第20話 決闘に向けて②
エドヴァルドがきこきこと車椅子を回して礼拝堂に入った時、そこにはコンスタンツィア、ヴァネッサ、ノエムの三人がいた。
何となく冷たい目で見られている気がする。
「え、なんです?」
「エドヴァルド君。君、セイラさんに暴言を吐いたってほんとう?」
「教師にも」
ヴァネッサも乗じて告げ口をする。
「セイラ?」
「イーネフィール公女で君の入学許可が降りるよう署名にも協力してくれた娘よ」
フランデアンと二重王国体制を取っている国の家臣の娘だと教えてやった。
「そういえばすっこんでろとか何とか言ったような」
「一言一句正確に言ってみて」
と、いわれても怒り交じりに怒鳴りつけたのでちょっと記憶に無いとエドヴァルドは逃げた。
「何にせよ恩知らずというほかないでしょうね」
エドヴァルドを虐めるネタが出来たとヴァネッサはほくそ笑む。
「健康ならお尻を叩いて戒めている所ですね」
ノエムがはたきでペンペンと叩く仕草をした。
「本当は覚えているんじゃないの?覗いてもいいかしら?」
「えっ」
コンスタンツィアは見ようと思えばエドヴァルドの頭の中身を覗けるが一応断わりをいれた。
「どうしたの?正確におっしゃい。もし嘘をついていたら元気になってからお尻ぺんぺんね」
「うぇえ、勘弁してください」
今の年齢でさすがにそれは嫌だ。
しかし相手は自分を本気で子供にみているのでやりかねない、エドヴァルドはどうにか答えるのを拒否しようとしたが、エドヴァルドを探しに来たイルハンが戻って来て暴露してしまった。
「そう・・・。お母様思いの貴方は男尊女卑の東方男子とは違うと思っていたのだけれど・・・残念ね。やっぱり女性を下に見ているのね」
「あー、いや、そのあれは男でも同じように引っ込んでろと言っていた筈で」
「おだまり」
コンスタンツィアは言い訳を許さなかった。ヴァネッサは笠に着てさらに便乗する。
「お姉様やレクサンデリ様がせっかく尽力して下さったのに恥をかかせないでください」
「んー、まあ下町の男の子なんてこんなものですよ」
「この子は一応王子でしょう」
ノエムはフォローしてくれようとしたが他二人は聞く耳を持たなかった。
「わたくしはね。貴方に立派な騎士になって貰いたいのよ。か弱い人々や女性を守り、誰からも尊敬される誇り高き騎士に。ゆくゆくはシセルギーテさんの代わりに近衛騎士になれるくらい立派な騎士になって欲しいの」
「はい、恩人に失礼な事をいってしまったと反省しています」
エドヴァルドは言い訳を諦めて反省の言葉を口にした。
「そうじゃないのよ。エド。恩人であろうとなかろうともう少し人の気持ちを理解して優しく労われる人になって欲しいの。貴方には出来る筈でしょう?」
「はい・・・」
「セイラさんはね、フィリップ王子を愛しているのよ。だから彼女がフィリップの肩を持つのは当たり前なの。でもね、前はフィリップが貴方の入学に反対していてもシュテファン君に頼まれて署名にも協力してくれたし、他の女生徒達にも頼み込んでくれてね・・・」
コンスタンツィアはくどくどと説教した。
「わかりました!今すぐ謝って来ます。おい、イルハン、行くぞ!!」
イルハンが動かしてくれるのを待たずに、自分で車椅子を反転させようとする。
「お待ちなさい」
コンスタンツィアはまだ聞く事がある、と止めた。
「貴方という子はちょっと目を離すとこれなんだから。ちゃんと勉学にはついていけているの?教授達を敵に回したら進級させて貰えないのよ。暴言を吐いた教授にもキチンと謝罪して受講態度を改めなさい」
「えーと、それもご存じなんです?」
「ええ、ヴィターシャが教えてくれたわ。多様な地方と年代が集まるうえに一年生はまだまだどんな生徒なのか情報が不足しているから貴方の学力を心配してあれこれ聞くのは当然なのよ。それを貴方ときたら・・・」
エドヴァルドは項垂れて話を聞いた。
「それにセイラさんが今どこにいるか分かっているの?」
「え?いえ・・・」
「あてもないのに出て行ってどうするの。彼女は今、女性用の舞踏場にいる筈だから行くならそこで待っていなさい」
「あ、はい」
「エド。ちゃんと謝れる?わたくしもついていってあげましょうか?セイラさんとは親しいからとりなしてあげる」
「そんな恥ずかしい真似できないって!じゃあ行ってきます」
イルハンもいつも一緒にいるなら注意してあげて、ととばっちりを食らって慌てて出て行った。




