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荒くれ騎士の嘆き歌  作者: OWL
第五章 蛍火乱飛~外伝~(1430年)
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第11話 裏社会➃ ある女の末路

 ラッソとカルロに店を案内しているアルマンの部下はなかなか気のいい男だった。

ボスの友人であるポーターが連れてきた二人に媚を売っているのだろう。


「一階の下着風の制服の子は上の部屋に引っ張り込めますが、猫耳さんとか兎耳ちゃん達は給仕専門だから手出しちゃ駄目ですよ」


この店では制服で役割を分担しているそうだ。

案内人は騙し無しで買える女をお勧めしてくるがラッソ達は女と遊ぶ気にはなれず、適当に酒でも飲んでヴィヴェットが出てくるのを待とうとした。

遊び慣れているカルロに任せてラッソは暇つぶしにそこらのラウンジから漏れてくる声を拾っていた。


「お前、あのクズ物件買ったのかよ」

「上からの指示なんだから仕方ないだろ」

「で、どうすんだよ」

「適当に逸話をでっち上げて売りつけるさ。これまでも方伯家ゆかりの物件は改装すれば何十倍もの値段で売れたんだ。今度も大丈夫さ。何せ五千年の歴史があるんだからな」

「おいおい、帝都の物件は一番古くても築千年だぞ」

「大丈夫大丈夫、欲しがる奴には自分の聞きたい言葉しか聞かないもんだ」


ラッソはヴィヴェットから最近不動産市場が高騰しているという話を聞いた事があった。昨今の政情不安で帝都を逃げ出す人が増えそうなのに、価値が上がるのは異常だと彼女は言っていた。この話を聞く限り詐欺師が暗躍しているようだ。

ラッソとカルロは金を稼ぐ為に安易に投資や博打に手を出そうとしたが、ヴィヴェットにはカモにされるだけだと止められた。


(やっぱ、専門外の事に手を出すべきじゃないな)


手っ取り早く金を稼ごうとあれこれ調べたが、二人とも金勘定が苦手だった。


一方、カルロは適当に案内人をあしらおうとしていたが向こうはなんとしてもいい女をあてがおうとしてくる。仕方なく適当に話を合わせた。


「そういやボスがぶっ飛んだ玩具があるって言ってたが」

「あー、あれね。あんまお客人にはお勧めできないなあ」


案内人は気まずそうに目を逸らした。


「どんな奴だ?一杯やりながら教えてくれよ」

「いや、俺は仕事中だから。まあ見てみます?」

「見れるのか?てかそういう奴?」


覗き趣味の客を満足させる為のプレイルームもあった。


「いや、違う、違う。頭と頭を繋ぐんす」

「どういうことだ?」

「まー、行けばわかりますよ」


案内人は一通り店内を案内しながら上の階へ向かった。

店舗の一階部分はバーもあれば、ポールダンスをしている女を鑑賞する大部屋もあり、けたたましい重低音が鳴り響いている。


「うるせえなあ」

「お?わかりやすか?アレはウルサスっていう魔獣の腹の皮を使った太鼓っすよ」


その魔獣が生きていた頃は狩人の鼓膜を腹太鼓で破ったのだとうんちくを語り始めた。


「死後もやかましいとは迷惑な魔獣だ。他にもなんかギャリギャリうるせえ楽器もあるし」


店内のステージにはバンドがいて聞きなれない音楽を奏でている。


「はは、慣れますよ。流行りの前衛音楽でね。雷獣の髭を楽器の弦に使ってるんす」


二階の奥の席はムーディな音楽が流れる少し落ち着いた席で、吹き抜けの側では下の階を見下ろしながら軽食やホステスと遊びつつ、娼婦を品定めしている客がいた。三階と四階は娼婦達が客を引き込む部屋で目的地は五階にあった。


その部屋では男女が複数名おり、頭に見慣れぬものをつけてそれぞれ繋がれている。


「なんだありゃ?皆さん仲良く寝てるだけ?」

「いや、なんか興奮してるっぽいぞ。目を瞑ったままびくびく震えてる」


手足も微妙に動いて腰を震わせている。


「わかる?あれね。魔術師の先生が作った道具で夢の中でファックしてんの。快感が何倍にもなるって評判なんだけどさ。実験中なんだよね、お客さんの評判はいいんだけど、女の子はすんげー負担が重いらしいよ」

「夢の中で?どうやって?」

「あー、俺にゃ難しい理屈はわかんねーけど昔にあった石人形を操作する魔術の道具を応用してるんだとさ。頭ン中繋いで、神経直通でフィードバックさせてんだって、俺の言ってる事わかる?」

「ああ、お前もリブテイン人か」


先ほどから帝国共通語ではない単語がちらほら聞こえるのでアルマンは部下も西方系で固めているのだと悟った。


「おー、そうそう。さすがポーターさんの連れ。・・・じゃあ、スパーニアの人?生粋の帝国人じゃないよね?」

「ああ、よくわかったな」

「そりゃーわかるよ。ポーターさんの知り合いなんて同郷の人か、昔食糧援助してくれたスパーニアの人だけだからね」


カルロの方は混血なのでスパーニアの血は半分だけだが、案内人の想像は当たっていた。


「連れの子は帝国人だが」

「ポーターさんの愛人じゃなかったっけ?娼婦として売りに来たのかな」

「・・・両方かな」

「なるほど、躾けてから連れてきたってわけだ。さすが商売人だなあ。高値がつきそうだ」


そういう訳ではない筈だが、見方を変えればそうなる。

彼女がどういう選択をしたのかはわからないが、良い協力関係を築け始めていた所なのであの男に身売りしたのなら残念だ。


「ところで女の子は一人に対して男は三人か?」


カルロはあまり気にせずこの変わった装置を調べていた。


「ああ、今はどういう遊びをしてるか知らないけど並列処理で一対一を三人分出来るし、三人と一緒のプレイも出来るよ。まーこの子は人気者でね、こういう使い方するとすぐ廃人になっちゃうから止めて欲しかったんだけどなあ」

