第26話 ソフィーとノエム
「え、コンスタンツィア様が子供が欲しがってるってほんとうなの~?」
「ええ、そうなんです。最近男の子の面倒みてたせいか急に母性に目覚めたみたいで」
「なーんだ。その子の赤ちゃんが産みたくなったわけじゃないんだ?」
ソフィーとノエムは同じ学科を選択する事が多いので頻繁に顔を合わせる。
前にも夜に飲んだり遊びに行った事もあるし、同グループ内でも特に親しい。
ソフィーは相手が気に入れば平民でもくったくなくボーイフレンドにするし平民派のノエムと相性が良かった。
「随分年下ですからね。気にはしてるみたいですけど、巡礼でお世話になったからだとか」
「愛に年齢なんて関係ないのよ、ノエム。ヴィターシャも大分年上のおじさんと付き合ってるんですからね」
「へー、いがーい」
一緒に勤めていたお店では年配客には冷たかった気がした。
「それよりここは応援すべきよ。これまで孤児院の男の子達の面倒見てきてもそんなこと言った事なんてなかったんでしょう?」
「そーいえばそうですねえ。でもまだ男としては見てませんよ。というか赤ちゃん扱いです」
「見させればいいのよ。もうコンスタンツィア様だって男の二人や三人いたっておかしくない年頃なのにまだ処女でしょ?」
「何人も相手がいるのはソフィーさんくらいですよ」
毎度のことながら呆れるノエムだった。
「だって一番いいオスの子を産みたいじゃない」
「貪欲ですねえ」
「一生の内に産める子の数には限度があるんだから、よりよい相手を選ばなきゃ」
「はいはい、じゃあコンスタンツィア様にはもっといい相手が現れますよ。田舎の国の第四王子よりももっとマシな相手がね」
「生まれの問題じゃないのよ。ノエム。だいたいコンスタンツィア様より上の相手なんて皇帝くらいしかいないのに、皇帝候補になりそうな相手とは結婚出来ないんだからどうせ下を見るしかないの。だいたいコンスタンツィア様が誰かにかしずいたりするもんですか」
「そうですねえ、でも結局受け入れるしかないんじゃないですか?」
歴史上にはコンスタンツィアのようなタイプは他にもいただろうし、若くして女王の地位についてから夫を迎えた者もいる。家庭は家庭で別物ではなかろうかとノエムは思った。
「あっまーい!コンスタンツィア様は絶対家庭でも夫を支配するタチだわ。で、男性優位主義の男と喧嘩して追い出すのよ」
「あー、じゃあ東方圏の王子なんか絶対駄目ですね」
女は男の財産扱いで、対等な人間とみなしていない地域だ。
「でも滅多にない機会よ。その男の子を調教して帝国流に洗脳してコンスタンツィア様好みの男にしてやるの」
「ははあ、まあ気位の高いコンスタンツィア様のお相手を探すより育てた方が早いかもしれませんね。で、コンスタンツィア様の好みってどんな人です?」
「え?ノエムも知らないの?」
「え?ソフィーさん、自分でいっといて知らないんですか?」
気に入らない相手でも受け入れなければならないコンスタンツィアの立場を慮って皆、あまりそこに触れようとしなかったうえ、大人になってからはそこまで突っ込んだ話題をしていなかったので二人とも知らなかった。
「ま、まあ今度様子を見に行きましょ。どんな子なの?」
「ヴィターシャさんによるとかなり強いらしいですよ。性格はいいって話は聞きませんが、私が見た所コンスタンツィア様には懐いてるっぽいですね」
「逞しいっていうのは合格ね」
「ソフィーさんの好みは関係無いでしょうに」
「そうじゃなくて、方伯家の家臣は信用できないもの。強い男が側にいてくれれば安心だから」
「ああ、ヴィターシャさんもそんなこといってました。じゃ、今度一緒に品定めに行きましょう」




