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荒くれ騎士の嘆き歌  作者: OWL
第五章 蛍火乱飛~外伝~(1430年)
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第24話 出会い

 大口融資をしてくれる相手が複数見つかり、経験豊富な経営者が得られ、安定した購読者として水神、火神の信徒達も得られてヴィヴェットの出版社は急速に大きくなった。

経営はポーターに任せているが、編集会議ではヴィヴェットも積極的に発言する。


「この『家内』という表現は今後使わないで下さい」


妻だからといって家に閉じこもっている女性ばかりではない、ヴィヴェットは家内という言葉を嫌った。一部の部長は不服そうな顔をしたがオーナーには逆らえず今後『ヴィーヴィー』や『テレール』での使用は不可となる。寄稿を依頼した文筆家達でも文言は変える旨を通達させた。


会議の出席者達が退出した後、カルロの視線が気になってヴィヴェットは口を開く。


「カルロも女は家にいるべきだと?」

「いや、そんなこといわねーよ。思ってたらヴィーに協力なんかしてないし・・・」

「し・・・?」


口を濁した感じだったのでヴィヴェットは続きを促した。


「習慣的に使ってきたような言葉まで駄目だしされるとちょっと嫌かな」


無意識に反発感を抱いてしまった事をカルロは詫びた。


「その無意識に、何となく湧き出てくる反発感は何処から湧いて出てくるのかといえばやはり日常的に使われる言葉や習慣からでしょう。私はそういう社会的な圧力、人を型にはめようとする力を無くしたいんです」

「そか。ま、頑張れ」


カルロはヴィヴェットを守ってやりたいと思うからこそ彼女の護衛についている。

ラッソは暇さえあれば鍛錬を重ねているので基本はカルロの仕事だった。

カルロは肉体的に脆弱な女性であるヴィヴェットを守りたいが為に、安全な所に押し込めたいという本能的な欲求と戦っていた。それはヴィヴェットの意思とは異なる。


ままならない思いを抱えながらカルロはヴィヴェットを見守った。

彼女は魔石の万能性についての記事を書き、人間の身体能力の拡大だけでなく生体情報のモニタリング、そして自分で制御する能力が無い人間の場合盗聴も可能であるという魔術師の論説を書いた部分のすぐ隣にフランチェスコ生命保険会社の広告を乗せた。


