第4話 続く難題➃
「話は聞かせて貰ったわ」
「コンスタンツィア、何故ここに。おい、ジュリア!」
レクサンデリはいつの間にか部屋の中にいたコンスタンツィア達を指して、入り口に立っていたジュリアに文句を言った。
「もともといらっしゃったようです。気付かずに申し訳御座いません」
「なんだと?私を嵌めてくれたわけか」
誰も聞いていない筈の会話を聞かれたのでレクサンデリはイルハンに文句を言った。イルハンはすまなそうに俯《うコンスタンツィアはあまり帝国貴族と親しくしていないが、アル・アシオン辺境伯や西方候からも気に入られ、北方候の娘や皇帝の寵姫とも個人的な関係がある。
家系が絶えたエイラシルヴァ天爵と追放された唯一信教大司教の分の選帝権二つは空席の為、議会が二人分を指名して毎回決める事になるが、コンスタンツィアは議員とも交流があり影響力を行使できる。
東西南北地方候の四票
辺境伯、ダルムント方伯の二票
現役の皇帝は二票分
天爵、大司教、宮廷魔術師長の三票
これらの票の多くに関与できる立場だ。
き、コンスタンツィアはそれを庇うように割って入る。
「わたくしが貴方達次期皇帝候補の人物を観ているのは知っているでしょう?ちょうどいいからお願いしたのよ。貧しい人からお金を巻き上げて契約で縛り付けるような人を皇帝にするわけにはいかないわね。お父様もアルビッツィ家の方針には批判的だし、庇いようがないわ」
コンスタンツィアはアル・アシオン辺境伯や西方候からも気に入られ、北方候の娘や皇帝の寵姫とも個人的な関係がある。
家系が絶えたエイラシルヴァ天爵と追放された唯一信教大司教の分の選帝権二つは空席の為、議会が二人分を指名して毎回決める事になるが、コンスタンツィアは議員とも交流があり影響力を行使できる。
選帝選挙の票は十一票あり、次の通りとなる。
東西南北候の四票
辺境伯、ダルムント方伯の二票
現役の皇帝は二票分
天爵、大司教、宮廷魔術師長の三票
彼女はこれらの票の多くに関与できる立場だ。
コンスタンツィアの反感を買う事は次期皇帝にとって望ましくない。
「まあ、待てコンスタンツィア。エドヴァルド君は貧乏人ではない。取れる所から取り、その分貧しい人には施しを与えるのが我々の使命だと考えている。これは非難されるようなものではないぞ」
「イルハンくんが言っていたでしょう。彼のお金は厳密には彼のものではないし、病気のお母上の為にあるって」
「おいおい、コンスタンツィア。我々の顧客が何千万人いるか知っているか?病気の母を助ける為なんて言い訳を信じて手を緩めていたらうちはすぐに倒産してしまうぞ。大勢が困った事になる」
支払いを待ってくれなんていう泣き言に耳を貸す気はないレクサンデリだった。
これまでにもそんな事を言ってくる人間は多数いたし、部下にも取り立てを緩めてはならないと命じてきたのに、自分が言を曲げる訳にはいかない。
「言い訳ではなく事実よ」
「事実であっても確かめようがない」
「あら、そう。実の所わたくしが全額今すぐ代わりに支払ってあげてもいいのだけれど本人ではないと出来ない手続きもあるそうじゃない?わたくしはね、どうにも気に入らないのよ。本人が賊に襲われてずっと昏睡状態だったのにその間の利子も取ろうという貴方がたのやり口が。弟さんの生命保険会社も随分と悪い噂が飛び交っているわ」
「感情的になるな。これはちゃんと契約通り、法律の範囲内でやっていることで我々が悪徳業者なわけではない。彼が昏睡状態だったとしても、うちの従業員はずっと仕事をしているし、給料を払ってやらねばならない。顧客の健康状態がどうあろうと利子は利子だ。法に不備があるのなら、それはむしろ議会や金融庁の怠慢だろう」
「ええ、そうね。ですからわたくしもリキニウス閣下達が準備中の皇家の資産制限に賛成する事にします」
財務大臣リキニウスと商務大臣セクスティウスの提案よって皇家の資産上限を決め、それを越えるものは帝国政府が没収するという過激な法案が準備されている。
免税特権も剥奪し、これまで荒稼ぎしてきた分は他の商社より税率をあげるという。
賛否両論だったが、皇家に恨まれる事を恐れて態度を決めかねていた議員も方伯家が立場を鮮明にすればあとに続く。
「なかなか君も狡いね」
「あら、金融庁はリキニウス閣下が監督されているのですもの、彼の職務権限の範疇でしょう。ああ、貴方が役所の怠慢だと言っていたとお伝えしておきます」
アルヴィッツィ家を責めるいい材料になるだろう。
コンスタンツィアを一緒にいた女性もレクサンデリを非難の目で見ている。
「皇家の立場を利用してここまで酷い真似をしているとは思いませんでした。貧しい者からは取らないという評判は金で掴ませて作り上げた虚像だったのでしょうか。我が国での活動に制限を加えないと国民が借金漬けにされて人身売買に遭ってしまうかも」
「これはこれはスナンダ様。どうかこの一件だけで我々への評価を改めないで下さい。我々はその日生きる金を持たぬ者に貸し出して命を繋いでいるのです。どうか浅慮だけはご勘弁願いたい」
レクサンデリはかなり分が悪い状況であると認めざるを得なかった。
女性ばかりに囲まれて皆、一様に非難してくる。感情的になっていて弁明にも耳を貸してくれる様子はない。
スナンダが敵に回ると彼女の婚約者の反感も買い裕福な南方王達との商売が滞ってしまう。弟達はレクサンデリの不始末を詰ってくるだろう。
「わかった、利子は無かった事にしよう。だが、それは口外しないでくれ。貸した金は必ず取り立てるという評判に傷がつく。我々が多くの従業員、顧客に対して責任を負う立場だという事を忘れないでくれ」
我も我もと利子や借金の帳消しを求められる訳にはいかない。
「いいでしょう」
「あとエドヴァルド君の入学についてもどうにかしてやろう」
「あら、どうしたの?急に。何かアテでも?」
「世の中を動かすものはやはり金の力さ」




