第12話 裏社会⑤ 方針変更
二人は一階に戻ってバーで酒を飲んでいると、アルマンのボディーガードから既にポーターが店を出た事を告げられた。
「あれ、俺らに黙って帰るなんてどうしたんだろ」
「俺らが話をフイにしちまったから怒ったのかも。彼女はどうしたのかな。ちょっと聞いて来るか」
先ほどのアルマンのラウンジまで行き、ボディーガードに尋ねると「まだ中だ」と言われた。
「ボス、二人が戻って来ましたが」
「入れてやれ」
ボディーガードがドアを開け、二人が中に入るとアルマンとヴィヴェットはまだ行為の真っ最中だった。ヴィヴェットは服を脱いで、ガーターとソックスだけになり紐付きの下着が脱ぎ捨てられている。以前ドーラ・オーレンに見繕って貰った上流階級のお嬢さん向けの高級下着だ。
彼女はソファーでアルマンの上に座って腰をくねらせて男を翻弄していた。
「歳の割には元気だな」
不意に後ろからかけられた声にヴィヴェットが振り返ってさすがに恥ずかしそうにする。
「お前らが早すぎるんじゃねーか?おい、動きを止めるな」
アルマンはラッソ達に文句をいいつつヴィヴェットの尻を叩いた。
「はい、申し訳ありません。で・・・も、また固くなりましたよ。こういうのが趣味なんですね」
ヴィヴェットはアルマンに叱られて謝罪したが、色っぽい吐息を上げながらすぐにやり返した。
「ヴィー・・・」
意外と余裕そうなヴィヴェットにラッソはショックを受ける。
アルマンは人前で貴族の女を犯して満足しており、上機嫌だった。
「随分早いな。うちの女は気に入らなかったか?」
「ああ、ろくなのがいなかった。あんたはうちの女を随分気に入ったみたいだな」
カルロは不機嫌そうに鼻を鳴らして答えた。
「おう。ついさっきまで嫌がってたのに、今じゃあ仲間の前で微笑みながら腰振ってんだからな。女ってのはこえーぜ」
アルマンは二人の前でヴィヴェットのお尻を叩いて高い音を出したが、ヴィヴェットは嫌がりもしなかった。反応を物足りなく思ったアルマンに乳房をつねられてようやく嬌声を上げる。
「んじゃ、まあどうぞごゆっくり。俺らはもう帰るわ」
見てられんとラッソ達は引き上げようとする。
「あ、ちょっと待ってください。もうすぐ終わりますから事務所まで送ってくださいよ」
こんな所に一人残すつもりなのかとヴィヴェットは文句を言った。
「終わるって・・・」
「へへ、そうだな。でもいいのか、ヴィーちゃんよ。なんの準備もしてないんだからこのままじゃ俺のガキを孕むかもしれねーぜ。。俺は遠慮なんかしてやらねーぞ?」
「構いませんよ。妊娠すれば市から援助金で10エイク即座に貰えますし、出産すれば30エイク、その後も育児費用が貰えますから」
大地母神に習って伝統的に出産を奨励している帝国では子育ての援助制度が整っている。
「マジでこえー女だなあ。ガキをダシにして金貰って自分の夢に使う気かよ」
「出産同盟に入ってますし気にしなくても大丈夫です。遠慮なくどうぞ」
「おっしゃ、出来たら教えろよ」
ラッソ達の心配をよそにヴィヴェットとアルマンはさらに盛り上がり始め、二人の動きが激しくなり、ラッソ達は表に出てまた酒を飲み始めた。
◇◆◇
「はー、俺らマジで何しに来たんだろうな」
「リスタを看取りに来たんじゃね?」
二人は顔を見合わせて溜息をつく。
アルマンは魔力も持たない平民の男だが、裏社会に顔が利き金も力もある。ボディガードは騎士崩れの凄腕だ。ひきかえ自分達は王族の血を引くが、それは表には出せず、裏社会ではまだまだひよっこ。友人を見世物にされても怒ってくってかかる事も出来ない。
二人が大分酔っぱらって、何でこの店で飲んでいるのかも忘れてきたころ風呂上りなのか、ずっと楽しんでいたのか、顔を上気させたままのヴィヴェットが出てきた。
「なんですか、二人とも。酔っぱらっちゃって。さ、送ってください」
「はいはい、お嬢様。どうぞこちらへ」
アルマンはよほど気に入ったのか馬車まで用意させてくれていて三人を事務所に返した。道中の車内でラッソはヴィヴェットに尋ねた。
「で、首尾は?」
「上々です。無料で必要な物は全て借りられました」
「そんな美味い話あるのか?」
「黒字に出来なかったら、私があの店の娼婦になるのが条件ですが、まあ彼の子を産めばそんなことさせたりはしないでしょう。意外と極悪人って感じでもなさそうでしたし」
それについてはラッソ達も思った。
リスタを死に追いやったり、あんな稼業をしているわりには店の人間も割と理知的だった。ヴィヴェットの事も本人が納得しているなら口出しするような事でもない。
「憎めるような奴なら良かったのになあ」
「・・・?憎んでどうするんです?彼の力が必要なんでしょう?」
ヴィヴェットはリスタの件は知らないので彼らの微妙な感情は分からない。
「まーな。俺らがガキってことかな。ポーターさんの顔にも泥を塗っちまったし。イキがっても何も得しねーな」
「お金が必要なら私の仕事を手伝ってください。武器も例の剣があればいいでしょうし」
若い女性一人では取材に行っても軽くあしらわれる事があり、ラッソ達は護衛と脅しの為にしばしば彼女について行った。これまではスラムのチンピラ風だった二人もこれから起業するヴィヴェットの護衛として紳士らしい服を用意された。
◇◆◇
「はー、俺らってマジで最低じゃねえ?」
現金の工面に苦労しているラッソは服や普段の生活にまでヴィヴェットの世話になりはじめてさすがに情けなく思った。
「なんだよ、急に」
ヴィヴェットが家にも帰らず事務所で寝泊まりする日が増えた。
彼女は毎日遅くまで資料を整理し、記事を書き、かつての編集者や記者にも見て貰い新聞社立ち上げの準備を進めている。社名を変えてしばらくはコネで売り捌きながら販路を開拓するつもりらしい。
せわしなく働いているヴィヴェットをガラス越しに見ながらラッソは嘆息する。
「友人に体売らせて、そのおこぼれで生活してるんだぞ」
「あいつにもちゃんと協力してるだろ」
「彼女から受けてる恩恵の方がデカすぎる」
表社会には流通していない暗器の類もヴィヴェットがアルマンに頼んで融通して貰っている。代償はヴィヴェットの愛人生活と将来、事業が失敗した時彼女が娼婦としてアルマンの店で働くという約束だ。
二人はヴィヴェットのヒモのような状態に落ちぶれている。
「綺麗ごと言ってないで裏の仕事も引き受けないと駄目かな。彼女だって最初から体を売るつもりなんてなかったろうし俺らだってさ・・・」
「・・・そうだな。アルマンも現金はあまり融通してくれないみたいだし、当面の資金がいるな」
ヴィヴェットの護衛で急に引っ張りだされる事もあるので用心棒の類は引き受けられない。二人はヴェルナー特別実験区に住み、クロウリー協会から魔術の研究の試作品などを融通して貰っている関係で協会から暗殺や強奪の仕事も請け負うようになった。




