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荒くれ騎士の嘆き歌  作者: OWL
第五章 蛍火乱飛~前編~(1430年)
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第13話 渡航➃

「おう、お前らの処分が決まったぜ」


長い間牢で待たされていたがにやにやした顔の海賊の看守が入ってくる。

エドヴァルドはまた熱を出して倒れ、眠っていた。


「どこで解放して貰えるんですか?」


イルハンが尋ねると海賊はにやけ面のまま右手でイルハンを引き寄せ耳元で囁いた。


「ここだよ」

「えっ?」


海賊は左手に持った枯れ枝を突然イルハンのふくらはぎに刺した。

尖ってもいない枝だったが、柔らかいイルハンの肌をいとも簡単に突き破った。

激痛にイルハンが悲鳴を上げる。


「あああああっ!」

「おほっ。いい声だ。お前これまで泣きもしないで何でも受け入れてたからなあ。ずっと王子様をぶっ刺してひぃひぃ啼かせてやりたかったんだ」


海賊は刺した枝を引き抜いて、半ば折れているのを見るとぽいっと捨てた。枝の一部がイルハンの足に残り血が周囲に迸る。

悲鳴に驚いたエドヴァルドが跳ね起きたので海賊はイルハンを連れて牢を出て鍵を閉め直した。


「な、何をするんですか。こんな傷跡が残るような真似して・・・」


首を絞められながら引きずられて外に出されたイルハンは苦し気に呻き、海賊に問うた。人質を傷つければ交渉が打ち切られたり、後で報復が待っていると考えないのだろうか。


「気にしなくていい。ここで解放するっつったろ、この世からな。交渉は失敗だ。見捨てられちまったな。恨むんならそこの馬鹿を恨みな」

「エディを?何故・・・?」

「お前らが入って来た港で目撃者が多すぎてなあ、こいつを恨んでる奴もいるし。これ以上時間をかけられなくなっちまったのよ。お前らの親父さんがさっさと金払ってくれりゃあ良かったのによ」


イルハンは傷口を抑えながらやっぱりそうか、と観念した。

仮にも王子なら払えるだろうと相当ふっかけたのだろうけれど、国家の財政は赤字が続き。内海諸国だったら通じるような身代金額は外海では通じない。ここらの海賊にはそれがわからずふっかけすぎたのだ。


「帝国や、バルアレス王国が払ってくれるかもしれませんよ・・・?」


かすかな望みをかけてイルハンはそう話しかけてみた。


「ははは、もう頭領が決めちまったんだ。当分はカタギのフリして海運業に精をだすさ。さあて最後にもう一度可愛がってやる」


 ◇◆◇


 次にイルハンが牢に戻ってきた時にはまだ生きていたが、凌辱の跡が残っていた。これまで身に着けていた衣服も奪われて粗末な麻の服を被せられただけだった。体を丸めて泣いているイルハンにエドヴァルドはこれまで介護を受けて来た礼として服を脱がせて自分の服のすそを破き、体を拭いてやろうとしたのだが・・・。


「お前・・・誰だ?」

「イリィだよ・・・ずっと一緒だったでしょ」


グズりながら答えた。

容姿は変わらないが、男としてついているべきものがついていない。

昔、イルハンが立小便をしているのを見た事もあるし、何度も一緒に入浴した時に見たものがない。


「だって・・・お前、今のお前女の子じゃないか!」

「・・・うん。うちの国の守護神言わなかったっけ。ダナランシュヴァラ様、両性具有の神様」


死と再生の神、二面性を特徴とする神で男神としても女神としても神話が残っている謎の神だった。


「ご先祖様はその子孫なんだって。・・・だから時々ボクみたいな変なのが生まれてくるみたいなの。だからお父様はボクを見捨てたのかなあ・・・」


イルハンの場合、正確には両性具有ではなく男性周期と女性周期があって男性周期の時だけ人前で男らしい所を見せていたという。この症状が現れた王族は子供が作れないのでイルハンはいずれ廃嫡される。


「お前は変なのなんかじゃない。俺のダチだろ」


驚きはしたがエドヴァルドも祖先に神と交わった英雄を持つ王族の子、すぐに受け入れた。


「女の子でも?」

「イリーはイリーだよ」

「よかったあ」


イルハンは安心して目を閉じた。


「おいっしっかりしろ!」


意識を失ったと思ったエドヴァルドは慌てて揺すった。


「んん?大丈夫だよ。ちょっと休ませて・・・。今日は途中で服を奪われたら興味はそっちに移っちゃったみたい」


近々人質を処分すると決めた海賊は高価そうなイルハンの服を奪い取ってそれを求めて争っていた。


「お前、これまでも犯されていたのか?」

「・・・嫌な事聞くね。そうだよ。あいつら男の子でも女の子でも関係無かった。女性の海賊がいて気付かれたのが発端だったんだけどね」


女の状態なのがバレると海賊達は大事な人質である事も忘れて襲い掛かった。

それ以降は男でも女でも関係なく、むしろ面白がって凌辱を加えてきた。


「くそっ、御免な。気付かなくて」

「仕方ないよ、ボクが知られたくなかったんだからそれで良かったの。それにしてもあの服やっぱり神器だったんだろうね。ボクの体が今まで綺麗な状態で匂わなかったのはあの服のおかげ。着てる人間を清潔に保つみたい」


イルハンは汚れるからいいよと断ったが、エドヴァルドは出来るだけイルハンの体を拭いてやった。


「ありがと、あ、そうだ。これ隙を見て盗んで来たんだ」


イルハンが差し出した革袋の中にはエドヴァルドの魔石が入っていた。


「魔石だけあっても俺にはもう一度体に定着化させられない」

「ボクがやったげる」

「お前が?」

「うちの王族は芸術家肌だっていったでしょ。そういうの得意なんだ」


魔力持ちの芸術家には作品に己のマナを込めるものがいる。イルハンはその域には達していないが、マナの込められた物品と肉体を結びつける手法は心得ていた。


こうしてエドヴァルドは強引に牢を破る力を取り戻した。


「よし、お前が動けるようになったら脱出して連中を皆殺しにしてやる」

「やっぱり殺しちゃうの?」

「ああ、お前の復讐がどうとかは関係無いから気にすんな。どうせ海賊は全員縛り首だ」

「女性もいたけど」

「関係無い。むしろお前を陥れた奴だろ」


法は法だ。

海賊に加わった以上は全員処刑される。

そして怒ったエドヴァルドに法は関係ない。


 ◇◆◇


「何やってんだ、お前」

「ん?」


通路を歩いていた海賊が後ろからかけられた声に振り向くとエドヴァルドが立っていて、枝を手に持っていた。そしてそれを海賊の目玉に串刺しにした。


「ぎゃあああああ!」


悲鳴を上げてのたうち回る海賊の胸を蹴りつけ、呼吸出来なくさせたエドヴァルドはそのまま抑え込んだ。


「もう一本だったな」


エドヴァルドは容赦なくもう一本の枝を無事な方の目に刺した。

再び悲鳴が上がる。


「だ、駄目だよ。声を上げさせちゃ」


イルハンは海賊の腰から短剣を奪って喉を切り裂き絶命させた。

なよっちい美少年だと思っていたイルハンが意外に冷静に対処しているのでエドヴァルドは感心した。まぁ、庶民とは心構えが違うか、と得心する。


多少は頼りに出来ると思いエドヴァルドは彼の力も借りる事にした。


「もう遅い。鍵を取って他の牢も開けろ。お前は外に連れ出されてたんだからここの構造は俺より知ってるだろ。案内しろ」

「うん」

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2022/2/1
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