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荒くれ騎士の嘆き歌  作者: OWL
第五章 蛍火乱飛~外伝~(1430年)
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第15話 拳闘士レベッカ

 ヒモ状態から脱却すべく二人は標的以外の仕事も引き受けるようになって多少『金貨』も溜まった。それを使って刀剣博物館からモレスの剣を強奪する仕事も発注した。モレスの剣については本業と関係ない所で余計なリスクを避け、窃盗の専門家に任せておいた。


次にカルロはもう一つ欲しい物があって、クロウリー協会からの仕事を受け概要をラッソに説明する。


「俺は余計な仕事で足がつくのは嫌なんだが」

「お前をサポートするのに必要な物があるんだよ。短距離通信用の魔術装具がどうしても必要なんだ」


これまで遠距離からラッソをサポートする為に近くの建物の屋上から風の魔術で連絡を取っていたが、これでは屋内に入ったあとは連絡が取れなくなる上、ラッソの方からは連絡が取れない。魔力の波長を利用した通信用の魔術装具を使えば物理的な壁や視界は透過して音声を届けられる。欠点としては波長を合わせられると通信内容が他人にも丸聞えになってしまう点だが、いると分かっていなければ合わせられる事はない。


「で、どんな仕事を引き受けるんだ?」

「殺しだ。協会のブツをくすねた運び屋を始末する。この業界で仁義を損ねたんだ、死んで当然。気にする必要はない」


身内以外には目玉が飛び出しそうな値段をつける協会だが、今回の仕事をこなせばカルロが欲しがっている物を譲ってくれるという。


「なんで連中は自分で取り返さないんだ?」

「協会は魔術師ばっかだ。運び屋はどうやらはぐれ騎士を雇って逃げたみたいで魔術師には手が出せない」

「そういうことか。じゃあ例の拳銃を試してみるか」


相手には魔力の守りもあるのでアパッシュ式拳銃の威力を試すのにちょうどいい相手だ。


「居場所は?」

「ドミティア区だ。ガンビーノ一家の縄張りだから協会が直接手出し出来ないってわけだな」

「連中の縄張りで俺らが殺しをやって大丈夫なのか?ガンビーノに話を通すべきなんじゃないか?」

「そうだな。メイソンさんに口を利いて貰おう」


メイソンは各地で暗殺者を育てていたのでガンビーノとも面識があり、カルロ達も以前ガンビーノに恩を売っていたので仁義を欠いた運び屋の始末は許可して貰えた。

今のメイソンは暗殺専門組織の指導者で、組織間抗争には関わらず内部粛清のような限定的な仕事を請け負っている。カルロ達も当局の介入を防ぐ為に抗争を大きくするような仕事は引き受けないように彼から指導されていた。


 ◇◆◇


 ヴィヴェットに調査を頼むまでもなく居場所ははっきりしていたのだが、運び屋は港から外国へ逃亡しようと準備していた。

だが、港を中心に再び疫病が流行り始めていて出港が見合わせとなり隠れ家で怯えながら男は待っていた。二人は近くの建物の屋上から運び屋を監視した。護衛が二人だけだが解雇された魔導騎士とただの用心棒で、一線級の相手ではないと判断した。


食料品の買い出しには人を雇っているようだが、何も知らない一般人のメイドだったので、彼女がいない深夜に殺しを決行する事にした。


「銃はお前に渡すから騎士崩れが眠っている時にもう一人の護衛を殺せ。奴が起きて出て来たら使えるか試してみろ」

「じゃあ、俺は熱源探知の視覚に切り替えて見張ってるからカルロは寝ててくれ」


カルロが魔術で監視すると周辺のマナを食いつぶして長時間の監視には不向きなのでラッソが担当した。睡眠状態に入って体温が下がればラッソの魔眼が検知できる。


夜半を過ぎた頃に見張りを交代し騎士崩れは眠りについた。


「起きろ、カルロ。他の部屋に音が漏れないよう封じておいてくれ」

「わかった」


魔術で振動を抑える事で近くの部屋に音漏れを防ぐ事が出来た。

対象は窓の無い部屋にいたので、ラッソは建物の外壁をよじ登り裏手の窓から侵入した。そこから対象の部屋までの廊下は用心棒の視界に入ってしまい、どうしても殺す必要がある。


ラッソは消音ブーツで忍び寄って用心棒の喉を一息にかき切ろうとしたのだが、間一髪で躱された。


(なんだと!?)


魔力を込めた足で一瞬で近づき短剣を抜いて必殺の一撃を放ったのに雇われ用心棒風情に見事に躱されてしまった。しかも身をよじったのと同時に蹴りまで放ってきてラッソを弾き飛ばした。騎士崩れはともかくもう一人は単にデカいだけの魔力も無い一般人だと思っていたラッソはすぐに次の手を打てなかった。


「おい!来たぞ、起きろ!」


護衛についていたのは巨躯の大女で声を張り上げて運び屋とはぐれ騎士を起こした。


(ちっ)


ラッソは用心棒は後回しにして目が覚めたばかりのはぐれ騎士の顎に拳銃をおしつけて引き金を引いた。一撃目が見事に騎士の魔力を剥ぎ、再び覆われる前に二撃目の鉛弾が頭を貫通して死に至らしめた。


振り返ると運び屋は隠れていればいいのに、寝ぼけて廊下に出てきて大女に戻れといわれている。ラッソはもう一度大女に襲い掛かったが、その一撃も躱された。

偶然ではない。動きを見切られている。

おまけに躱しざまにまたカウンターで顎を殴られて意識が朦朧としてしまい、続く連打でかなりのダメージを受けた。刃物無しの格闘家相手にラッソは追い詰められてしまった。


(駄目だ、ラッソ。逃げろ!)


