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荒くれ騎士の嘆き歌  作者: OWL
第五章 蛍火乱飛~後編~(1430年)
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第7話 ヴィターシャの情報収集

 ヴィターシャ・ケレンスキーも今年で三年目、学院でも大分顔が広くなった。

皇家の少年達にも片っ端からインタビューしており、今年の新入生も一通り見て回り早速コンスタンツィアの屋敷に報告に来た。


「今年はとうとうガドエレ家から本命候補が来ましたね。ロックウッド・クルツォラ・ガドエレ。もうというべきか、まだというべきか15歳ですが、レクサンデリ様のように既に商会を任されてかなりの成功を収めてから来たようです。ご当主ギッドエッド様の代では西方商工会と激しく敵対していたそうですが、ロックウッド様は彼らとの仲を修復させたようです。皇家の資産制限や課税強化の流れを妨げる事は出来ないとみて、外国勢との提携を強化する方針のようです」

「今のご時世だと皇帝候補としては相応しくないように思えるけれど」

「そこは理解されているようで公共事業への投資を拡大するようです。既に帝国海軍の新型船建造に向けて大規模な投資をされたとか。ご存じですか?例の少年達の事件の時、帝国海軍は海賊相手にかなりの被害を受けたそうです」


コンスタンツィアもその件は知っていた。

軍事委員も議事録に残さない事を条件に触れていたし、エドヴァルドの記憶を覗いた事でコンスタンツィアは直に確認している。


「海上交易を重視する彼らにとっては、どうしても必要になるから一挙両得という感じかしら」

「ですね。どうせ通商路の安全は確保しなければなりませんし、財政難で及び腰の政府も願ったり叶ったりじゃないでしょうか。ガドエレ家としても軌道に乗せてしまえば後は税金でやらせるだけですし」


ヴィターシャの見解に、コンスタンツィアは頷いた。


「したたかな人達ね。それで他には?」

「大物としてはラキシタ家のファスティオンですがまだ12歳です。以前話してみましたがどうも違和感があります」

「違和感?」

「ええ、ボロス様と同じような違和感です。帝都に出てくる前の成績はかなり優秀で傑物だとかいう噂でしたが、話してみると凡庸でした」


いくら質問しても打っても響かない応答なのだという。

才気渙発という評判の割にヴィターシャが話していても予測の範囲内かそれ以下の答えしか返ってこない。


「それでも唯一意外な返事がありまして」

「どんな?」

「歴史上のどの皇帝を尊敬しているかという質問で『全ての皇帝を誇りに思っています』なんて言ってきたんです」


それは確かに変だとコンスタンツィアも思った。

質問の意図が理解出来ないほどの愚か者なのか、わざと愚か者として振舞っているのか。


「カールマーン陛下のような方もいるのにね」

「ええ、そうです。他の方は皆、自家から輩出した偉人か、他家でも優れた業績を挙げた皇帝の名を挙げます。バンスタイン様なんてフォーンコルヌ家のセオフィロス帝の名を挙げていましたからね」


傍で聞いていたヴァネッサはよく意味がわからなかったので口を挟んだ。


「あのう・・・。当たり障りのない答えかと思いますが、そんなに駄目なんですか?」

「駄目。将来どんな皇帝になりたいのか、どんな施政で望むのかっていう質問なんだから外征主義と防衛第一主義じゃかみ合わないもの。積極財政なのか緊縮財政なのか、過去に例がないような皇帝を目指すならそれでもいいの。実際そういう風に答えた方もいるから。でもね相反するような方向性を持つような皇帝を列挙してたら適当過ぎるし、全ての皇帝なんて論外」


ヴィターシャは厳しく指摘した。


「はあ、そんなものですか。じゃあ、お二人のお眼鏡には叶わなかったという事ですね。でもヴィターシャさんから見て凡庸っていう評価なんだったらそんな答えでも仕方ないんじゃないですか?」

「凡庸だと思った方は他にもいたけど、ラキシタ家のこのお二人だけがこんな返事をしてきたのよ」


コンスタンツィアも納得したと頷いた。


「なるほどね。二人とも意図的に凡庸なフリをしていようとしてボロを出してヴィターシャに違和感を持たれちゃったのね」

「わざわざそんな事をするのは何か腹黒い事を考えている人達です。他のお坊ちゃんたちは割とわかりやすい所がありますが、それは自分に絶対の自信があるからです」


ヴィターシャは脳筋馬鹿のバンスタイン、技術馬鹿のグリンドゥール、正義馬鹿のユースティア、金融馬鹿のレクサンデリらの名を挙げた。


「皆、欠点はあっても旗頭としてついていきやすい人たちです。でも、あの二人は違います。以前、ボロスはマヤを助けてくれようとしていたから好感を持っていたんですが、こうなってくると慎重に距離を取った方が良さそうです。ファスティオンにコンスタンツィア様を紹介して貰えないかと頼まれましたがお断りしまた。よろしかったですか?」

「ええ、そうして。ヴァネッサも」

「わかりました」


こうしてコンスタンツィアは私邸の使用人に至るまで皇家、特にラキシタ家との面会拒否の方針を徹底させた。ヴァネッサは皇家の男子が近づいて来れば痴漢が来たといわんばかりの勢いで追い払った。


蛮族戦線でラキシタ家と敵対していたオレムイスト家はこれ幸いといわんばかりに政府の肩を持ち、世間に対してラキシタ家が息子を奪還する為に帝都へ攻め込んでくると恐怖を煽った。


 ◇◆◇


 新帝国暦1430年7月。

帝国政府は蛮族戦線から負傷、交代の為に帰路にあったラキシタ家の将兵が帝都近くを通過する際に危険視して彼らを軍団基地に拘留した。

表向きは治療の為の人道的措置である。

当然ながらラキシタ家は猛抗議をした。


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2022/2/1
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