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荒くれ騎士の嘆き歌  作者: OWL
第五章 蛍火乱飛~後編~(1430年)
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第34話 地獄への道

 ボロスが幽閉された塔への道すがらエドヴァルドはパルナヴァーズに警告する。


「おい、爺さん。今日ばかりは俺の命令を絶対に守って貰うぞ」

「勿論ですとも閣下」


気安く応じるパルナヴァーズをエドヴァルドはジト目でみやる。


「お前の発言はアテにならん。後進の教育を任せたのに勝手にこっちに来るし」


遥か年長の家臣でもなかなか領主らしく部下を叱責しているとコンスタンツィアとヴァネッサは感心した。


「まあまあ、エド。わたくしせっかくだからエドが去って以降のエッセネ地方の様子を知りたいの。教えてくださる?」


帝国軍と軍に雇われた傭兵のせいでエッセネ地方まで混乱が波及してしまった事にコンスタンツィアは心を痛めていた。


「話してもよろしいかの?」

「ああ」

「それならいうが、閣下がいなくなってエールエイデ伯も気が済んだのかラリサに圧力をかける事は無くなり申した。クヴェモ公も身を光らせておるし、対抗馬さえいなければこんなものじゃ。ラリサの民はアルカラの元でそれなりに平穏に暮らしておる」

「結局、俺はいない方がいいって事だな」


エドヴァルドは嘆息する。

これにはコンスタンツィアばかりかヴァネッサも少し気まずく感じた。

明らかに彼は傷ついている。


「公爵閣下。さまざまな国を旅した儂からみれば大貴族なんてものは都で暮らして統治は土着貴族に任せておるしそう気にする事はないぞい。執務なんて午前中に手紙と書類のやりとりや、訴状を読んで処理するだけで午後には遊び暮らしておるもんじゃ」

「俺はそれすらやってない」

「今は学生だし、よいのではないかのう」

「それで、他に変わった事は?一応イザスネストアス老師の使い魔から聞いてはいるがあまり長話は出来ないから細かい事は聞いてない」


エドヴァルドは話を変えた。一番気になるのは母の事だが、それは使い魔から母の体に救う寄生虫のようなものの活動を止める事は出来たが取り除く事は出来ず精神も回復していないとは聞いている。


「ユリウスやヴィデッタの子が立って歩けるようになったとか微笑ましいのはあるが、ひとつ困った事があっての。後で話そうと思ったんじゃが・・・」


そこまで言っていったん言葉を切り、コンスタンツィアをみやる。


「彼女に関係ある話しなのか?」

「うむ。ヴァニエの件での。珍しい名前に髪でラリサの者達に虐められてな、今は名前をダーナと変えておる」

「ああ『エイダーナの娘達』のお嬢さんね。少し気になっていたの」


歩きながら話す内容でも無いのでコンスタンツィアは足を止めてパルナヴァーズに詳細を聞いた。


「もともと他所者を嫌う土地だし、同盟市民連合から来た賊にさんざん荒らされたからあの嬢ちゃんにもあたりがきつい。以前は公爵閣下の侍女で奴隷の身だったから守られていたが、今はそれもない。彼女は身の置き所がなくてな。閣下に帝都で引き取って暮らさせてもらえんかと相談に来たんじゃ」


エドヴァルドは命令を無視して道楽でパラムンについて来たのかと思っていたが違ったようだ。


「知っての通り、俺には金が無いし今はイルハンの所に間借りしてる身だ。とても面倒見れない。彼女は狩人だし、裏手の森で一人でも暮らせるんじゃないか?冷たい事をいうようだが、彼女の部族自身が排他的な部族だったろう」

「あのあたりの森は地元民が神聖視している森じゃから狩りなんか始めたらすぐに叩きだされるか、最悪殺されるわい」

「むう、じゃああの森を外海まで切り拓いて港をつくるのか無理か?」

「そんなことを考えておったか!?提案した途端反乱が起きるぞい」


内海を通らず外海の航路を開拓して西方圏と東方圏を直接結ぶというのを西方王子らと模索していたが、エッセネ地方では無理そうだ。


「ねえ、エド。良かったらダーナさんはわたくしが引き取りましょうか?」

「何も貴女がそこまでしなくても。まだ気にされているんですか?」


コンスタンツィアが儀式に介入してしまったが為に部族を追い出され、ラリサでもトラブルになっていると聞いて居ても立っても居られなくなった。


「帝国にはね、『地獄への道は善意から始まる』という言葉があるの。善意だけで意図せぬ結果を引き起こす事もある。善意が善行という結果を導くまで責任を持ちなさいという言葉だけど、子供の頃は理解出来なかったわ。善意で為された事は許されると軽く考えていたの。でもわたくしの失敗をエドの善意が補ってくれた。やり直す機会が残っているのですから是非わたくしに面倒を見させて?」


アンの教育を放り出した結果を聞いて、最近セイラも落ち込んでいる。

コンスタンツィアもこれ以上の不幸は起きて欲しくなかった。


「コンスタンツィアさんの気持ちは分かりました。でもダーナは貴女が儀式に介入した事を知ったら怒ると思います。貴女はその怒りを受け止めたいと思うかもしれませんが、それは駄目です」


ダーナに自由は与えているものの形式上はエドヴァルドの奴隷となっている。もしダーナがコンスタンツィアに危害を加えたら帝国軍が今度はラリサを襲うかもしれない。


「そうね。確かにエドのいう通り、わたくしが少し浅はかだったわ」


落ち込むコンスタンツィアにエドヴァルドは少しフォローを入れる必要を感じた。


「パルナヴァーズ、これからラリサに戻ってダーナの意思を確認して欲しい。彼女が望むならイザスネストアス老師の館があるナツィオ湖の森で暮らすという手もある筈だ。爺さんも別に構わないというだろうし」

「うちも使用人いなくて困ってたからもし良かったら雇うよ?」


イルハンも口添えした。


「では、わたくしも生活費や帝国の暮らしが軌道に乗るようにお手伝いしましょう。長期間暮らすなら在留許可や市民権の問題もありますし」

「うむ。では帰りの船を早めて早速確認してこよう。では、今日の所は五法宮とやらの見学に参ろうか」


コンスタンツィアも心のしこりになっていた部分が解消されそうだと安心して再び歩み出した。エドヴァルドがたたっと走りその隣について雑談を始める。


「帝国にはそんな物騒なことわざがあるんですね。他にもあったりしますか?」

「あるわよ、『地獄が地獄を呼ぶ』というの。さっきの言葉に関連しているけど、疫病が広まる時、善意で助けようとしても却って広がる事になって、さらに被害は拡大していったりね。古代帝国の都が疫病で滅んだ時の事を指しているそうだけど、悪い事は連鎖し、過失はさらに拡大していくという注意喚起の言葉として知られているわ」


エドヴァルドとコンスタンツィアが親し気に話しているのを見て、帝都での友人だというイルハンにパルナヴァーズは尋ねた。


「もしかしてうちの若は彼女と特別親しい関係なのか?」

「ん-、随分年上のお姉さんだから遠慮してるけど惚れてるんじゃないかなー」

「うーむ、だとするとダーナを連れてくるのは不味いかな」

「どうしてです?」

「虐められていたのを助けられて慕っとるし、奴隷として若へ忠誠を尽くすように城の連中に教育されとるからのー。それに帝国のお嬢さん方を恨まんように教育しなおしておかないと危ないかもしれん」


※『地獄への道は善意から始まる』

地獄への道は善意で舗装されているということわざから


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2022/2/1
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