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荒くれ騎士の嘆き歌  作者: OWL
第五章 蛍火乱飛~外伝~(1430年)
235/372

第1話 魔人誕生

※2021/05/10

注意書きを追記します。

外伝部分は読まずとも次の章に繋がります。

R15,残酷描写ありで設定しているダークファンタジーです。


不快な気分になる事が予想される場合は、閲覧中止をお勧めします。

 アージェンタ市特別実験区域で魔導騎士に行われる魔石の投与手術を受けている青年がいた。一度死にかけていたが、今は回復しこめかみと眉の上に細長い針をゆっくりと挿入されている。その針の先端には極小の魔石がついており、それはピアスに偽装されていた。


施術を行った老人は一区切りをつけ、彼に目を開けてよいと告げた。


「よし。これで手術は終わりじゃ。よく耐えたの」

「ほんとに?昼寝してて気付かなかったぜ」

「軽口を叩くなラッソ。右腕を繋ぎ直した時は喚いていたくせに」

「悪夢を見てただけさ」


ラッソはゆっくりと目を開けて自分の手足を確認した。


「凄いな、本当に繋がってる。目も見える。どうなってんだ?」

「死霊魔術の技でな。切断されたばかりじゃったからどうにかなった。回収してきてくれた相棒に感謝せい」

「ああ、それにしても死霊魔術?なんだそりゃ」

「どうせ説明してもわからんじゃろうが。むやみやたらとしぶとく復元力のある亡者の力を取り込んだものじゃ」


右腕の切断面は繋がっているが気持ち悪い血管のようなものが浮き出て紫色に腫れていた。老人は包帯を巻き付けてそれを隠し、気になるなら手袋を付けておくよう言った。


「あっそ。まあ使えるようになったんなら別にいい。次はもっとうまくやるさ」

「こりん奴じゃのう。お主の腕では監察隊長を暗殺しにいくにはまだ早い。投資した分を回収できるまで無駄死にはするなよ」

「わーったよ。それより新しい魔石の使い方を教えてくれ」


ラッソは老魔術師から手ほどきをうけ、魔石に魔力を流して視界を次々切り替えた。


一つ目の魔石には望遠の魔術と同じ効果が秘められており、窓の外を見れば遥か遠くのヴェーナ市の皇帝の大宮殿や高層建築物に翻るのぼりの文字も見える。

二つ目の魔石は熱源探知の効果があり、手術に立ち会っている魔術師、そして壁越しに部屋の外にいる魔導騎士の訓練を施してくれた遍歴の騎士、友人のカルロの姿が黄色く浮かび上がった。

耳のピアスは聴覚強化、こめかみのものは痛覚遮断、腕や足にもそれぞれ身体能力強化などの力が込められていた。


「凄いな、これは。魔導騎士ってのはちょっと狡い気がする。こんな力を持った相手とはまともに戦えるはずがない」

「そうじゃの。まあ、お主は騎士にはならんし魔導騎士とはいえんな。魔力を制御可能になった獣を魔獣と呼ぶようにお主は魔人とでもいうべきかな」


魔人と呼ばれたラッソの腕を斬りおとした相手は魔導騎士の訓練を受けた元監察隊長だった。彼を憎むラッソは暗殺に赴いたが、返り討ちにあって全身に傷が残った。


「魔石が破損した時はどうすればいい?」

「リブテインホテルへ行け。儂でなくとも修理できる者に連絡を付けてくれる」


老魔術師はアージェンタ市ヴェルナー特別実験区にある賢者の学院の導師でありそこの最新技術を横流しして暗黒街の男達に手術を行い金を稼いでいた。

この特別実験区はアージェンタ市の警察組織も関与出来ない特殊な自治区になっている為、研究の為に通常では違法となるような人体実験や魔術の研究も行われている。一部の導師は研究資金を稼ぐ為に裏社会の人間相手に取引を行い、技術実証も行い、賢者の学院に還元することで見逃されている。


