第12話 渡航③
海賊船は二隻いた。
大型の貨物船とは甲板の高さが違う為、乗り込むのに梯子をかけねばならなかったが、標的からの手引きのおかげであっさり侵入できた。
荒事に長けた一隻の船長が自ら乗り込み、もう一隻は待機していたが標的の貨物船は燃えてしまい、接舷していた一隻も同様にも燃え移ってしまった。
それを引き起こした少年は待機していた船長の船にも飛び乗って来て片っ端から海賊を薙ぎ倒し船長も捕らえた。
陽が昇った時、海面で元の貨物船から飛び込んで逃れた何人かの水夫の姿が見えた時、エドヴァルドは海賊を皆殺しにする方針を取りやめて救助させた。
「ああ、厄日だ。何でこんな事になっちまったんだ・・・」
「黙れ。さっさと皆を救助しろ」
エドヴァルドは高圧的に命令し哀れな海賊の膝を蹴り砕いた。
◇◆◇
「駄目です、王子様。帝都に行くには食糧も水も足りません。どこかに寄港しないと」
「じゃあ寄ってくれ」
「すいやせんがあっしらには分かりやせん」
救助出来たのは裏切者とは関係ないラザフ達下級水夫ばかりで航海士達はいなかった。困ったエドヴァルドは救助した水夫たちに縛らせた海賊の船長に尋ねた。
「おい、お前名前は?」
「う、ウォレスだ」
「じゃあ、ウォレス。近くの港までこの船を導け。主要都市がいい」
「いやなこった!そこで帝国海軍に引き渡すつもりだろ」
「当たり前だ」
どうせ縛り首になるだけだ、とウォレスは拒否した。
「王子様、じゃあこいつは港が見えたら海に放り捨ててやればいいんじゃないですかね」
ラザフがお互いの妥協点を模索すべきだとそう提案する。
「エドヴァルドでいい。どうせ国からは追放されたようなもんだ」
「じゃあ、エドヴァルドさん。どうですか?」
「まあ、いいだろ。お前は?」
「この膝じゃ泳げねえよ!」
「海賊だったらどうにかなるだろ。木片でも浮かべてやるからしがみついて後は勝手にしろ」
◇◆◇
海賊数名は港が見えた所で海に放り捨て、エドヴァルド達はどうにか港に辿り着いたのだが、そこは海賊が根城にしている町だった。
「畜生、騙された。あの野郎・・・」
どうも様子がおかしいなと思った時には、港の宿で海賊に取り囲まれてしまい仲間の水夫達を人質に取られてしまっていた。港に着いた時に当局に通報して一安心していたのだが、どうやらこの島の自治領の役人も海賊の一味だったらしい。
せっかく助けた水夫達を見殺しにする事もできずエドヴァルドも捕虜になってしまった。それから目隠しをされてまた船に乗せられどこかに島に移動させられる。
「どうすんだよ、もうマルタン自治領には寄れねえぞ」
「俺だって知らねえよ」
「殺すしかねえだろ。島の事も知られちまったし」
「頭領に確認してからだ。王子の身代金貰って海賊引退するんだろ」
「王子は一人で十分だ!」
海賊はギャアギャアと喚いていたが、どうやらすぐには殺さない方向で決着が付いた。ほっとしたのも束の間で魔石を奪われたエドヴァルドは全身のあちこちから血が滲んだ。
翌日、小舟に乗せられたエドヴァルド達は何処かの島の洞窟に連れ込まれた。
◇◆◇
「エディ、元気だしてね。きっと助けが来るよ」
「だといいけどな」
「帝都についたらいっぱいおいしいもの食べようね」
一応大事な人質なのでそれなりの扱いは受けていたが医療品は不足していた。
イルハンは血だらけで熱を出し始めたエドヴァルドの為に消毒薬や包帯を要求して甲斐甲斐しく世話をしてくれた。
海賊達がたむろしている町を知ってしまったので、解放されないのではとエドヴァルドは先行きを不安に感じていた。
「大丈夫だよ、きっと。何百も島があるんだから、通報したって逃げて捕まらないよ」
「よくわかるな」
「うちの国の東の沖にも島がたくさんあってね、よくあるんだ、こういうこと」
二人で小さな牢獄に閉じ込められやる事もないので今まであまり触れなかった生い立ち話などもするようになった。
「王子様が傭兵同然の帝国騎士になりたいって変なのって思ってたけど、そんなにお金ないんだ」
「お前の所もな」
「弟は一人だけど、姉妹はたくさんいてね。うちの国弱いから近くの大国に嫁がせるのに持参金たくさん要求されちゃうんだ」
「・・・だったらそんなにたくさん子供を作らなければいいのに」
「小さい内は無事に育つかわからないからね。仕方ないよ」
「達観してるなあ、お前」
エドヴァルドは父にも故郷にも、師にも見捨てられたといじけて自暴自棄になっていたが、年下の少年は前向きに帝都での新生活を楽しみにしていた。
「うちの国も昔は裕福だったみたいなんだけどさ。名馬の産地を隣国に取られちゃってね。他の国も調子に乗って領土を奪い始めて大変なの。弟が将来ボクの代わりに王として強く育ってくれるといいんだけど」
「そうか。俺も兄上が無事に父上の後を継いでくれればいいと思うよ。・・・ところでお前定期的に呼び出されてるが平気なのか?」
時々歩くのもやっとの風でよろよろと戻って来るので拷問でも受けているのかと心配したが、イルハンは気丈に振舞っていた。
「健康診断を受けてるだけだよ。身代金を得る前に死なないように。もともと体が弱かったからね」
「そうかぁ。お前は怪我してる俺よりぽっくり死んじまいそうだからな。にしても、うちの親父は身代金なんか払わずに無視するか自分で攻め込んできそうだなあ・・・」
「うちの国も貧乏だから海賊が満足する身代金が払われるかわかんないね。でも出る時は一緒に出ようね」
「おう」
ちらりと洞窟に作られた牢をみるが頑丈そうだ。魔石の力を借りられれば曲げる事も出来ただろうが、さすがに彼の素の力では難しそうだった。
どうしたものかとエドヴァルドは考え込む。
やっぱり他の水夫たちは見殺しにして戦うべきだっただろうか。
軍神トルヴァシュトラの教えには結果を気にせず戦士の本分を尽くせ、とある。
戦士ではない者の為に戦いを放棄して死ぬ機会を逃してしまった。
あの世でトルヴァシュトラに相まみえたら、あの時どうすべきだったか聞いてみよう。
栄養失調でぼんやりしているエドヴァルドを心配してイルハンは自分の食事も分けて元気づけた。




