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荒くれ騎士の嘆き歌  作者: OWL
第一章 すれ違う人々(1425-1427)
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第19話 オルフィ・タルヴォ

 タルヴォとキャスタリスは意外と馬があった。

何かと混ぜっ返すタルヴォと、質問攻めにするキャスタリスの会話は尽きない。


「死なせすぎというが、それは非難されることか?俺が直接殺したわけじゃない。そもそも死なせて何が悪い」

「殺人は罪だ」

「何故罪になるんだ?法で決まってるからとかいうなよ」


タルヴォは何故法でそう定められているのかを問うている。

問われたキャスタリスはまなじりをあげた。意外に頭が回る相手だと判断した。


「死ねばあらゆる可能性が奪われる」

「では死刑は罪では無いのか?」


面倒がられて学者仲間でもなかなかキャスタリスには付き合ってくれないというのにタルヴォはさらに問うてくる。冤罪による死刑、そして生命や死、法を司る神ではなく人間が人間を裁くという行為は高慢であると帝国でも度々提議されていた。


「イナテアでは死刑は廃止されている」

「ここでは廃止されていない。死刑判決を下したものが自ら剣を振るって首を落とす。父上は罪人か?」


バルアレス国王ベルンハルトはしばしばエルニコア伯として、地元の首長からの訴えに応じて裁判にも出席する。そこで判決を下した場合、彼自ら剣を振るう。


「罪を負わない人間などいない」

「逃げたな」

「ふむ。おっしゃる通り、吾輩にとってもこの命題は容易に解決しがたい」


キャスタリスは唸った。


「それに死ねばあらゆる可能性は奪われるというが、死んだ事はあるのか?」

「無論ない」

「何故検証してもいないのに死ねば可能性が無くなるといえる?」


むむむ、とキャスタリスはさらに唸る。

自分で検証した場合、そこですべて終わってしまう。結果の確認が出来ないかもしれない。


「しかし、自分では検証できない故。観察するしかない。そしてその結果はゼロである」

「観察例が足りないんじゃないのか?亡者の確認例があるだろう?亡者の島ツェレス島や旧帝国時代の都の事だ」

「おお、確かに。それを失念していた。だが、生者の頃と亡者となった後が連続しているのだろうか。意識があると聞いた覚えがない」

「なら検証してくればいいじゃないか」

「そうしたいのは山々であるが東方行政府から通行許可が降りない」


同盟市民連合の共和派が帝都で反帝国活動をした事があり、彼らの移動の自由は制限されている。


そんなこんなでタルヴォとキャスタリスは頻繁にスーリヤの離宮で議論を重ねた。

まぁスーリヤにとっては迷惑な話である。


 ◇◆◇


 ある日タルヴォは王城でベルンハルトの代わりに守りについているアイラクリオ公ペデラティスから呼び出された。王妃カトリーナの父であり、タルヴォも苦手としている相手だ。


タルヴォの母親については諸説あり、ベルンハルトが手を出した下層の召使だとも、下級貴族だとも、カトリーナが首にした侍女であるとも言われている。

本当の母親は怒ったカトリーナが暗殺者を送って、疑わしい者を殺して回ったといわれている。その為、タルヴォも多くの人からとばっちりを受けたと存在自体を憎まれ、恨まれている。


ベルンハルトは不倫の相手が誰であるか明言せず、タルヴォを城に置いて育てさせた。アイラクリオ公としては娘の悪評が高まると自身に被害が及ぶのでずっと諫め続けて来たのであるが・・・。


「よく来たな、タルヴォ」

「さっさと用件を言ってくれ」


タルヴォは警戒して少し距離をとって話した。


「まずは礼を」

「礼?」


妙な事をいう、とタルヴォは思った。憎まれこそすれ礼を言われる間柄ではない。


「いやな。君のお陰で双子のおつきが減っただろう?」


アルシア王国派の騎士が闘技場で戦死した件だ。アイラクリオ公の関係者はいなかった筈だが、大騒ぎになったので当然経緯も知っている。今は彼が王都の最高責任者なのだ。


「事故だ。別に死んでほしかったわけじゃない。礼を言われる筋合いはない」

「そうか。報酬を提示しようと思ったのだが」

「報酬?」


タルヴォに収入は無い。

城に住んでいる間は寝食に困る事は無いが。自力で生きていける仕事は欲しい。しかし誰も関わり合いになりたがらないのでそれは叶わない。ゆえにエドヴァルドの所に入り浸っている。