 ◇◆◇


 手術の後、ラッソの腕を拾ったカルロが入ってきた。


「終わったか?」

「ああ、悪いなカルロ。俺だけ強化して貰っちゃって」

「いいさ。仕事の援護には魔術師も必要だろ。俺はそっちを極める。だが次は勝手に殺しにいくなよ」


暗殺者ラッソ、そしてカルロには恨みを持つ者が数多くいた。

そのうちの一人が法務省に所属していた元第七監察隊長ゴドフリー・ベルリヒンゲンだった。


記憶を失っていたラッソは7歳の時に魔力に目覚め、自分が何者なのか混乱したまま孤児院を飛び出した。その孤児院に資金援助していた男がラッソを迎えに来て彼の生い立ちを伝えた。


ラッソの本名はソラ。

既に滅んだ国、帝国に次ぐ大国だったスパーニアの第一王子である。

ひと昔前、東方圏でフランデアン=ウルゴンヌ二重王国、リーアン連合王国、ガヌ人民共和国、パスカルフロー王国、神聖ピトリヴァータ王国などの複数国家間で起きていた大戦争を終結させ、功績を得ようとした監察隊がスパーニアの王宮で王が不在の間にイルエーナ大公を扇動し、民衆を王宮に突入させて彼の母と弟、妹達を殺害させた。


カルロもまたイルエーナ大公の犠牲者である。

彼はイルエーナ大公の息子ガルシアと帝国貴族ヴェルテンベルク家のリーンの間に生まれた。そのガルシアは左利きであった事から大公に疎まれ、邪魔者扱いされた挙句、マッサリアで父の将軍達に見捨てられて孤立した所を蛮族に殺害された。


二人ともイルエーナ大公に恨みを持ち、孤児院の出資者ポーターに引き合わされ親しくなった。ポーターは暗殺者達とコネを持ち、二人が帝都の片隅で生きる方法を教えてやったが、二人が無謀な報復に出る事は望んでおらず、今回はラッソの独走により回復させる為に大金を費やしていた。


「もうこれきりにしてくださいよ。監察隊に手こずっているようでは五法宮で幽閉されている大公達を暗殺するなんて不可能です」

「済みません、ポーターさん。何から何までお世話になってしまって」

「本当は暗殺稼業には入って欲しくなかったんですがね」

「真実を知った以上、母や弟達の仇は討ちます。そういうこともあるかもってメイソンさんに俺達を鍛えさせたんでしょう?」

「いえ、剣や魔術が使えればスラムのチンピラ程度からは身を守れると思っただけです」

「ポーターさんは何故俺達に援助を?」


ポーターは今回支払った手術費用で資産の大半を失っている。

何故そうまでして助けてくれるのかをラッソは尋ねた。


「私の故国リブテインは第二次市民戦争で滅びました。帝国の都市封鎖を受けて大量の餓死者を出してね。私も危うい処でしたが、スパーニアからの食糧援助で命を繋ぎました。だからですかね、スパーニアの人に恩返しをしたかったのですよ」

「じゃあ、リブテインホテルも?」

「ええ、リブテイン人の関係者が多く集まっています。技術に優れ分野によっては帝国すら上回っていた国でした。芸術分野でも世界をリードし影響力は年々増していたのです。それを危険視した帝国が市民を煽り革命を起こさせ、貴族も市民も共倒れさせました」


暗殺教団が内務省によって取り締まられた後でも彼らは地下に潜り、同胞の結束によって支えあっている。


「裁判でスパーニアに不利な決定をした大法官達に恨みはあっても、ポーターさん達ほどじゃない。俺らは限定的な活動しかしないが、それでもリブテインの人達は俺を援助してくれるだろうか」

「問題ありません。我々も残った同胞達が生き残る事が最優先として動いています。ま、それでも非合法な活動ばかりですが」

「じゃ、その非合法な活動を俺達にも紹介してください。もっと強力な武器を買う資金や、腕を磨く機会が要る。この新しい力になれる為にも」

「あと、俺らの報復対象に関する情報の入手も頼みたい」


ラッソは独走による大失敗で自分の未熟さを痛感し、改めて修行のやり直しと武具の調達が必須であることを理解した。カルロはラッソに足りない部分の補佐役に回った。


「解散した第7監察隊の他のメンバーの居場所は知人に調査して貰っています。ですが、本命に挑む前に簡単な依頼を受けて貰えますか」

「簡単な依頼?」

「ええ、単純に殺す相手としてはね、覚悟次第で難易度は変わりますが」

「どういうことです?」

「最初の標的は君達の育ての親、グレンデル孤児院の院長です」

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2022/2/1
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