第17話 リブテインホテルでの会合
ある日、アージェンタ市の五大組織の長がリブテインホテルに集まっていた。
ここは中立地帯であり、組織間抗争に関わらない職業暗殺者を多く抱えている。
各組織は自前の暴力部隊も抱えているが内部粛清の際には情報が漏れる事を警戒してリブテインの暗殺者を使う。
最上階のホールに各組織の長とその護衛、リブテインホテルのオーナー、そしてポーターやアルマン達も集まっていた。
アージェンタ市マグナウラ学術区を仕切るティルマラ・パララヴァが今回の会合の主催者であり、趣旨を話し始めた。
「さて、コルレオーネにガンビーノ。睨みあいは無しにして私の話を聞いてもらいたい。昨今の最大の問題、フランチェスコ生命保険のミニットマンサービスにどう対処すべきかという件だ。お前達の所でも先月は十名近くがあの連中に殺された事はわかっている」
パララヴァ一家は麻薬売買を中心に勢力を拡大し学術区を支配してアージェンタ市当局の役人にも広めて弱みを握っている。他の組織も当局に対してはパララヴァ一家に当局と話を付けて貰う事が多く、大きな暴力組織を持たないとはいえ一目置かれる存在だった。
「我々はこれまで内務省とも市の警察組織ともお互い干渉せず独自の秩序を保ってきた。それを一企業にぶち壊しにされている。賄賂も通用せず、単独では武力でも勝ち目はない。皆、抗争を一時停止してあの脅威に立ち向かう事が必要だ」
「手を取り合って一致団結してフランチェスコ・アルビッツィに立ち向かえとでも?馬鹿馬鹿しい」
ガンビーノの物言いにコルレオーネも頷いて同意を示した。
「お互い親兄弟を殺し合ってるこやつらが今さら手を取り合うわけなかろ」
「その通り、こやつらが二人とも死んでから新たな秩序を築けばいいだろう」
クロウリー協会の導師とナトリ宗教連盟の代表者達も放っておけばいいという態度だ。
「ではせめて手は組まずとも問題が落ち着くまで抗争を止めて貰いたい」
「抗争を止めてどうする?アルビッツィ家に喧嘩でも売るのか?オレムイスト家の騎士がようやく街中から消えたと思ったら今度はあいつらだ。きりが無いぞ」
「知恵を出し合う為に呼んだのだが、知恵が無いならせめて口を閉じて会議の成り行きを静かに聞いていて貰いたい。それとも意地をはって自力で連中と戦うか?私が当局に対して築いてきたコネも急速に断たれつつある。これまでのようにはいかなくなるぞ」
「で、お前には連中を黙らせる良い提案でもあるのか?」
「隊員の家族や友人を人質に取ろうにも独り身の物ばかりでうまくはいかなかった。我々が金を出し合って賞金を賭けたらどうかと思うが」
「それでここを会合の場に選んだのか」
「まあな。寝ても覚めても襲われる危険にあえばいずれ成り手も減るだろう」
ガンビーノもコルレオーネもいったんは損得を計算して黙り込んだ。
現状が続けば全皇家の魔導騎士達が帝都に集まった時や内務省特務部隊が暗殺教団の強制捜査を行っていた時期に逆戻りだ。彼らは息を潜めて状況の変化を待つしかなくなり、大損害となる。
「成り手が減るというのは希望的観測に過ぎない。帝国内においても各国においても常に主や国を失った没落家系の騎士崩れは存在し市場に供給され続ける。フランチェスコ本人を黙らせない限りどうにもならない」
ナトリ宗教連盟の代表者は暗殺を示唆した。
「ナトリの・・・それは危険だ。皇家に対して直接喧嘩を売ればどんな報復が来るか分からないぞ」
「では、どうやって黙らせる?」
各組織の長達は押し黙った。これといって良いアイデアが出ない。
「何なら我々が手を打ちましょうか?」
場所を提供したリブテインホテルのオーナー、バルダーソンが口を挟んで提案した。
「妙案が?」
「フランチェスコを物理的に黙らせるなら奇襲が肝心。下手に懸賞金を出して暗殺を何度も試行されては却って成功率が落ちる。まずは評判を落とし、営業を停止させ、護衛を削ります。暗殺するしないはそれからです」
「確かに。営業を止めさせる事が出来るのならそれに越した事は無い。だが、現実的にはどうやって?」
「新政府は皇家の資産制限法を強化し、私領外での新規の営業活動を停止する法案を可決させたでしょう?その法律に抵触している恐れがあります。まずは世論を動かして帝国議員にも賄賂を送るのが良いでしょう。資金と新聞社はガドエレ家の協力を頼めばいい。ガンビーノは彼らと親しいでしょう、一つ動いてみては?」
「借りが大きくなる。なんで俺らがお前達の為に借りを作らなきゃならんのだ」
「ガドエレ家もアルビッツィ家が帝都を牛耳るのは良しとしないでしょうから借りにはなりませんよ。上手くいけば各組織がガンビーノに対して何らかの譲歩をするとか、その辺りでどうですか?」
ガンビーノはいくつか条件を出してからその提案を受け入れた。
「ガドエレ家だけを頼みとするには不安ですし、我々も独自に動きましょうか」
バルダーソンの後ろで黙って成り行きを観察していたポーターが口を挟む。
「独自に?何か良い考えでも?」
「ちょうど知人が新聞社の起業を準備していた所です。ガドエレ家の系列紙だけが批判しても世論はさして動かないでしょうが、他の新聞社も動けば彼らも遅れをとるまいと焦って交渉しやすくなるでしょう」
ポーターの提案により各組織の長達が資金を出し合って他の新聞社の紙面の買収に動いた。こうしてその資金の一部はヴィヴェットの所にも流れ込み、立ち上げが急速に現実味を帯び始めた。




