に入った。ここを切り抜けたら、スパーニア王妃にしてやってもいいぞ」

「世の中そういう地位に憧れている人間ばかりじゃありませんよ。前の王妃様みたいになりたくありませんし」

「たしかにな」


二階の監視映像を見ると、煙は段々収まっていき魔導騎士達も負傷はしているものの三名は立ち上がってきた。

煙の中からは光る剣がぼうっと浮き上がり徐々にソラの姿も輪郭が見えてくる。

将軍は魔導銃をその人影に撃ち込んだが、剣に防がれた。


「くそ、やはり神力か!」


単純な魔力であれば魔導銃でそれは引き剥がせる。

太陽神の剣の輝きは弾丸を受けても衰える事を知らず、魔導銃は無意味だった。

将軍に続いて銃兵が通常弾を撃ち込んだが、それも効果は無く雑兵は瞬殺されてしまう。


「あらあら、駄目みたいですね」


女は苦笑しながら下半身をまさぐってきた。


「やめろ、それどころじゃない」

「まだ、四対一じゃありませんか」


四対一とはいえ所持している武器に差があり、騎士達はソラの剣と撃ち合うのを避けながら戦っている。ソラの方も生身なので囲まれると余裕は無くしばらく苦戦が続いた。


「ねぇ、あの将軍様ですか?お兄さんを見捨てて逃げた方って」

「ん?よく知ってるな。そうだ。あいつは兄の部下だったが俺の命令で戦線離脱して来た奴だ」

「そして王宮襲撃の実働部隊も率いていた。だから貴方に仕えるしか無かった。ですよね?そうでもなければ落ち目の貴方の所になんて来ませんし」

「なんだと?生意気な、おま・・・!」


パァーンという軽い破裂音と共にラモンの下半身に痛みが走る。


「んなっ何を!?」


視線を落とすと股間に拳が当てられて、自分の下腹部から血が流れていた。

女はその拳をラモンに見せた。

見ればナックルのようなものをつけているが、そこから丸い棒が二本伸びていた。


「わかります?これ、魔導式と実弾の連装銃。いやー、なかなか魔力の壁が薄れないので困っていたんですけど、さすがに股間なら効いたみたいですね」

「こ・・・このクソアマが」

「じゃ、さよなら」


女の両手にはそれぞれ変わった連装銃が握られていて、もう片方がラモンの顎下に押し付けられた。再び銃声が響くとラモンの喉元から脳天まで二つの銃弾が突き抜けた。

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2022/2/1
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