もちろんあたかもフランチェスコがばら撒いている魔石で盗聴をしているように思わせる為だ。来週にはもっと直接的な表現を載せる。


「しかしゴドフリーも加入してしまった。ちょっと遅かったな」


ゴドフリーはラッソの仇の一人であり、彼の右腕と左目を奪った第7監察隊長である。ラッソはこの記事が役に立ったのは認めたが、残念ながら間に合わなかった。


「調査によると地震の後は、磁場が荒れて生体情報の監視が出来なくなるという問題があるようです。その隙なら狙えるかもしれません」

「後は火事の時だな。どうするラッソ」


災害で負傷者が多数出てミニットマンサービスの手が足りなくなる時が狙いどこだとカルロは指摘した。派手に放火してサービス加入者を巻き込めばいい。


「さすがにそこまでは出来ない。だが・・・今までと違ってあいつは拉致してからさんざん苦しめてから殺したい」


ラッソは今まで以上に復讐に燃えていた。

記憶を取り戻したラッソの話を聞いた二人は気持ちは理解したがそれは止めた。


「危険過ぎるし、時間はかけられない。何処に魔石をつけてるかもわからないんだ」

「そうですよ。復讐は止めませんがその先の事を考えましょう」

「先?」


ラッソはこれまで復讐以外、人生の先の事を考えた事は無かった。


「復讐が終わった後やりたい事とかありませんか?ゴドフリーを惨たらしく殺すリスクと比べてどうですか?本当に引き換えに出来ますか?」

「俺は復讐さえ完遂出来れば後の事はどうだっていい」


といいながらもラッソは姉の顔がちらついて離れなかった。

幼い頃のまま天真爛漫で眩しい笑顔が思い浮かぶ。


「でも標的を皆殺しにしたいなら失敗は出来ない筈、そうでしょう?」

「そりゃあ、そうだが・・・」

「復讐を絶対に成功させたいなら、やめときましょうよ。自己満足で途中で死んでもいいのならその復讐は成功しなくてもいいと思ってるという事になります。違いますか?」

「理屈じゃそうかもしれないが、これは感情の問題だ。・・・だが、まあ考えておくよ。二人に反対されちゃあな」


不承不承ながらラッソは頷いた。


「二人とも将来の話とか真面目に考えてみませんか?なんといってもスパーニアの王子と大貴族の長男の生まれなんですからいっそスパーニアを再興しちゃうとか」

「俺らが?無茶いうなって。こんなスラムの人殺しが玉座に返り咲くなんて」


二人とも馬鹿馬鹿しいと笑う。


「いやいや、そんな事ないでしょ。イルエーナ大公やアデランタード公に旧領を回復させる動きがあるくらいなんですよ?帝国政府はサウカンペリオンと旧スパーニア領の統治に手を焼いています。悲劇の王子と帝国に忠実に最後まで最前線で戦って戦死した大公の孫が戻れば民衆も喜ぶのでは?憎い仇の財産を全部二人が奪えるんです。復讐の一環とも言えますよ」

「夢物語さ。俺らが何者かなんて調査されたら面倒な事になる」


ラッソにその気はない。


「人生、夢があってもいいじゃないですか。犯罪者のイルエーナ大公を赦免するくらいなんですから、窮状に追い込まれてる政府も気にも留めないかもしれないし。要は民衆が歓迎するかどうかです」

「ま、何十年も経ってほとぼりが冷めたらそんな風に思えるかもな」


明らかにそんな気は無いという感じのラッソにヴィヴェットはまだ食い下がる。


「一度政府発表があれば後から何か見つかっても王子達に手出しは出来ませんよ。自分と家族の身を守る事に繋がります。是非真面目に考えてみてください。私も応援しますから」


二人に明るい未来をみせようとするヴィーの意気を汲んでカルロは軽く頷いた。

ラッソもそれ以上は何も言わなかった。


 ◇◆◇


 彼らはホームレスを雇ってゴドフリーの家の近くに住まわせて監視に当たった。

フランチェスコは公聴会を開いて議会に呼び出される寸前になっており、このままだと上手くいけば営業停止にさせる事も出来そうな状況だったのでもうしばらく様子見をしている。


「ゴドフリーには隙が無いな。前に一度襲われてるし、部下も殺されて自分が狙われてるのが分かってる」

「でも前に比べれば大分警備は減った。あいつの持つ妙な剣とモレスの剣とどちらが強いか勝負だな」


以前は痛い目に遭わされたラッソも今は自信をつけていた。


「お前な、正面から挑む暗殺者がいるか?放火とか毒とかそういうアイデアないのか?」

「放火も毒も他人を巻き込む可能性が高い。搦め手で行くならあいつの娘の一家を拉致してあいつを誘きだすのがいい。生命保険は破棄させてな」


他人を巻き込みたくないといいつつ、ラッソは標的の家族を巻き込む事を提案した。


「それは駄目だ。奴は家族と離婚してもう縁が無い」

「だが、ずっと手紙のやり取りをしているし現役の頃は援助していた。かなり大事にしてるはずだ」

「だとしても反対だ。ヴィーもそういうと思う。か弱い女子供を人質に取るなんてどうかしてる。お前だって家族が悲惨な目に遭ったんだろ?前に子供を殺してしまった事を後悔してたじゃないか」

「だったら、お前は手伝わなくてもいい。俺一人でやる」


ラッソは話はこれまでと立ち上がった。


「待てったら。どうしたんだ?急に焦り始めて。最近お姉さんによく会いに行ってるのが関係してるのか?」

「・・・ああ、早く標的を始末し終えて姉さんを引き取って普通に暮らしたい。俺の中で復讐より、平穏な人生を求める内なる声が日々高まっていくのを感じる。お前はどうだ、最近ヴィヴェットといい雰囲気じゃないか。正直復讐よりヴィヴェットの方が大事になってきてるんじゃないのか?」

「ん・・・まあ、俺の場合は父さんの顔さえ覚えてないからな」


カルロの場合、ラッソほどの激しい憎しみはない。


「止めたくなったんなら止めろ。俺は一人でもやれる」

「馬鹿言え、兄弟を見捨てられるか。とにかく焦るな。俺は最後まで付き合う、なんとかする方法を見つけてみるよ。お前はもっとモレスの剣を使いこなせるよう鍛錬に励んでろ」


