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荒くれ騎士の嘆き歌  作者: OWL
第五章 蛍火乱飛~外伝~(1430年)
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第33話 五法宮の戦い・裏

「配置を確認しよう」

「どうぞ」


アジトにはラッソとカルロにヴィヴェットが集まっている。

カルロが仕切り、ヴィヴェットは書記に任命され五法宮の地図と勢力図を粘土板に書き、駒を置いた。


・法務省の警備兵

・法務省本部付けの監察隊

・無関係な職員

・議員団とその護衛

・ラキシタ家の特使団

・謎の暗殺者

・観光客

・スパーニア解放戦線


「なんだこりゃ?」


ラッソが気にしたのは最後に置かれた駒三つ。


「駄目ですか?この仕事が終ったら次の目標がいるでしょう?その気になればスパーニア再興だって夢じゃないですよ」


ストラマーナ家唯一の生き残りのラッソ。

イルエーナ大公とアデランタード公が死ねばカルロ以外にイルエーナ家を継ぐ者がいなくなる。ついでに精神病院にいるエイラマンサ家のラミローも連れ出せればスパーニア五大公のうち三大公が揃う。


「お前は王制嫌いの癖に何言ってんだ」

「嫌いには嫌いですが、大勢の死を伴う武力革命をいきなりやれというわけではありません。ラッソのご家族を死に追いやったのは煽られたと民衆でしょう?煽動されやすい民衆にいきなり社会を託すのは危険です」

「なんだ、前はもっと過激じゃなかったか?」

「前に会った記者との交流でちょっと変わったらしい。俺としては歓迎したいね」


カルロとラッソが暗殺業をこれで終りにして、それぞれ新しい人生を歩もうと考えているようにヴィヴェットも緩やかな活動に移って欲しいとカルロは考えていた。


「で、ヴィーはどうすればいいと思うんだ?」

「今回の依頼にある議員団の護衛に賛同する理由のひとつとして議会には庶民院を作ろうとしている議長達の存在があります。平民を帝国議員に抜擢し政策議論に参加させ責任を彼らにも負わせる為です」

「新政府にも批判が集中してるから、責任回避に利用しようってんだな。汚ねえ連中だ」


国家の運営に興味はないラッソは頭から馬鹿にしているが、ヴィヴェットには異論がある。


「多少はそういう側面もあるでしょうが、政府と議員達では少し歩調がずれていますので単純にそういうわけでは無い筈です。何にせよ私はこれが第一歩として歓迎したい、ですからその芽を摘むわけにはいきません」

「やっぱ、考え方がお嬢さんだな。実権なんか渡すわけないだろ。そこらの犯罪組織が支配下においてる下部組織みたいなもんさ。いつでも首を挿げ替えられるお人形さんに過ぎない」

「おい、やめろって」


ラッソの態度が挑発的なのでカルロが止めに入った。


「いいんですよ。ラッソに比べて考えが甘い事は分かっています。でもそういった下部組織が下克上する事はないんですか?」

「む・・・」

「あるよな」


カルロが鬼の首を取ったように誇らしげにするのでラッソは渋面だった。


「さて、ラッソも納得してくれた所で前向きに議論しましょう。私としては市民権拡大に便乗して女性の権利拡大も捻じ込めれば万々歳です。その為にも議員達を守りましょう」

「業界で有名な爆弾魔が大量の高性能爆弾を注文されたらしい。まとまっている時に襲う可能性が高いな」


カルロは事前に議員団が通る道に爆弾を詰め込んだ荷物が置かれていないか確認する事にした。


「そういう暗殺者って目立つ真似して生きて帰る気はないんですか?」

「下っ端は大概洗脳されてる。もしくは家族を失って現世に未練もない連中だ」

「洗脳?そんなにうまくいくものですか?」

「ああ、屈強な獣人でもシャフナザロフ式洗脳術には逆らえない」

「シャフ・・・?」

「昔、そんな名前の魔術師がいたんだとさ。今では地下闘技場だの風俗街で獣人を調教して遊びに使われているが、もちろん人間にも調教術、洗脳術は有効だ。魔術を使う必要も無い技術だから暗黒街でも重宝されてる」

