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荒くれ騎士の嘆き歌  作者: OWL
第五章 蛍火乱飛~後編~(1430年)
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第23話 怒るセイラ

「セイラ様、お話があります」

「何ですか、一体」


セイラの機嫌は悪い。

学内の人気で一、二を争う姫君だというのに、相対する車椅子の少年からは『クソアマ』だの『アバズレ』だのと呼ばわれ一顧だにされなかった。彼女の誇りが傷ついたのもあるが、女性への蔑視の視線が非常に不愉快だった。


エドヴァルドはイルハンに押して貰っていた椅子から、杖を頼りによろよろと立ち上がり、それから何とか無事な右足で体を支えて膝をついてセイラに頭を下げた。

折れている左足は膝まで痛めているので、無理な姿勢で脂汗が滲んでかなり辛そうだった。


「ちょ、ちょっと貴方。痛むのでしょう?座っていなさい」


人が出来ているセイラは憤慨しつつも怪我人をいたわった。


「いいえ。これも私の不徳が招いた事。どうか姫には失礼な態度を取った事をお赦し願いたい」


エドヴァルドは完璧な騎士の作法でセイラに申し訳なかったと詫びを言った。

事前にイルハンがこうすべき、と指導している。


「どういう事?もしかしてお兄様・・・フィリップ様との決闘を取りやめたくて私に取り入ろうというの?」


以前とうってかわった態度にセイラは困惑した。


「とんでもない。決闘は行います。フィリップ殿には約定通り私と同じように謝罪をして頂きます。それとこれは何の関係もありません」


分かるように説明して、といってもエドヴァルドは申し訳ないというのみ。

そこでイルハンが助け舟を出した。


「あのね、セイラさん。彼の国はセイラさんの出身地のイーネフィールと違ってあまり帝国の影響は受けていないんだ。東方圏で一番蒸し暑い地方なのに女性は決して異性に肌を見せない習慣があるの。エドはあんな経緯で学院に来たばかりでまだ諸外国の文化の違いとか、他の文化圏でも尊重するようにっていう一年生にされる訓示もきちんと受けてないの。だからね?セイラさんがあんまり魅力的だから刺激的な服装をされると困っちゃうの」


エドヴァルドはセイラや他の女生徒達もあまり目に入らないようにしていた。

それがまた女生徒達には傲慢で無視されていると映るので評判が悪い。

しかしながらエドヴァルドとしては出来るだけ紳士的に接しているつもりだった。


「そうなの・・・」


イルハンが話をしている間もエドヴァルドは左足を庇いながら姿勢を維持していたが、だんだんぷるぷると震えてくる。


「ちょっと、怪我がまだ辛いんでしょう?もういいわよ」

「では、お赦しを頂けますか?」


見上げる視線にセイラは半身をずらして、そっぽを向きながら片目で見下ろした。


「それとこれとは話が別。今は自分の立場が悪いから取りなして貰おうとしているようにしか見えないもの」

「いいえ、決してそのようなことは」

「じゃあ、お兄様との勝負がついてから改めて衆人環視の前で今と同じように私に謝れるの?」


帝国貴族の男子は校内で時々、膝を屈して女性に求愛している姿を見かけるが東方の男子には一人としていない。今のエドヴァルドの行動は同情を誘おうとしているようにみえ、自分の立場がマシになってから同じ事は出来まいとセイラは踏んだ。


そも東方の大君主の息子であるフィリップ自身が同性に対してさえ膝をおっての謝罪は拒んでいる。東方の男達にそんなみっともない真似が出来る筈がない。


しかし、相手の答えは違った。


「もちろんです。お許しが頂けるまで何度でも同じように謝罪すると誓います」

「誓う?誰に?」

「我が守護神トルヴァシュトラに。母と偉大なる我が神の名にかけて二度と女性に対して侮辱的な態度を取らないと誓います」


エドヴァルドはそこまで言ってからとうとう姿勢を崩して倒れ込んだ。


いたたまれなくなったセイラは、本当かどうかは決闘後に改めて聞くといってもう立ち去るように促した。


イルハンに車椅子へ戻して貰ったエドヴァルドは赦しが得られなかったので沈んだままその場を後にした。


 ◇◆◇


「あーあ、かわいそ。あそこまでしたのに」


東方男子って誇り高いんでしょ?とソフィアはセイラに尋ねた。


「うるさいなー。許さないとは言ってないでしょ。保留しただけ。だいたいね、東方男子は皆、調子が良すぎるの。歯の浮くようなセリフばかりで中身が無い。質実剛健な帝国男子とは大違いね」

「そんなのこっちでも同じだよ。調子がいいのは求愛の時だけ。ヤルことやったらポイだよ」


表面だけで男の性根なんて大差無いとソフィアは笑った。

セイラはフン、と聞き流し真に受けなかった。


「だいたいね、謝ったら許して貰える、許さなきゃいけないなんていう風潮が大嫌い。なんで被害者が罪悪感を感じなきゃいけないのよ。あんな奴一生後悔して苦しんでいればいい。それでようやく謝罪がなるというものだわ」


そう言い放ったセイラはこの後コンスタンツィアの訪問を受けて後悔する事となる。


セイラが責任もって面倒を見ると約束したアンを、手癖に悪さにうんざりして中途半端に教育を与えたままセイラは放り出してしまった。


それが海賊となり、エドヴァルドを油断させて背中から刺した挙句、誤ってエドヴァルドが崖下に突き落としてしまう結末となった。

妊婦を胎児ごと殺してしまった為、エドヴァルドは酷く後悔して苦しみ、荒れており、セイラにもその責任の一端があった。

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2022/2/1
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