 ◇◆◇


「この剣を使いこなせといってもな・・・陽の光にあてると白熱してしまうし目立ちすぎてとても人目のある所で振るえないんだよな・・・」


結局今まで通り鍛錬には木刀を振るうしかない。

暗殺者が正面から剣を合わせるのは最後の手段だが、工作活動に長けた監察隊の隊長の不意をつくのは難しい。既に五十歳ほどの筈だが以前のラッソではまったく敵わなかった。


ラッソはメイソンに剣の稽古の相手になって貰ったり、持久力をつける為にナトリ河岸を毎日走り込んでいた。

そんなある日、堤防上で最近売り出された車椅子に老人を乗せた女性が口論していた。というか一方的に老人に対して怒鳴り倒していた。


「もう!お義母さんたら、どうしてお漏らしするまで我慢してたのよ!!恥ずかしいじゃない!!」


怒鳴られた老婆は怯えて泣いていた。


「外に連れて行って欲しいというからこんなもの買ってあげたのに!もう勝手にして!!」


女性は車椅子を突き飛ばして踵を返し、自分だけその場から立ち去ってしまった。

ラッソは老婆を助けてやろうと思ったが、ラッソの位置からだと河原から堤防の上まで上がるのに階段をみつけて上がらなくてはならないので手間取った。

その間にちょうど堤防の反対側から走ってきた少年が泣いている老婆を不思議がって近づき話を聞き始めた。


「どうしたばーちゃん?」


聞かれても老婆は答えをいい澱む。

少年が首を傾げつつもう一度優しく問うている間に、もう一人か細い少年が後ろからやって来た。


「エディ?どうしたの?」

「ん?ああ、なんかこのばーちゃんが泣いてたから聞いてみたんだけど、俯いて泣いているばかりでな」


後から来た少年の方は鼻をひくひくさせて事情を察した。

とはいえどうしたものかと困っている。ようやく堤防の上まで上がり切ったラッソが彼らに話しかけた。


「あー、君達。近くに神殿があるから彼女はそこに預ければいい」

「神殿?」

「あれだ。たくさん煙が上がっているだろ」


ラッソは常夜灯神殿を指差した。


「一際大きい灯台みたいなやつの所の人達ならこの辺一帯の人々の事をよく知っている。彼女の事を知っている人もいるかもしれない」

「そか、じゃあ行こうイリー。あんたは?」


ラッソは任せようかと思ったが、何度も行った事がある神殿に見れば分かるだろと突き放すのも冷たいかと思って彼らを連れて行く事にした。


 ◇◆◇


 老婆はいくら尋ねても答えてくれないので三人は雑談をしながら神殿まで歩いた。


「俺はエドヴァルド、こっちはイルハン。あんたは?」

「俺はラッソ。君らは外国人か」


ラッソは自分を近所の日雇い労働者と名乗って自己紹介した所、向こうは留学中の王族だった。エドヴァルドという少年には頬骨の所に魔石があったのでそれなりの家柄の貴族とは思ったが二人とも王族とは思わなかった。


「ああ、にしても車椅子を使ってる人がもういるなんて帝国の開発力はすげえなあ」


エドヴァルドは自分も少し前までこの車椅子で運ばれていたという。


「ふーん、この車椅子ってのはガドエレ家の商品だったのか」

「こんな短期間に商品化しちゃうなんて凄いよね。レックスも一応友達と何か作ってたけどいまいちみたいで」

「あのキコキコ鳴らして走らせてる奴だろ?陸船車とかいったっけ」


船に車輪を付けて、ペダルを足で或いは棒を使って漕ぐ陸上用運搬車だが、あまり速度が出ず使い勝手が良くないのでそれほど評判は良くない。


彼らは神殿に辿り着くと親切な女性に老婆の世話を頼み、ラッソはその間にクベーラを呼び出した。


 ◇◆◇


「というわけで彼女の家族を探してくれないか?」

「・・・何故私の所に来る」


見知らぬ少年が二人いるのでクベーラも反応に困っている。


「ご老人を尊ぶ文化だから最後まで責任を持って見届けたいらしい。立派な事だと思わないか、クベーラ。帝国人は自分の家族を捨てるのに、彼らは赤の他人をこうも心配する。あんたは南方人だが、ナトリの宗教連盟は人種を問わず人々に奉仕するんだろう?」