「それじゃ今回の襲撃犯を始末しても終らないのでは?」

「元締めはコリーナが始末するそうだ。大体、今回ほどの大規模な襲撃があれば今後は自分らで勝手に身を守るだろ。俺らの知った事じゃない」

「それもそうですね」



五法宮は三レベルのセキュリティ区画があり、愚者の塔は最も厳しいレベルになる。五芒星の建物の頂点にそれぞれ塔があり、愚者の塔は南側にあった。


「俺は監察隊の通行証を手に入れた。カルロは厳重管理区域の掃除夫の通行証だ」


ラッソはコリーナに貰った通行証を二人に渡した。


「俺、掃除夫かよ?」

「長い棒状の物を持っていてもおかしくないだろ。杖を箒とかモップを改造してそれっぽくみせちまえばいい」

「この通行証で愚者の塔には?」

「無理だ。これとは別に魔力の波長を登録したカードがいる。ヴィヴェットは観光ツアーに紛れて入り、第三区画で退路を確保。いいな」

「了解であります。ちょっと楽しくなってきましたね」


ヴィヴェットは一般人のフリをして第三者の立場から援護し、可能なら念写の魔術装具を使って記録も取って後でスクープ記事を書く。


「真面目にやってくれよ。職員は三千名で貴族も多いがほぼ非戦闘員だ。騒ぎになれば逃げるだろう。ヴィーはパニックになっているフリをして第三区画に留まってくれ」

「ラッソはやはり愚者の塔に?」

「当然だ」


ラッソは短く答え、待機予定の場所を粘土板に書く。

三人の視界が通っていて魔術の通信中継が届く範囲を確認した。


「近くで監視して扉が開いたら突入する。連中を殺したら戻って襲撃犯を始末して、護衛対象が安全圏まで逃げたら全員脱出する。俺は目的を達しさえすればこの日死んでも構わないが、不測の事態が起きたらヴィヴェットは逃げろ」

「勿論そうしますが、二人とも生きて帰ってくださいよ。二人をスパーニアの統治者に据えて市民議会を設けて帝国に良い影響を与えて貰うという目標が出来たんです」


またその話かとラッソはうんざりした顔をする。


「その気はないってのに」

「ラッソ、スパーニアの事はともかく俺達はこの仕事が終ったら、次に生きる目標が必要だろ。ようやく俺達は自分の人生を始められるんだ」


やさぐれているラッソと違ってカルロはそれも満更ではないらしい。


「自分の人生ね・・・俺にそんなものが許されるのだろうか」

「幸せにならなきゃ駄目ですよ、ラッソ。伴侶を得て亡くなった家族の血を継いでくれる子供を残さないと」

「俺が子供ね・・・、とてもそんな気にはなれないな」


基本的に暗殺の実行役だったラッソは復讐自体に後悔はなくとも、人並みの幸せな人生を送る気には・・・送っていいのだという気にはなれなかった。


「殺された分、死なせた分、子供を作り、育み、次代に伝えましょう。資格がどうとか言わないで下さいね。憎い仇が幸せな家庭を持ってるのに、貴方が幸せになれないなんて嘘です。そんな事神々もお許しになりません」

「わかった、わかった。まったく、つくづくお前をこっちの仕事に関わらせるべきじゃなかったと思ったよ」


ラッソはその気になれば五法宮程度の壁は飛んで越えられるので脱出路はいくらでもある。直接戦闘に関わらないとはいえ強行突破が出来ないカルロとヴィヴェットの方がある意味危険だ。


「俺もこの仕事が終ったら家庭を持ちたいな」


カルロはこれが最後の仕事だと思うと少し気が弾んでいるようだ。

うきうきした顔で展望を口にした。


「誰か当てでもあるのか?」

「おう、俺、この仕事が終ったらヴィーを嫁さんにする」

「「え?」」


ラッソとヴィヴェットの反応が重なった。


「前に俺らは三人のチームだから、駄目だって言ってたろ。だが、この仕事が終ればまっとうな仕事につく。な、ヴィー。俺と結婚して子供を産んでくれ」


カルロはヴィヴェットの手を取った。

しかし、ヴィーはその手を握り返さなかった。


「駄目か?」

「やっぱりスパーニアを再興する気はないんですね」

「今すぐにはな。それにそんな立場になったらヴィーが嫁に来てくれるとは思えないし」


身分制社会の打倒を訴える彼女が大貴族の妻になりたがる訳がない。


「そうですね」

「じゃ、やっぱり駄目か?俺がヴィーと結ばれる道は無いのか?俺がヴィーの為にイルエーナ大公家を継げばお前は嫁に来てくれない。だが帝国で一般市民として暮らす俺にお前は興味を持ってくれない」


ここで初めてヴィヴェットは落ち込むカルロの手を取った。


「馬鹿ですね、愛の前にそこまで打算的ではありませんよ」

「じゃ、嫁に来てくれるのか?」

「私が現役の帝国貴族だって事忘れました?今は帝都を動く気はありませんし、カルロはヴェルテンベルク家に戻るんですか?帝都で結婚して生活するならお母様方にもいつか知られるかも」

「あー、いや。さすがに今さらそんな気は無いな。じゃ、やっぱり駄目なのか」


過去の事で恨みを持っている誰かが実家に迷惑をかけると困る。


「もう、しつこいんだか、諦めが早いんだか。駄目とは言ってないでしょう。結婚という制度を使う気がないだけです」


そういってヴィヴェットはカルロの顔を振り向かされて唇を押し付けた。

意気消沈していたカルロの頬が一気に紅潮して喜色に染まり、ラッソが冷やかして口笛を吹く。


「じゃ!」

「ええ、カルロ。私も脛に傷を持つ身ですけど。カルロに子供が欲しいって望まれるの嫌じゃありませんよ」


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2022/2/1
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