「廃人?ぶっそうだな。客は危険性を知ってるのか?」

「あー、男の方は平気。女の子の方はこれまで何人か夢の世界でイッちゃったまま、戻ってこれない子がいたんだよね。耐性の強い子もいるけど、被害者増やしてもうちらにも損だからここじゃあ規則で連続使用は厳禁、隔日以上間を開けるようにってしてたんだよね」


夢から戻ってこれないままとなると廃人になり、世話してくれる者がいなければ衰弱死するしかなくなる。店にとっても面倒だし、まだまだ稼げる娘が借金も返済しないままいなくなるのは痛手なので彼らも過剰労働させないよう規則を定めていた。


「ふーん。・・・で、この子は規則違反なのか?」

「まーね。もう手遅れでね。もう戻ってこれなくなっちゃったんだ。息が止まるまでは利用しないとうちが損するから仕方なく最後まで使う事にしたの」

「最後まで・・・か」


落ちた人間を骨の髄までしゃぶりつくす裏社会の人間らしい。


「俺はさー、忠告したのになあ。この子も昔は可愛かったのに、今じゃこの通りガリッガリ。夢の中じゃ気品あるお嬢様のままらしいけどね」


ヘルメットを被っている女性の体は案内人のいう通りすっかり細くなっていた。

この生活を始めてから一ヶ月以上経っているようだ。体は乾いて老婆のようであり、骸骨のよう骨が浮き上がっていた。そして髪にも艶が無く、かなり抜けている。


「この女、貴族か裕福な家の出だったのか?」

「両親が犯罪を犯して平民に落とされたんだとさ。気難しい子だったんだけどね。お客さんに褒められて、ちやほやされてすっかり嵌っちゃったんだよ。そんなに急いで稼ごうとしなくても踏まれて喜ぶおっさんの相手だけしてやれば時間はかかっても借金返済できたのに」


案内人はこの子のファンだったらしく、酷く残念がっていた。


「へえ、確かに気難しそうな顔をしてる」


カルロがあまりに熱心に見ているので、ラッソも気になって顔を見てみた。


「リスタ?」

「あぁ、間違いないな」


孤児院にいた時、年下にかなり高慢な娘がいた。

眠っていても、やせ細っても険のある表情は昔から変わらない。

ラッソもカルロも彼女が好きでは無かったが、まさかこんな所に身を落としているとは思わなかった。


「どうかしたかい?」


何かの紙をチェックしていた案内人は振り返って二人に聞いた。


「いや、何でもない。止めてくれたんだよな?」


カルロは念を押した。


「そうだよ。規則もあるし、俺も彼女の事好きだったからね。こんな店に来たのにどうしても客を取るのは嫌だっていってね。お店もさ、困ってたの。うちのボスってあれで割と優しいから女の子にもそんな強制とかしないのよ。下のバーの兎耳ちゃん達みたいに酒注ぐだけでもいいし、脱いで踊ってるだけの子もいるし。まあ借金返せるのは時間かかるけどね」


弱者の足元を見て搾取しているクズかと思ったが、あの男は意外とマシな人間だったらしい。安直に金を稼ごうとする女にはそれなりの扱いをするというだけだ。


「それがどうしてこんなことに?」

「この機材使えばさ、体に触れなくても売れちゃうから。処女のままでお仕事出来ちゃうんだよね。売春婦になるのに抵抗感がある女の子達には好評だったよ、妊娠する危険もないからね。お客さんがまともな趣味の人の場合、女の子達の方もこれが気持ち良すぎて嵌っちゃうんだよ。そこのリスタちゃんもそうだった」


案内人がチェックしていた紙を二人に見せてやる。

ここで働き始めた時リスタの出勤は隔日になっていたが、彼女のお得意様は大勢毎日来ていた。


「担当者丸め込んで、書類改竄して毎日客を取ってたの。すぐに出て行ってやる、短期で大金持ちになれるって無理してさ。あれだけ処女でいたいって言ってたのに途中からそいつに体まで売ってた。ああ、そいつはもうボコボコにして生きたままコンクリ詰めにして運河に捨てたけどね。大事な商品を壊しやがって」


案内人は本当にファンだったらしく本気で怒っていた。


「本当にもう目が覚めないのか?」

「無理だね。本人が現実に帰りたくないってさ。お客さんがそういってったって」


戻った所で既に神経はズタズタ、廃人で何も喋る事は出来ないだろうと魔術師が診断したらしい。本人自身もそれを知ってか知らずか、このまま死ぬことを選んでいる。


「俺はね、せめて体だけは毎日拭いて綺麗にしてやってるんだよ。でも薬湯で生きながらえるのも限界かな」


ラッソは魔眼の視点で案内人の心拍数を確認していた。

先ほどは感情の変化に伴い体温の上昇も見られた。今は哀しみと憐みが強い。


「そうか、彼女に優しくしてくれて有難う。今度一杯驕らせてくれ」

「なんで?」

「なんでもいいさ。彼女は現実じゃ生きられない子だった。残念だけど仕方ない」


ラッソとカルロはリスタと深い知り合いだったわけではないが、死んだ時は教えてくれるよう頼み、後日埋葬する為遺体を引き取った。孤児院の知り合いには教えない方がいいだろう、と二人は相談し昔の知り合い達には知られずに無縁墓地へリスタは埋葬された。

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2022/2/1
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