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荒くれ騎士の嘆き歌  作者: OWL
第五章 蛍火乱飛~前編~(1430年)
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第11話 渡航②

 さんざん脅されたが、いざ乗ってみると水夫達はそんなにガラは悪くなかった。

過酷な生活でも食事にありつけるだけマシと考えているようだった。


「慣れって怖いねー。ボクなら絶対無理」

「イリーは一ヶ月持たずに死んでそうだなあ」


エドヴァルドは力仕事も手伝っているが、非力なイルハンは厨房仕事を主にしていた。それでも慣れない芋の皮むきだけでへとへとのようだ。


エドヴァルドも一張羅は背嚢はいのうにしまって擦り切れたボロの服で他の水夫達の仕事を手伝った。目立つ魔石は包帯でぐるぐる巻きにして隠しておいたが、つい力が籠ると異常な腕力が際立つ。


「すげえ力だな。俺ら10人と綱引きしても互角だなんてさすが王子様だ」

「遊びで使うような力じゃないから、これっきりだ」


帆を張る時、エドヴァルドの班だけ力が強すぎたので水夫たちは面白がって甲板で綱引きを行った。水夫たちに仲間として認められた方が安全だと考えたエドヴァルドは本気で彼らと勝負した。

魔石に魔力を充填する為に魔術師の協力が必要だが、今はイーデンディオス達がいないので自分で見様見真似で補給させている。

最低六年間保たせなければならないので、うっかり破損させるわけにはいかない。

一応学院で魔導騎士の課程に入れば、訓練用程度の力は与えられる筈だが帝国魔術評議会の評議員達が丁寧に作成してくれた魔石には及ばないだろう。


「じゃあ、今度は素の力で勝負しようぜ」


エドヴァルドと同室の水夫ブロディが酒樽の上にどしんと肘をついて勝負を持ちかけた。

意外といいものを食べているのか、腕が太い。


「おいおい、ブロディ。お前いくら何でも大人げないだろ」


12歳相手にと水夫の一人は窘めた。


「黙ってろ、ラザフ。生まれのおかげでこんな道楽してるこ狡いガキに舐められてたまるか」


ブロディは貨物船に乗り込んできたエドヴァルドの事情を知らないので好奇心からの道楽と断じた。そんなに生まれが良ければお供も連れずに乗り込むわけないのだが彼の小さな脳みそでは想像も出来なかった。


「分かった。相手をしよう」


エドヴァルドは負けたら負けたで水夫たちの自尊心も満たせるだろうから構わないと勝負に応じた。自分と領地の守護神であるトルヴァシュトラに加護を祈り、船長が面白がって審判役になった。



 ◇◆◇


「勝負あり。王子サマの勝ち」

「嘘だ!絶対こいつはまだなんか魔術使ってやがる!」

「ねえよ。みっともねえ。三回連続で負けておいて何言ってんだ」


船長は血のにじむエドヴァルドの手を指さして、ブロディを殴りつけた。

あんまり疑われたのでエドヴァルドは自分の手の甲にある魔石を抉り取って勝負してやった。魔石は肉体と一体化して力を増幅させる為、取り出すときはほぼ自分の体を抉り取るのに等しい痛みがある。


