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荒くれ騎士の嘆き歌  作者: OWL
第五章 蛍火乱飛~後編~(1430年)
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第17話 エドヴァルドの学院生活②

 エドヴァルドは皆の勧めで神学の講義を取った。

出席さえしていれば単位が貰えると評判だ。

下級生男子は体育が必須なのだが、エドヴァルドの状態では今年は取得できないので、見学だけして後に補講を受ける事になっている。


神学については出席さえしていればいいといわれたものの、最初のうちは真面目に話を聞こうとしていた。だが、やはり気疲れが多い新生活なのでどうしても疲労がたまり眠くなってくる。


「あー、かようにして我が帝国本土は大神ノリッティンジェンシェーレによって恵まれた土地となり、大地は潤い、豊作に恵まれ、人々は健康に、頑健に育ちました」


人類史の初期の頃は安定した食料供給と体格の差が戦争の結果に直結した。

各地の民族もそれなりに神々の恩恵を受けていたが、初代皇帝スクリーヴァと彼に率いられた民族の方が上手だった。

神学というより歴史の授業だったのでエドヴァルドは事前に十分学んでおり、退屈で眠い。


眠気を紛らわす為に、隣のイルハンにいう。


「あー、やっぱうちらの女どもが貧弱体型なのは土地が痩せてるせいか」


最初のうちは帝国人に破廉恥だとちょっと反発していたエドヴァルドも最近は見慣れて来たせいで凹凸のはっきりした体型を好ましく思い始めていた。

何といっても大地母神とはすなわち生殖と豊穣の女神なので、その恩恵を受けた帝国貴族の女生徒達は思春期男子にとって刺激的だった。


「ぺったんこでどうも済みませんね!」


イルハンは自分の事を言われたと思ってむすっとする。


「なんだ。女として扱って欲しかったのか?それならそうするぞ。俺を運ぶような力仕事はさせないし、メシも同席しないし、一緒に昼寝もしない、風呂も別々だ。家もすぐに出ていく。これからはイリーの事をお姫様だと思って大切に接する」

「あ、うそうそ。別に気にしてないから」


イルハンも一度は大切に扱われてみたかったものの、友人を失くすくらいなら今のままの方がいいと慌ててとりなした。


その私語を無視して神学教授は話を続けている。

みれば他の生徒達もまるでやる気がない。

皆、学院卒業後は神殿送りにされて厄介払いにされる次男坊三男坊か、単位の数合わせに話を聞いているだけの生徒達だ。


「かくしてアイラカーラとアイラクーンディア姉妹は太陽神モレスによって地獄へ封じられました。神々の世界に大乱を招いた罰としてかの姉妹は落ちて来た人々を管理するよう申しつけられました。これが地獄の女神が誕生した流れです。太陽神モレス、月の女神アナヴィスィーケ、そして五大神によって地獄の門が設けられて彼女達は永遠に地獄に縛られたのです」


エドヴァルドはほへーっと話を聞いていたが、眠気覚ましに一つ質問をした。


「先生、亡者ってのは地獄から溢れて出て来た連中だって聞きましたが、本当ですか?門があるのに出て来られるんですか?」

「七つの地獄門で封じられるのは神や神に匹敵する存在のみとされています。平民ら小さき存在はすり抜ける事があると伝えられています。それがいわゆる道に迷いし者、生ある世界と死の世界を行き来する亡者です」

「なるほど。じゃあ、地獄の管理者が出来る前はどうだったんですか?生と死の境はどうなっていたんですか?神が死の超越者で不死の存在なら生と死の境界線って実際には無いんですか?」


エドヴァルドは子供の頃のように矢継ぎ早に質問した。


「おお、良い質問です。君の名前は?」

「エドヴァルド。バルアレスのエドヴァルドです」

「うむ。エドヴァルドくん。主神がウートゥの体を分割し世界を三界に切り分けるまではそのあたりはかなり曖昧だったと思われる」

「思われる?」

「そうだ。神代も後期に人々が増え始めてやっと記録が残り始めたのでそれ以前の世界については想像するしかない。現象界においては我々の核たるものはこの肉体、そのさらに中心たるものは心臓、あるいは頭脳だが、感覚界においては精神、魂といったものが核となる。死後も魂となって地獄や天界を行き来するという事は感覚界での我々の本体は生や死といった概念からも外れるわけだ」


エドヴァルドは眠気覚ましで聞いただけなのだが、今まで質問してくるような生徒がいなかったので神学教授は喜んで話を続けた。どんどん専門的になっていくのでエドヴァルドはちんぷんかんぷんだ。


「えーと、つまり?」

「我々が真に死を迎える時は、三界での務めを終えて輪廻転生する時。その時こそが本当に死を迎えるということになる」


 ◇◆◇


 わかったようなわからないような話を聞いた後は自然科学の授業があった。

既に講義は大分進んでいるの今日は実験だった。


機材を準備していた教授はおもむろにエドヴァルドに問うた。


「あー、君。熱膨張はわかるかね?」

「それくらい田舎のガキでも知ってる!馬鹿にするな!!」

「そ、そうか・・・」


馬鹿にされたと感じていきなりキレたエドヴァルドに驚いた平民の教授はその後関わり合いにならないように避けた。


エドヴァルドからしてみると田舎の子供でも炊事仕事をするので熱した釜に冷水をかけてはならないだとか、一部の食材には穴をあけて膨張した空気を逃がさねばならない事くらい馬鹿でも知っている。

帝国人には田舎の人間を猿同然に見ている人間がいるのでついつい反発してしまった。


教授の方からすると相手の学力や背景がわからないので念のために聞いただけだった。思わぬ怒りを勝ったので彼はその後指導を怠った。


 そしてその講義の終わりにまだ高熱を保っていた実験器具を冷水で洗おうとしたカトリネルという王女がパーンと割ってしまい、びっくりして泣き出してしまったのだった・・・。

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2022/2/1
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