第13話 コネクション
「カルロ。頼まれていた物が手に入りましたよ」
アジトにやってきたヴィヴェットが木箱を一つ差し出した。
「おお、マジか。すげえな」
「なんだ、ソレ」
カルロが取り出して装備したものはナックルダスターに見えるが少しごつい。
変形させると銃の形になった。
「二連装の銃でな。お前と違って接近戦は出来ない俺の奥の手として欲しかったんだ」
一発目は魔導式銃の弾が出て、二発目は火薬式の通常弾が発射される。
僅かな時間差で発射される為、魔力の壁を弾いた瞬間に通常弾が肉体に達する為に相手が強力な魔力を展開していても殺害可能だ。
「こんな小さな銃があるのか」
「接近戦限定で一回撃ったら終わりだ」
「私の護身用にって貰ったものなんですから大切に使って下さいね」
「ああ、助かるよ。代金は?」
「設計書のお礼でいいですよ。買おうとしたら百エイク以上はしますからね。どうせ払えないでしょう?」
甲斐性無しの二人はがくりと肩を落とした。
「あとこれ、頼まれていた家屋診断士の情報です」
「もう手に入れたのか。相変わらずはえーな」
「もともと調査していたんですよ。で、どうしたんです。いつもと違って軍関係でも法務省関係でも無いですよね」
「ん、まー活動の幅を広げたというかなんというか。ヴィーこそ、なんでこんな奴の調査を?」
「私は地震の倒壊判定を請け負っている業者に不審な点があるという噂を聞いて調べてたらこの男が浮上したんです」
地震が多い帝国では役所からの依頼で倒壊判定を行い建て直しすべきと提言する業者がある。資格試験を受けて免許を持っている人間が診断しなければならないとされていた。
ラッソはヴィヴェットの集めた資料を手に取って読み上げ始めた。
「えー、何々。ヒューズ・マイ。一級診断士。これまで79の倒壊判定を提出。うち47件は再建費用を支払えず住民は立ち退き。うち18件は街道沿いで買収に応じず住民と役所でで問題になっていた。その他にも地下道建設、総合住宅、商業施設建設、道路新設等で事業者と問題を起こしていた所ばかりで不自然な倒壊判定を提出。同業者が確認した所、倒壊判定に至るには程遠かった。国道計画課、用地課など複数の役人と度重なる接待を行い本来住民への補償費として計上された予算が不透明となっている。フランチェスコ生命保険に加入済み」
それを聞いてカルロが舌打ちする。
「あのサービスに入ってるのか」
ラッソが書類を見て頷いた。
二人は元住民からの暗殺依頼を仲介役から受けていたが、こうなると始末しにくい。
「彼が生命保険に入っていると何かお困りごとでも?」
「あいつを恨んでいる奴が多いからな。ちょっと懲らしめてやろうと思ってたのさ」
「ふーん・・・?」
「なんだよ」
「殺しちゃう気だったのでは?」
「俺達がそんな非合法な事するわけないだろう」
かなりバレバレのようではあるが、いちおうヴィヴェットはそれ以上言わなかった。
「さて、ヴィー。こいつが役人と繋がっているのは本当か?」
「ええ、間違いありません。何なら今度カルロも一緒に尾行しますか?」
「そうだな・・・。どうせ記事を書くならガンビーノとの繋がりも書いてくれ」
「ガンビーノ?ドミティア区の慈善事業家の?」
「そうだ。あいつは有名人だから知ってるかもしれないが、ドミティア区の犯罪組織の元締めだ。本人自体は特に罪を犯してないからどうどうと表社会にも顔を出しているが裏じゃあ子分達を使って地上げや売春、薬物販売で儲けている」
「ええ、当局も本人が関わっている証拠が無くて逮捕出来ないみたいですね。ああ、ヒューズはガンビーノの為にも動いていたんですね」
勘の良いヴィヴェットは背景を察したようだ。
「そうだ。記事にはフランチェスコは悪人とも契約するのかと問題提起を頼む。そしてガンビーノ一家は貧しい人に炊き出しをしたり堅気には手を出さない事で貧民から支持を得ていたのに裏切っていたのか、と」
「そんな事書いたら私の身が危険になりませんか?」
「本名出さなきゃいいし、どうせ他の新聞社に売り込むんだろ?」
「まあそうですけど、もしバレたら」
「俺らがガンビーノと話を付けてくる。どうせ噂になってたんだろ?お前がやらなくても誰かやるだろう」
「まあそうですけど・・・」
「事前にガンビーノにこういう動きがあるって教えて縁を切らせて恩を売る。それから出来るだけ奴には被害がいかないように続報記事を書いてやれ」
アージェンタ市には六つの区と五大犯罪組織があった。
ポーター達はその何処にも属さないがヴェルナー特別実験区に拠点を置いている為、そこで非合法実験を行っているクロウリー協会と密接な繋がりを持っていた。
今回は協会の力とポーター達の力を背景にガンビーノ一家と交渉を持った。
カルロの計画によって事前にガンビーノに教えて恩を売り、フランチェスコ生命保険の評判を貶め、契約を破棄させた上で役所、保険会社、犯罪組織の全てから関係を断たせ全勢力から見捨てられたヒューズをラッソが暗殺した。
ついでに役所とも繋がっていたという情報をガンビーノに提供し、始末代も受け取っている。
ラッソは今回、毒薬を飲ませ泥酔したヒューズが自分の反吐で窒息死した事にした。警察側の調査でも毒薬は検出出来ず意図した通りの検死結果となった。