「そう、報酬だ。君に領地を提供しようと思う。本来神殿に放り込んでいる年齢なのに陛下も君を手放さない以上、いずれ何かしら手当をするつもりだろう」

「それはそれは有難いこって。どこの誰が俺に自分の身代を削って領地を与えれくれるって?」

「シロス公だ」


いまベルンハルトと戦争中の相手である。


「どういうことだ?」

「彼も先祖代々の領地を受け継ぐ名家。諸侯からもぼちぼち仲裁されてはどうかと私の所に話しがあってな」

「フン、純血派の繋がりか。元締めは苦労するな」


純血派、つまり旧王朝、古代から続く貴族達の派閥である。シロス公も純血派なのだが、アイラクリオ公は王の義父であるので今回は味方しなかった。


「あまり長引かせて弱体化されても困るのでね。ここらで終わりにしたい。だが、何の罰も無しでは陛下は納得されないだろう」

「で、シロス公から領地を没収して俺に与えるってわけか」

「そう、君は実に頭がいい」

「馬鹿にしてんのか?お前らの陰謀に巻き込まれるのは御免だ」


タルヴォはすぐに応じなかった。

アイラクリオ公にとっては外国からやってきたクスタンスの血筋のレヴァンが邪魔なのだ。娘のカトリーナは長男を産んだが、病弱で王位を継ぐ事はあるまいとされている。


「巻き込まれる?首を突っ込んできたのは君だ。違うかね?今更引き返せるとでも?」

「俺が何をしたって・・・さては図ったな?」


騎士達がシセルギーテに対抗心を燃やしていたのが悪いのだが、結果をアイラクリオ公は最大限に利用した。タルヴォはエドヴァルドとよく連んでおり、クスタンスからはスーリヤ派と見なされてしまう。


「スーリヤ殿やエドヴァルド様に迷惑をかけたくなければ、もうクスタンス派を追い落とすしかないのだよ。分かるかね?」


アイラクリオ公は意図的にクスタンス派がタルヴォを憎み、スーリヤを憎むよう情報を流した。タルヴォはベルンハルトの後ろ盾がなければ王都にいられない。親しい人間も無く、惨めに追い詰められてクスタンス派に殺される。

そんな未来予想図をアイラクリオ公はタルヴォに説いた。


「だが結局のところギュスターヴが父上の跡を継げないならどうしようもないだろ?」

「あの子はもう健康だ。子供の頃の先入観から王位を継ぐにふさわしくないとされただけ。それに王位を継ぐのは孫でも構わない」


ベルンハルトはまだまだ若い。

ギュスターヴには既に子もあるし、アイラクリオ公は焦っていなかった。


「ま、くれるもんなら貰っておくぜ。俺は勿論エドヴァルドだって王位なんか望んでない。お前らのどっちが勝とうと関係ないからせいぜい巻き込まないで欲しいもんだな」


タルヴォはひとまずそういってアイラクリオ公の前を辞した。


 ◇◆◇


 アイラクリオ公の前では強がったものの、タルヴォは頼れる者が無い身。

つい話し相手が欲しくて可愛がっているエドヴァルドの所に行った。


「なあ、エドヴァルド」

「なあに?兄上」


クスタンスの子供達はタルヴォを兄とは呼ばない。

エドヴァルドはまだ幼いせいか、スーリヤの教育の賜物かタルヴォを兄と呼んでくれる。


「お前さ、俺と一緒に国を出たくはないか?」

「どうして?ぼくマーマと一緒にいたいな」


スーリヤに後見人はなく、エドヴァルドが王位を継ぐ事はないだろうとみなされて最近カトリーナやクスタンス本人からの嫌がらせは無かった。むしろシセルギーテを戦力として、帝国とも繋がりのある貴重な人材と評価している風すらある。


だが、事態は動き出してしまった。


「スーリヤ殿なら、帝都でも評判の舞姫だったんだ。ここじゃなくても生きていけるさ」

「父上は?」

「父上は王だぞ。ここに残る」

「じゃあ、ぼくはここにいるよ。マーマだってそういうもん」

「そっかー。そうだよなあ」


この可愛い弟がクスタンス一派に狙われないようにするにはもうアイラクリオ公らが勝つしかない。

タルヴォはそう考えた。


タルヴォらがアイラクリオ公派だと喧伝されてしまっては、権力を持たないタルヴォに勝ち目がない。逃げれば一人でも生きていける自信はタルヴォにはある。だが、エドヴァルドはまだまだ子供だ。

とうてい陰謀に太刀打ちできない。


タルヴォは開き直って心に野望を秘め地盤を固める決意をした。


が、早々に打ち砕かれる。


アイラクリオ公が講和の条件としてシロス公から領地を没収するつもりだったが、肝心のシロス公がベルンハルトに戦場で討ち取られ、本拠地も攻略されてしまったのである。

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2022/2/1
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