第19話 リブテインホテルでの会合②
リブテインホテルのオーナー、バルダーソンはポーターから受け取った報告書を読んでいた。
「なるほどね。装着者が認識していなくても攻撃を自動回避する機能に投擲攻撃に対する守りもあるのか。これでは暗殺は難しいな」
「酒には酔うようなので毒は効く筈です」
「ここまで調べたのならラッソ達にやらせたらどうだ?」
「彼らの主目標ではありません」
「階段の高い所から後ろの人間ごと突き飛ばしてみたら神器の守りの対象外になるかな?」
悪意のない第三者を武器代わりに使用する事で神器の保護対象外になるのではないかとバルダーソンは考えた。
「恐らくは。それでやらせてみるつもりですか?」
「ちょっと試してみたいが素人考えだ。実行役が決まったら判断させよう」
次の報告書を読むとフランチェスコが営む保険業には海難保険もあり、海賊に襲われた際の荷や生命の対価についても保証している。5,6年前にダルムント方伯令嬢が海賊の襲撃に遭った事件があったがあれはこの保険業者が雇った事件ではないかという疑いがあった。
「これは本当かな?危機を演出して契約増加させる為だと?」
「以前は兄のベルナルド商会が保有していたものですが、ちょうどフランチェスコに譲り渡された時期に被る為、誰がやらせたかは微妙な所です。しかしフランチェスコを叩く材料になるでしょう。新聞で取り上げ金融庁から監査に入らせる事は可能かと思われます」
「どうやって調べたんだ?信憑性は高いのか」
「長兄のレクサンデリが方伯家に一度は報告したようですが、当主はアルビッツィ家内部の勢力争いと判断して公にせず放置したとのこと」
情報の出所についてはポーターは報告しなかった。彼も詳細については企業秘密だといって教えて貰っていない。状況証拠と噂ばかりで追い詰めるには少し物足りない情報だった。
「次はミニットマンサービス加入者の体に埋め込まれた魔石についてか。生体情報を監視する為の魔石で盗聴も可能だと?」
「サンプルを入手してシュミットに確認して貰った所、可能ではあるそうです。やっているかどうかは定かではありませんが立ち入り調査を行う理由にはなるでしょう」
特定の被保険者にだけ実施していた場合はサンプリング調査が難しくなる。
「これが一番固いな。金融庁の監査役と賢者の学院の導師を動かして連中がシロでも疑わしい物を検出させて、新聞屋にリークして騒ぎ立てればいい」
「アルビッツィ家も新聞社を所有していますから何かしら対抗キャンペーンを打って来るかと思われますがどうしますか?」
「ガンビーノのコネを使ってガドエレ家のアル・ディアーラからさらに対抗させる。その間に自由都市系のオットマー社を使って外国に出向いている帝国人にも情報を流す。工作の指揮はお前が取れ。女に貢いでしまったんだろ?」
面倒な仕事だがポーターは肩を竦めて同意した。
「仕方ありませんね」
隠居生活をしていたポーターが再び同胞のコミュニティに戻って来てオーナーの側近となったのも資産を使い果たしてしまったせいだった。
「ラッソ達にはしばらく仕事を控えさせろ。ガンビーノ達にも大人しくお行儀よく過ごさせている。当面は政府と裏社会の間で蜜月を演出しなければならない」
「聞くかどうかわかりませんが、いうだけいってみましょう」
「必ずそうさせろ。今回はよくやった。報酬に10枚くれてやる。それで遊ばせておけ。女にも」
「必ず?どういうことです?貴方が再び西方商工会と連絡を持ったというのは本当ですか?」
「貸しを作ってやるだけだ。連中の指示でお前にそういってるわけじゃない。分かったら行け」