「無論だ。我々は全ての哀れな魂を救いあげる。ひとまず診てみよう」


クベーラが診る所どうやら老婆はショックで精神を病んでしまったらしく、自分の名前も自宅も言う事も出来なかった。


「しまったな。あの女を掴まえておけば良かった」


関わり合いになりたくなさそうな女だったのでラッソは無理には引き留めなかったが、今となっては唯一の手掛かりだ。


「そう遠くない家の者だろうから、信徒達の中に知っている者がいるかもしれない。とりあえず今日は我々が引き取って面倒を見る。見つからなければヴィヴェットに人探しの広告でも出させればいい」

「そうか。じゃあ、また様子を見に来る。面倒をかけて悪かった」


堤防で知り合った二人の少年も何度か様子を見に来た。

老婆の家は無事みつかり、ある貴族の家柄だった事も分かったが家族は認めず引き取りを拒否した。

老婆は精神を病んでしまったまま、相変わらず泣くだけで自分の事を何も話さず、行く当てがない彼女は精神病院に送られる事になった。


 ◇◆◇


 その後、堤防で走り込みをしているとよく二人に出会うのでラッソは彼らに状況を伝えた。


「彼女が自分が誰なのかも分からなくなってしまっているのを利用して家族は人違いだと言い張っているらしい。神殿側もいつまでも預かっておけないのでヘパティクプロス精神病院に送る事になった」


クベーラはここらが落としどころだろうと判断し、ラッソも仕方ないと諦めている。


「ひっでえなあ。自分の母親を見捨てるなんて、信じらんねえ!」

「まあまあエディ、そんな家族の所に無理に帰してもかえって可哀そうかもよ」


エドヴァルドは老婆を見捨てた家族に毒づいているが、イルハンは赤の他人の自分達がこれ以上関与出来る事ではないと割り切った。


「二人とも王族なのに他国の老婆一人をそんなに気にして随分立派だな」


ラッソは皮肉ではなく素直に感心する。


「気にしてるだけで何も出来ないけどな。ラッソこそ、ただの通りすがりなのに神殿にかけあったり新聞広告手配したり随分じゃないか。実は結構なとこのお坊ちゃんじゃないのか?」

「いや、たまたま知人に新聞関係者がいるから人探しの広告を乗せて貰っただけだ」

「そんな偶然あるか?」


エドヴァルドは疑ってじっとラッソの目を見つめてきた。心にやましい事があるラッソはつい目を逸らしてしまう。そしてそちらの方向にもイルハンがいて、彼をみつめていた。


「何か訳アリ?迷惑だったら追及しないけど、それ魔石だよね」


イルハンにラッソのピアスに偽装した魔石を見破られてしまった。


「ああ、それでか。違和感あると思った。なんか魔力漏れてるし」


一応この稼業をする上で用意しておいた偽装用の身分を名乗って誤魔化した。


「庶子の出でな。家から追い出されて、実家の姓を名乗らない事を条件に援助されてる。いつか魔導騎士になって見返してやるつもりで訓練してるんだ」

「おっ!そうか。じゃあ俺と稽古しないか?イリーじゃ相手にならないし学院じゃあまり手の内をさらせないしどうしても勝ちたい奴がいるんだ」

「勝ちたい奴?王子様も喧嘩とかするのか?」


これまで誰にも見破られた事が無いピアスが魔石とばれてラッソはやはり他人と必要以上に親しく接する事の危険を悟った。これ以上は不味い。適当に話を合わせてもう会わないつもりだったのだが、次の言葉で考えを変えた。


「ああ、フランデアンの王子様でな。胸糞悪い奴なんだ。自分よりずっと年齢が上だし、魔力も桁違いに高い」

「へえ、フランデアンの・・・」


ラッソにとってもフランデアンは遺恨ある相手。

フランデアンが出しゃばらなければイルエーナ大公のクーデターも無かった。そして話を聞くと姉をこき使って怒鳴りつけていた王子こそ、この少年の喧嘩相手だった。


そこでラッソはこの少年の稽古相手になってやる事にした。

これまで稽古相手はメイソンしかいなかったし正道の剣法を使う相手と戦った事は無いので地力を上げるのになかなかいい相手となった。ナリンから喧嘩相手の王子の情報を聞き出して彼に教えてやり、自分が模擬戦の相手を務めた。


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2022/2/1
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