自分より遥かな大柄なシセルギーテに対抗する為に研究していた事やヨハンネスの『人体機能論』を読み、本人からも直接指導された事が役に立った。

腕力だけで勝負しようとするブロディと違って、エドヴァルドは全身を一つのバネのように扱い全身を捻って右腕に力を乗せて勝利した。


「軍神のご加護の賜物だ。ズルじゃない」

「クソっ」


ブロディは納得できなかったが、船長には逆らえず引き下がって荒れながら船倉に戻っていった。


船は出港から二週間後に内海の島で水と食料を補給し、また出港した。

船長は力仕事で役に立っている事と、ブロディと険悪になってしまったのでエドヴァルド達を少しマシな部屋に移動させてくれた。

負けず嫌いな性格で随分痛い思いをしてしまったが、エドヴァルドは他人に必要とされるのが嬉しく割と船旅を楽しんでいた。


 ◇◆◇


 嵐にも出くわさず船旅も順調に半ばまで来た所で事態は急変する。

深夜に突然海賊が乗り込んできたのだ。エドヴァルドが争う物音で目が覚めて廊下に出た時は既にそこかしこで争いが起きていた。

上級水夫達は椅子やらナイフやらを使って対抗していたが、海賊の持つサーベルで斬り伏せられていく。エドヴァルドの手持ちの武器は棍と護身用の短剣だけ。

振り回す広さはないが、突くには便利なので棍を持ち水夫達に加わって戦いに参加した。


戦い慣れしているとはいっても海賊たちは力任せで訓練もしていない。

エドヴァルドは海賊たちを次々叩きのめして、ひとまず船長室に向かった。


 ◇◆◇


 船長は航海士達と立て籠もっていたが扉を破られて突入されてしまっていた。

彼は戦いは素人であり既に腹を切り裂かれて息も絶え絶えだった。最期に自分を見下ろす裏切者達を憎しみの目で睨む。


「貴様ら・・・海賊とグルだったのか」

「そんなわけねえだろ。俺はもう8年もこの船で勤めてたんだぜ。長い付き合いじゃねえか」


ブロディは答える。


「だったら・・・何故こんな真似をする」

「解放してくれねえからさ。俺は孫が出来たんだよ。だが、娘婿が病気で死んじまった。もうこんな所にはいられねえんだ」

「俺にお前らを解放する権限なんかねえ、俺に文句をいうのは筋違いだ。・・・俺ァ・・・・・・・お前らの待遇を出来るだけ良くしてやってたのに・・・」


船長の傷は致命傷だったが、失血死するまではまだ時間がかかる。苦悶の声を響かせながらも矜持を保ち体を起こした。


「そうだな。だがよう、アンタはどうせ商会にクビ扱いにされて遺族に保険金は支払われねえ、あの世で俺の気持ちも分かるだろうさ。勝手に王子様乗っけて小遣い稼ぎして海賊に誘拐されちまったんだからよう」

「てめぇ・・・それで途中の島で海賊と接触しやがったな・・・」

「ま、そういうことさ」

「後悔するぞ・・・ここにいりゃあ飯にはありつけるし、孫にも金や手紙は送れたのに」


 水夫や貧しい市民では銀行口座は作れなかったが、商会の所属する組合や同郷会、手数料を取って庶民の送金を保証する金融組織はあり送金は可能である。


「ダラダラ話してんじゃねえよ」


海賊の一人がもう話は十分だと剣をズブズブと船長の心臓に突きこみ絶命させた。

船長を殺した海賊はブロディに問うた。


「船は確保した。王子サマは何処だ?」

「お前の後ろだ」


◇◆◇


 驚いて振り向いた海賊をエドヴァルドは思いっきり棍で頭をぶちのめした。

眼球が飛び出て脳まで破壊された海賊は一撃で死亡した。倒れた体はまだぴくぴくと指先が震えている。


「こ、殺しやがったのか?この坊主!」

「仲間は何人いる?」


ブロディや他の下級水夫たちは恐れて後退して部屋の壁を背にした。

海賊の三人はサーベルを構えて、エドヴァルドに答える。


「40人以上だ、投降しな王子サマ。王様が身代金出すまでケツを洗って大人しく待ってろ」


不意打ちに驚いたが、気を取り直した海賊はヘラヘラ笑ってサーベルを弄んだ。


「40回素振りすればいいのか。楽なもんだ」

「は?」


強がりでなくエドヴァルドは三振りで海賊を倒しきった。

残りもこの調子でいけそうだ。


海賊達は頭蓋骨を砕かれての撲殺なので死に方は皆悲惨だった。

脳漿のうしょうをぶちまけて、割れた頭、ピンク色の脳も覗いている。

ブロディ達はこの惨状を作ったのがまだ12の少年という事実に恐れおののく。

エドヴァルドの方は「本当に頑丈だな、この棍」としげしげと手に持つ棍を眺め、感心していた。魔石は外したままなので、多少魔力の恩恵はあるがエドヴァルドの実力だ。


「ひ、酷え事しやがる・・・」


ブロディの声でエドヴァルドは改めて裏切者達に目をやった。


「ブロディ、お前海賊とグルだったのか」

「うるせぇ!同じ事を何度も説明してやる義務はねえ!」

「同じ事?」

「うるせぇっつてんだろ!お前、この後どうするつもりなんだよ。本気で全員ぶちのめして船を取り戻す気かよ。一人じゃ操船なんか出来ねえぞ。漂流しておっちぬだけだ」

「そうだな、それも悪くないな。まあとりあえずお前は死ね。世話になった船長の恨みだ」

「なっ」


エドヴァルドは海賊のサーベルを足で拾い上げてブロディの喉を斬り裂き、ついで逃げる水夫の一人の背に投げつけて殺したが、もう一人は取り逃してしまった。

それで、船内の海賊達にエドヴァルドの場所を知られてしまう。

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2022/2/1
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