銃声が鳴ってしばらく経ってもラッソは標的を仕留められず、周囲の隣家のざわめきをみてカルロは撤退を指示した。ラッソの援護の為、魔術で光を放ち大女の目をくらませ、ラッソはその隙にどうにか意識を取り戻すと念のために持っていた爆弾を点火して運び屋の部屋に投げ込んで、結果を確認せず窓を突き破って逃げた。


 ◇◆◇


 結局、悔し紛れの爆弾で運び屋は死亡しており仕事はそれで終わった。

顔は覆面をしていたし、暗かったのでバレることはないだろうが常人の用心棒に負けたのはラッソにとって苦い記憶となる。


アルマンのバーで酒を飲みながら二人は仕事の反省をする。


「まさかあんな奴もいるなんてな」

「爆弾があって良かった。出来れば毒針とかも用意していろんな状況に対応できるようにしよう。そうすればカルロも援護しやすいだろ」


メイソンの話だと教団には魔術師もいて、毒針を大量に投げて風の魔術で対象を包囲して絶対に躱せないようにして殺害する暗殺者もいたらしい。


「全ての針に毒を仕込むには金がかかるし、自分を刺しかねない。もちろんお前も」


一匹狼の暗殺者ならいいが、二人組でやるとなると手当たり次第に毒を撒けば味方に当たる可能性が高くなる。


「あー、それはそうか。いい方法だと思ったんだが」


二人がこの店に来るのはバーでの情報収集、アルマンから仕事を貰う為、ヴィヴェットの護衛で送り迎えをする時だ。今日はヴィヴェットを送る為に来ているのだが、あまり好きで来ている訳ではない。アルマンは客に貴族の彼女を抱いている所を見せつける性癖があり、二人も何度もその場面に遭遇している。


「お二人さん。ボスが金儲けの話があるってお呼びですよ」

「ああ、わかった。今行く」


案の定呼ばれた。

馴染みの店員に礼を言ってアルマンの執務室に入るとやはりヴィーとの行為の真っ最中だった。二人が来るのが分かっていてわざと体位を変えさせて彼女の体の正面を二人に向けている。さすがにヴィヴェットも恥ずかしがって縮こまって体を隠しながら、されるがままに揺さぶられ続けた。


「聞いたぜ。レベッカにやられたってな」


アルマンはいったん動きを止めて、恥ずかしがるヴィヴェットの白くなだらかな腹を撫でながら二人に話しかけた。


「レベッカ?」

「例の運び人の護衛だよ。殺し損ねたみたいじゃねーか」

「知ってんのか」

「ああ、あいつは拳聖にガキの頃から育てられた凄腕の拳闘士だ。どっかの学校で武術師範をしてるって話だったが、賭け試合にも出てる。奴に報復したいなら試合にでも出てみるか?」

「どうせあんたが口利きの料金を取るんだろ?」

「当たり前だ」


仲介料は賞金の5%、それほど高くも無かったのでラッソは同意しその試合に出場してレベッカに雪辱戦を挑む事にした。


 ◇◆◇


「私もラッソに賭けますから勝ってくださいね」


試合にはヴィヴェットもアルマンと一緒に観戦しにきた。


「お前はすっかり裏社会の女っぽくなってきたな」


やはり貴族の生まれの彼女にはそこらの売春婦には無い気品がある。

初対面の頃の子供っぽさは消えて裏社会のボスの情婦らしくもなってきた。


「ま、そうならざるを得ませんよ。で、勝算はあるんですか?」

「まあな、今回は相手の事を調べる暇もあったし」


レベッカには魔力はない。

意表を突かれない正面からの戦いであれば油断しない限りラッソの魔力の壁は肉弾戦で突破出来ない。メイソンからも格闘術を習っているがアドバイスも受けて来た。


レベッカは膂力に恵まれた大女の割に巧みな戦い方をする。相手の力を利用したカウンターを使うレベッカにこちらから迂闊に手を出すのは不味い。

なまじ強い魔力を持つラッソの場合、自分の力を利用されると不覚を取るリスクも上がる。それくらいなら打撃戦を止めて力の優位を生かして疲れた所を絞め技で強引に気絶させてしまった方がいい、とメイソンは言った。


試合が始まるとレベッカはラッソが固く守っている限りメイソンの言う通りラッソにダメージを与える事は出来なかった。ラッソはつい油断して自分の力を試したくて普通に殴ってみたがやはり技術的には負けていてしっぺ返しを食ってしまう。多少は痛手を負わせたがこちらの方が被害が大きくそれ以降はじっと耐えた。

最後に相手が疲れてきた所を捕えて首を絞めた。レベッカは手をタップし降参してきた。


クリーンファイトだったが、観客からもアルマンからもブーイングを飛ばされた。


「駄目だ駄目だ、お前の戦い方は地味すぎる。観客は派手な戦いが見たいんだよ。次の試合は無しだ。お前にはこういう興行は向いてない」


観客は骨が折れ、血が飛び散り、時には闘士が死ぬことも望んでいる。

ひたすら防御に徹して、隙を見ていきなり締め落としたラッソの戦い方ではまったく盛り上がらなかった。


「力を入れ過ぎて何本か骨を折っちまったんだがな」

「肋骨折ったり肩の骨外すくらいじゃ駄目だ。顔面をぶっ壊すくらいじゃねーとな」


ラッソは殺しはやるが無意味に残虐行為に走る趣味は無くこの手の試合で金を稼ぐのは諦めた。

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2022/2/1
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