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荒くれ騎士の嘆き歌  作者: OWL
第一章 すれ違う人々(1425-1427)
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第25話 バルアレス王③

「そうか、わかった。下がっていい」


クヴェモ公と戦費の支払いについて話し合っている時にベルンハルトの所にエドヴァルドが駆けこんで来て、これまでの経緯を洗いざらい喋ったが、ベルンハルトはエドヴァルドには何も語らず退出を命じた。


「父上、どうするの?」

「俺は下がれと言ったんだ。国事に関する事でお前にいちいち説明してやる必要はない。メッセール、離宮まで送り届けろ」

「はっ!」


エドヴァルドがメッセールにどうしてここに?と聞いたが、彼は黙ってエドヴァルドを連れ出した。


残ったのはベルンハルトとクヴェモ公だけ。


「どうなさるおつもりですか?アイラクリオ公にも罪を問いますか」

「どうもしない。ギュスターヴには二人目の男子も生まれた。今更だ。息子の後見人の力を弱めれば次に邪な考えを持った者に我が子が対抗出来なくなる。そうなれば我が家は断絶だ。そもそも子供の戯言が発端で、何の証拠もなくては論外としかいいようがない。こんなものは兄弟喧嘩が元のただの讒言ざんげんに過ぎん」


ベルンハルトはエドヴァルドの訴えを一蹴した。

クヴェモ公はベルンハルトの考えに納得した。


「しかし、エドヴァルド様はどうなさいますか。まだ幼過ぎます、放置すればアイラクリオ公に始末されかねません」

「心配するな。今後は帝国人のイーデンディオス老が教育を担当する。ちょっかいを出せば彼が疑問に思って動くだろう。仮にもフランデアン王の家庭教師だった人物で、今回も直接東方候に無理を言って借りて来たんだ」

「なるほど」


もう少し単純な人物かと思っていたのでクヴェモ公は王を見直した。こうなるとクヴェモ公もアイラクリオ公に対して力を弱めるような策動がしづらい。


「ではタルヴォ殿は?」

「公にとってはもう用済みだろうな」


ベルンハルトは眉間に皺を寄せた。


「彼は結局何方の子なのですか?」

「無論、俺の子だ」

「いえ、奥様の方です」


いろんな噂が飛び交っていてクヴェモ公も気になっていた。当時城中から姿を消した下級貴族の娘だとか使用人だとか、城下街の娼婦だとか、城外に赴いた時に作った子だとか様々な噂が飛び交った。


「ふん、知りたいなら教えてやろう。カトリーナの侍女だ。あいつは母親が死んでも腹の中でまだ生きていて取り出された。生まれつきの亡者というわけだ」


戯れに妻の侍女に手を出したのが露見し、当然ながらカトリーナの怒りを買った。城外に逃がしたが、いよいよ出産という時に突き止められて殺されてしまった。しかし暗殺者は、対象の殺害だけで満足して腹の中までは確かめなかった。


「よく・・・お話しくださいましたな」

「ああ、もし外に漏れたらお前を殺す」


先ほどと同じようにカトリーナのスキャンダルが漏れればアイラクリオ公の勢力を削ぐ事になる。王がそこらの女に手を出すのはよくある事なのでベルンハルトへの非難はさして巻き起こらないだろう。先ほどの話同様、クヴェモ公はこの話を生かして策動するのは難しい。もともと彼は中立穏健派だ。

クスタンスが二人の息子を失った以上、対抗勢力は無い。純血派内部の派閥争いに期待するくらいだ。


「私は、己の父祖から守って来た土地に手を出されなければどなたが王であろうと構いませんとも。そして王にほどほどに強力で諸侯の争いを鎮める力があって欲しい。それだけです」


クヴェモ公は辞し、ベルンハルトはイーデンディオスを呼んだ。


 ◇◆◇


 白く長い髭を生やした老人は夜遅くだというのに、文句も言わずやってきた。


「御用でしょうか」

「すまないな老師。知っての通りエドヴァルドはまだまだ幼稚で頼りない。身を護れるよう鍛えて貰いたい」

「学業については契約の通りに致しますが、身を護れるように、とは?メッセール殿やシセルギーテ殿がついていらっしゃるでしょう」


魔術についてはヤブ・ウィンズローがついているので教える事は出来ない。


「国内では身に危険が及ぶかもしれない。あの子にも魔力が芽生えたようだから将来は帝国で魔導騎士になる事も出来る。しかしあの幼稚さでは、帝国で生きていけないだろう」

「なるほど。そういった事からの護り方というわけですか」


意を受けたイーデンディオスは帝国との繋がりを盾としてことさら自分とエドヴァルド王子の親しさをアピールするようになる。


「それと申し訳ないが、老師は医学についても詳しいと聞いた」

「はい、魔術に使う錬金術を修める傍ら多少学びました。薬物については妹弟子達の方が詳しいですが」

「少しずつで構わないからこの国の医療の後進性について諸侯にも理解させて貰いたい」

「それはちと難題ですな」


ここでは占いで治療方針を決めたり生贄を捧げれば神が治してくれると思っている業界だ。


「どうか頼む」


ベルンハルトは頭を下げて頼んだ。


「そこまでおっしゃるなら微力を尽くします、といいたい所ですが東方圏では職工会の医療部門の力が強く勝手に知識を広めると暗殺者が送りつけられてくるという噂が帝国にあります。行政長官に訴えが寄せられる事もある、と」


高給を約束されてもこちらに来たがる医者はいないとイーデンディオスは言う。


「まあな。先日もとある女神官が殺された。医療に従事していて、患者の逆恨みだろうといわれているが、凶器はかなり鋭い短剣で急所を正確に狙っていた。そこらの平民の仕業じゃない。だが帝国魔術評議会の評議員なら平気だろう?」

「買い被りますな。我々魔術師は暗闇から迫る鋭い刃の前には一般人も同じです」


地元に根を張る組織に対して個人で抗うのは難しいと難色を示す。


「そうか、良い案があったら教えてくれ」


頷いてイーデンディオスも辞した。

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2022/2/1
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